術前化学放射線+免疫療法薬で食道がんの予後改善の可能性

放射線療法・化学療法・免疫療法薬の併用により、腫瘍を縮小させ手術を可能にすることができ、非外科的治療単独よりもはるかに生存率が向上する

切除不能な局所進行食道がん患者において、放射線療法・化学療法・免疫療法の3療法の併用により腫瘍が手術に適応しやすくなり、予後が有意に改善したことが、米国がん学会誌Clinical Cancer Researchに掲載された第2相臨床試験のデータから明らかになった。

「切除可能な食道扁平上皮がん(ESCC)の治療において、根治的切除が礎となることは明白です。しかし、自覚症状がなく早期発見が困難なため、診断時に病変が切除可能である患者は半数以下です」と、本試験の上級著者であり、中国中医科学院・北京協和医学院 食道・縦隔腫瘍学部長であるYin Li 医学博士は述べる。「我々が試験した術前補助療法(ネオアジュバント療法)は、当初切除不能であった腫瘍を切除できる状態にする可能性があり、患者に持続的な無がん状態を得る機会を与えるものです」。

化学放射線療法を単独で受けた患者の長期予後が芳しくない(Li 医学博士によれば5年生存率はわずかに約36%である)ことを考えれば、治療戦略の改善が切実に求められている。

免疫チェックポイント阻害剤は、単独療法・化学療法併用のいずれの場合も進行・再発・転移性ESCCの標準治療薬とされており、またネオアジュバント化学放射線療法後の完全切除後の術後補助療法としても承認されている。しかし、Li 医学博士の研究チームは、化学放射線療法に免疫チェックポイント阻害剤を併用することで、腫瘍のダウンステージと切除可能性の改善が可能かどうかを調査したいと考えた。

この可能性を検討するために、第2相臨床試験において18〜75歳までの患者が所属医療機関で登録され、3ステップの治療を受けた。ステップ1では放射線療法とnab-パクリタキセル(アブラキサン)およびシスプラチンによる化学療法を併用、ステップ2では免疫チェックポイント阻害剤であるTislelizumab[チスレリズマブ](販売名:Tevimbra)と化学療法を併用し、可能であればステップ3で手術を受けた。

登録された30人の患者のうち、5人は化学放射線療法の途中で治療を中止し、1人はその後の免疫療法薬の投与を受けず予定より早く手術を受けた。その後の化学免疫療法を受けた24人の患者のうち、4人が治療を中止し、19人が手術を受けた。全体として、20人の患者が手術を受け、完全切除が行われた。

この20人の患者のうち、19人は手術時に病理学的著効を示し、13人は病理学的完全奏効であった。最も重要なことは、手術を受けなかった10人の患者と比べて、手術を受けた20人の生存期間は、全生存期間・無増悪生存期間ともに有意に延長し、1年後の追跡結果時点では、死亡と病勢進行のリスクがそれぞれ82%と72%減少したことである。手術を受けた人の半数以上は、2年後も無病であった。

Li 医学博士は「我々の試験では、化学放射線療法・化学免疫療法・手術を併用することの有効性が、非外科的治療単独と比較して明確に示されました。私たちは化学放射線療法に免疫療法薬を追加することによる潜在的な効果を確信していましたが、顕著な病理学的完全奏効の結果と強力な生存成績は、私たちの予想をはるかに超えていました」と述べている。

この臨床試験では、再発のモニタリングも含めた治療経過を通じて、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いたリキッドバイオプシーも利用されており「これにより試験参加患者の分子的全体像と微小残存病変の軌跡に関する貴重な洞察を得ることができました」とLi 医学博士は話した。

この研究の限界は、治療中止例があったことも含めサンプル数が少ないことである。したがって、これらの知見を検証し、最適な治療順序を検討するための第3相試験の必要性を指摘している。

本研究は、Beijing Xisike Clinical Oncology Research Foundationおよび中国科学技術部基礎資源調査特別プログラムの支援を受けた。

  • 監修 吉松由貴(呼吸器内科/University of Greenwich, Queen Elizabeth Hospital)
  • 記事担当者 加藤千恵
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  • 原文掲載日 2024/11/15

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