積極的サーベイランスが扁平上皮食道がん患者の手術回避につながる可能性

食道がん、上咽頭がん、肺がんの治療の進歩ーASCOブレークスルー会議

新しい治療法が生存とQOLの改善に役立つ

食道がん、上咽頭がん、肺がんにおける新たな研究の進展を詳述する3つの重要な研究が、8月8日から10日まで横浜で開催された2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)ブレークスルー会議で発表

術前化学放射線療法に完全奏効した食道扁平上皮がん(ESCC)患者は、一定期間ごとに臨床奏効評価を行い、残存がん細胞や遠隔再発の有無をモニターすることで、手術を遅らせる、あるいは回避できる可能性がある。

食道扁平上皮がん(ESCC)は食道の内層を覆う細胞にできるがんである。米国ではESCCは食道がんの30%に過ぎないが、アジアでは最も多い食道がんのタイプである。アジアにおけるESCC診断は、全世界の食道がん診断数の約半数を占めている。

局所進行切除可能な食道扁平上皮がんに対する標準治療は、術前化学放射線療法とそれに続く食道切除手術である。しかし、食道がんの手術は重篤な合併症とQOL低下のリスクを伴う。特に食道腺がんでは術前化学放射線療法後に高い病理学的完全奏効率が観察されることから、真の完全奏効患者を正確に特定できるかどうかを明らかにすることが臨床的に必要であるが、そのニーズは満たされていない。preSINO試験は、残存病変を検出する診断検査によって術前化学放射線療法後の臨床的完全奏効患者を正確に特定できるかどうかを検討するためにデザインされた。

「私たちの研究は、術前療法後の食道扁平上皮がんの残存腫瘍を正確かつ安全に評価できるかどうかを論じるという点で重要です。われわれのpreSINO試験は、食道腺がんを対象として行われた欧州のpreSANO試験の方法をアジアの食道扁平上皮がんに適応し、精度を高めるためにctDNA検査を検討した。この研究は、食道扁平上皮がんに対する積極的サーベイランス戦略の適用を拡大し、治療法の最適化に役立ちます」と、筆頭研究著者である上海胸部病院胸部外科部長のZhigang Li医学博士は述べた。

本試験に登録された患者は食道扁平上皮がんと診断され、治療プロトコルに従って、まず術前化学放射線療法を受けた後、臨床奏効評価、食道切除手術を受けた。術前化学放射線療法終了後、患者は4〜6週目にbite-on-bite(バイトオンバイト)生検を用いた最初の臨床奏効評価を受けた。この生検でがん細胞が見つかった場合は、直ちに手術を行った。がんが転移していた場合は手術は行われなかった。

がん細胞や転移が認められなかった患者は、術前化学放射線療法後10~12週目に再度臨床奏効評価を受けた。これらの検査には、PET-CTスキャン、再度のバイトオンバイト生検、リンパ節の超音波内視鏡下穿刺吸引法が含まれた。PET-CT検査で遠隔転移が発見されない限り、これらの患者は全員手術を受けた。臨床奏効評価の際には、循環腫瘍DNA(ctDNA)の血液検査も行われた。

この研究では、術前化学放射線療法を受けた後に診断検査と手術を受けた250人の患者を対象とした。本研究の主要評価項目は、切除標本中の主要残存病変(TRG3-4、またはTRG1-2かつypN+)を検出するための診断検査の偽陰性率であった。主要残存病変を有する患者133人中、バイトオンバイト生検および超音波内視鏡下穿刺吸引法で発見されなかったのは18人であった。偽陰性率は13.5%であり、これは試験前に定めた主要評価項目を満たしていた。

研究者らはさらに、これらの検査が残存がん(非病理学的完全奏効)をどれだけ正確に予測できたかを評価した。バイトオンバイト生検と超音波内視鏡下穿刺吸引法では、82%の精度で残存がんが確認され、93%の確率で残存がんがないことが正しく確認された。

この研究ではまた、臨床奏効評価の際にctDNAを検査することが、術前化学放射線療法および手術後の遠隔再発の予測に有用かどうかについても検討した。ctDNA検査が陽性であった75人の患者のうち、21人(28%)が遠隔転移を発症した。ctDNA検査が陰性であった57人の患者のうち、遠隔転移を発症したのはわずか3人(5%)であった。

全体として、バイトオンバイト生検および超音波内視鏡下穿刺吸引法は、局所残存がん細胞を正確に検出することができた。ctDNAは、全身性残存病変のリスクが高い人を予測する有望な可能性を示した。

「preSINO試験は、食道扁平上皮がん患者における術前化学放射線療法後の臨床奏効評価の重要性を示す新しい前向き試験である。PET/CTとバイトオンバイト生検、およびctDNAに基づく微小残存病変検出を組み合わせることで、遠隔転移リスクの高い患者を特定する精度が向上することが示され、臨床医が治療を段階的に増加させるか減少させるかを決定する際に役立ちます」とバンガロールのアポロ病院腫瘍内科医Vishwanath Sathyanarayanan医師は述べた。

上記の情報は、抄録196 「食道扁平上皮がんに対する術前化学放射線療法後の残存病変の検出精度(preSINO試験):アジアにおける前向き多施設診断コホート研究 」の要約である。抄録を見る(原文)

  • 監修 小宮武文(腫瘍内科/Penn State College of Medicine)
  • 記事担当者 山田登志子
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2024/08/05

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