【ASCO2024年次総会】一部の食道がんでFLOT術前術後療法が新たな標準治療となる可能性

ASCOの見解(引用)

「切除可能な局所進行食道がんに対して、手術前にすべての補助療法を行うのと、手術前後に『サンドイッチ』補助療法を行うのとでは、どちらが優れた標準治療かについて、かなりの意見の相違がある。ヨーロッパで行われたこのランダム化臨床試験は、試験に登録された患者と同様の患者にその答えを与えるものだ。術前+術後化学療法の方が良い転帰をもたらすのである」。- Jennifer Tseng医師、公衆衛生学修士、ボストンメディカルセンター(マサチューセッツ州ボストン)

研究要旨

テーマ局所進行食道腺がん 
対象者ドイツ全土の25施設から手術が可能な局所進行食道腺がん患者438人
主な結果FLOTプロトコール(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)による手術前後の化学療法は、CROSSプロトコール(放射線照射41.4Gy、カルボプラチン、パクリタキセル)による手術前の化学放射線療法と比較して、切除可能な局所進行食道腺がん患者の生存期間を改善し、長期生存に役立つ。 
意義・現在、切除可能な局所進行食道がんに対して、両方の治療法が標準治療とされており、長期生存の転帰も同程度である。患者がどちらのプロトコールを受けるかは、治療を受ける施設によって異なることが多い。
・今回の知見は、国内外の食道がん治療ガイドラインに影響を与える可能性がある。現在、両方のプロトコールがガイドラインで推奨されている。

手術で治療可能な局所進行食道腺がん患者において、手術前後の化学療法は手術前の化学放射線療法と比較して生存期間を延長した。本研究は、5月31日から6月4日までイリノイ州シカゴで開催される2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

研究について

第3相ESOPEC臨床試験では、手術で治療可能な局所進行食道腺がんに対する2つの治療戦略を比較した。CROSSプロトコールは手術前に化学放射線療法を行う治療法であり、FLOTプロトコールは手術の前後に化学療法を行う治療法である。合計221人の参加者がFLOT群に、217人の参加者がCROSS群に無作為に割り付けられた。試験参加者の年齢中央値は63歳で、89%が男性であった。食道がんと診断される患者の約70%は男性である。

主な知見

  • 全試験参加者のうち、403人が何らかの治療を開始し、371人が手術に進んだ(FLOT群191人、CROSS群180人)。
  • 術後90日以内に4.3%(FLOT群3.2%、CROSS群5.6%)が死亡し、追跡期間中央値55カ月後には218人(FLOT群97人、CROSS群121人)が死亡した。
  • 全生存期間中央値はFLOT群で66カ月(5年6カ月)、CROSS群で37カ月(3年1カ月)であった。
  • 3年後の死亡リスクは、FLOT群の方がCROSS群より30%低かった。3年全生存率はFLOT群で57%、CROSS群で51%であった。
  • 腫瘍の退縮状態が判明した359人のうち、病理学的完全奏効が得られたのはFLOT群で35人、CROSS群で24人であった。

「欧米では多くの患者が現在でもCROSS放射線化学療法プロトコールによる治療を受けています。長期の腫瘍治癒の可能性を最大限に高めるために、切除可能な食道がん患者は手術の前後にFLOT化学療法を受けるべきであると、われわれの研究は示しています」と、研究の筆頭著者であるJens Hoeppner医師、FACS、FEBS(ドイツ、デトモルト、ビーレフェルト大学、University Medical Center OWL)は述べた。

次のステップ

研究者らは、FLOTまたはCROSSプロトコールによる治療で病理学的に完全奏効を示し、積極的サーベイランス期間中に増殖が認められなかったがん患者で、手術を回避できるかどうかを検討する。積極的サーベイランスとは、がんが再発したかどうかを、血液検査や放射線画像検査などの検査を定期的に行って監視することである。手術が回避されれば、食道は温存され、患者の生活の質は向上する。

この研究は、ドイツ研究振興協会(DFG)の助成を受けて行われた。

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  • 監訳 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
  • 翻訳担当者 坂下美保子
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  • 原文掲載日 2024/06/02

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