バレット食道に制酸剤と低用量アスピリン併用で中等度の効果

ASCOの見解

「バレット食道の患者は食道がんのリスクが高くなります。このような患者にとって、この治療法は、酸逆流性疾患の重篤な合併症や、食道がんを含むあらゆる原因による死亡のリスクを減少させ、副作用はほとんどありません。バレット食道患者はこの治療法を考慮して主治医に相談するべきです」とASCOエキスパートのAndrew Epstein医師は語った。

バレット食道患者において、高用量の胃酸抑制剤エソメプラゾール(ネキシウム)と低用量のアスピリンを7年間以上併用すると、高度異形成(前がん病変)や食道がんの発生リスクが中等度に低下し、あらゆる原因の死亡を遅らせることができるということが、ランダム化第3相試験の最新の解析結果から明らかになった。

これらの簡便な市販医薬品を使うことによって、こうした転帰の発生を遅らせることができると著者らは考えている。食道がんは珍しいがんだが、スクリーニングや治療が非常に難しく、診断から5年後に生存している患者は5人に1人(19%)である。

この成果は、本日の記者会見で取り上げられ、2018年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

「胸焼けする人は、バレット食道のリスクについて、このデータに基づいて主治医に相談すべきで、これらの医薬品を自己判断で服用してはいけません」と、アイルランド王立外科医学院副総長代理、英国国立医療技術評価機構の臨床顧問(Consultant Clinical Adviser)で論文主執筆者のJanusz Jankowski医学博士は述べた。「英国国立医療技術評価機構や諸外国の国立機関は、食道がん予防ガイドラインを作成する際にはこの研究結果を考慮してほしいと、私たちは考えています」。

食道がんとバレット食道について

食道がんは米国で診断されるがんの1%にすぎないが、世界の他の地域ではもっと多い。欧米諸国では、食道がんの中でも食道腺がんが最も多く、食道がん全体の3分の2を占める。食道がんは、世界のがんによる死亡原因の中で第7位である。

バレット食道は、慢性胃食道逆流症(GERD)や食道炎の患者の一部に発症するが、慢性的な胸焼けの症状がない場合もある。食道の内層が損傷すると、食道内層の扁平上皮細胞が腺組織に変化する。バレット食道患者は食道に腺がんが発生しやすいが、それでも食道がんの発生リスクは非常に低い。

欧米諸国の成人におけるバレット食道の発症率は2%でしかないと推定されているが、専門家は実際の罹患数はもっと多い可能性があると考えている。この疾患の患者は、一般集団と比べて食道がんのリスクがはるかに高いが、その絶対リスクは非常に小さく、生涯で発症する可能性は2%でしかない。

食道がんの80~90%はバレット食道の後に発生していると推定されているが、ほとんどの場合、バレット食道よりも先にがんが診断される。がんと診断される前に、内視鏡検査を適切に受けていなかったか、全く受けていなかったためである。先行研究では、標準用量のプロトンポンプ阻害剤で酸分泌を減少させると、バレット食道のがんへの進行を予防できるかもしれないことが示唆されている。さらに、観察研究から得られたエビデンスでは、アスピリンが食道がんを含む消化管がんの予防に有効であることが示されている。

この研究について

ASPECT試験では、バレット食道患者2,563人を4つの治療群にランダムに割付けした。

・高用量プロトンポンプ阻害剤エソメプラゾール
・高用量エソメプラゾール+低用量アスピリン
・標準用量(例えば低用量)エソメプラゾール
・標準用量(例えば低用量)エソメプラゾール+低用量アスピリン

主要評価項目は、何らかの原因による死亡までの時間、食道がんの診断、または高度異形性(前がん病変)の診断(3つの要因の複合イベント)だった。この解析は、患者がバレット食道を発症した年齢および罹患期間で調整を行った。

主な知見

患者の追跡期間の中央値は8.9年で、高用量エソメプラゾールは標準用量エソメプラゾールと比較して、複合評価項目に対する有益性が統計学的に有意であった(p=0.0459)。最も有効な治療は、高用量エソメプラゾールと低用量アスピリンの併用だった。

主要解析では、アスピリンなしと比べてアスピリンありに有益性は認められなかった。しかし、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の先行使用について打ち切りを行ったところ、弱い効果が認められた。

使用上の注意

これらの治療薬は概して安全であり、重篤な副作用は患者の1%からしか報告されていない。どちらの医薬品も一般に非常に安全であるが、この治療法を開始する前には注意が必要であるとJankowski氏は述べた。

プロトンポンプ阻害剤で最もよく見られる副作用は下痢である。心疾患患者は、これらの薬がさまざまな心疾患治療薬と相互作用する可能性があることに気をつけなければいけない。ほかにも、非常にまれではあるが、クロストリジウム・ディフィシル感染症や骨粗しょう症などのリスクもある。アスピリンの最も重篤な副作用は、アレルギー反応、胃出血、および脳出血(特に高血圧患者)などがある。さらに、別の非ステロイド性抗炎症薬をすでに服用している人はアスピリンを服用すべきではない。

次の段階

この試験は、バレット食道における化学予防についてのランダム化対照試験では最大で、追跡期間も最長であったが、さらに研究が必要だとJankowski氏は語った。この研究が行われたのは人口の大半が白人の5カ国のみだったので、この化学予防戦略が黒人やアジア人に同じように有効かどうかはわからない。遺伝的な祖先が治療の有効性に影響することがあるからだ。さらに、この試験の患者を追跡して、化学予防を9~10年間続けたら有効性がさらに高まるのか、それとも長期にわたる治療による副作用のリスクが高まるのかを明らかにしたいと、この研究グループは考えている。

本研究はCancer Research UKからの資金提供を受けた。

試験概要

疾患:バレット食道/食道がん

試験の相、種類: 第3相、ランダム化、化学予防

登録患者数: 2,563人

介入: プロトンポンプ阻害薬、およびアスピリン

主な知見: バレット食道患者において、高用量エソメプラゾールと低用量アスピリンを7年間以上併用すると、高度異形性または食道がんの発症リスクを中程度減少させることができるか、またはあらゆる原因の死亡を遅らせることができる。

二次的知見: なし

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 東海林洋子(薬学博士)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

食道がんに関連する記事

術前化学放射線+免疫療法薬チスレリズマブで食道がんの予後改善の画像

術前化学放射線+免疫療法薬チスレリズマブで食道がんの予後改善

放射線療法・化学療法・免疫療法薬の併用により、腫瘍を縮小させ手術を可能にすることができ、非外科的治療単独よりもはるかに生存率が向上する切除不能な局所進行食道がん患者において、放...
積極的サーベイランスが扁平上皮食道がん患者の手術回避につながる可能性の画像

積極的サーベイランスが扁平上皮食道がん患者の手術回避につながる可能性

食道がん、上咽頭がん、肺がんの治療の進歩ーASCOブレークスルー会議新しい治療法が生存とQOLの改善に役立つ食道がん、上咽頭がん、肺がんにおける新たな研究の進展を詳述す...
肺がん、食道がん、鼻咽頭がんの治療の進歩ー日本開催ASCOブレークスルー会議の画像

肺がん、食道がん、鼻咽頭がんの治療の進歩ー日本開催ASCOブレークスルー会議

米国臨床腫瘍学会 (ASCO) のブレークスルー会議では、臨床医、腫瘍学のリーダー、医療技術および研究の先駆者が一堂に会し、がん治療技術の最新イノベーションを活用して進歩を加速し、患者...
【ASCO2024年次総会】一部の食道がんでFLOT術前術後療法が新たな標準治療となる可能性の画像

【ASCO2024年次総会】一部の食道がんでFLOT術前術後療法が新たな標準治療となる可能性

ASCOの見解(引用)「切除可能な局所進行食道がんに対して、手術前にすべての補助療法を行うのと、手術前後に『サンドイッチ』補助療法を行うのとでは、どちらが優れた標準治療かについ...