食道がんに免疫療法薬チラゴルマブ+アテゾリズマブ併用療法

米国臨床腫瘍学会(ASCO)

ASCO専門家の見解

「世界中の食道がんの多くは食道扁平上皮がんです。この第3相試験は、新しいチェックポイント阻害薬であるtiragolumab[チラゴルマブ]を使用した、二つの免疫療法薬+化学療法併用が、安全性を損なうことなく無増悪生存期間および全生存期間を改善することを示しています」とASCO専門家のPamela Kunz医師は述べた。

試験要旨

目的進行食道扁平上皮がんに対する一次治療としての免疫療法薬併用+化学療法
対象者アジア5カ国の患者461人
主な結果二つの免疫療法薬+化学療法は進行食道扁平上皮がん患者の生存期間を延長する
意義・食道がんは世界で8番目に多いがんであり、そのうち食道扁平上皮がんが最も多く(食道がん全体の80%以上)、全世界の食道扁平上皮がんの約半分を中国が占めている。

・切除不能または転移を有する局所進行食道扁平上皮がんの予後は一般に不良であり、5年生存率は5%と低い。

・進行食道扁平上皮がんに対する全身療法としての標準的な一次治療は現在、チェックポイント阻害薬+プラチナ製剤ベースの二剤併用化学療法であるが、転帰改善のためにさらなる治療戦略が必要である。

・新規のがん免疫療法薬として、TIGIT標的薬が複数のがん種でさかんに研究されている。チラゴルマブはヒト抗TIGITモノクローナル抗体であり、他の免疫療法薬と併用すれば抗腫瘍効果が高まる可能性がある。

・SKYSCRAPER-08は、進行食道扁平上皮がんに対する一次治療として、化学療法単独の場合との比較におけるチラゴルマブ+アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)+化学療法併用の有効性および安全性を検討したはじめての第3相試験である。

新しい第3相試験の結果、転移または局所進行食道扁平上皮がんのアジア人集団において、一次治療としてPD-L1阻害薬+TIGIT阻害薬と化学療法とを併用することにより、生存期間が延長することが明らかになった。この治療法の併用は、がんと闘う身体の能力を高める可能性があり、結果として、外科的に切除不能な、または身体の他の部位に転移を有する食道扁平上皮がんの転帰を改善する可能性がある。この研究は、2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)消化器がんシンポジウムで発表される(1月18日〜20日、カリフォルニア州サンフランシスコ)。

試験について

「食道扁平上皮がんは、睡眠障害、体重減少、不安や抑うつ、疼痛、嚥下困難といった症状の発現など、患者の機能やQOLに多大な影響を及ぼします。食道がん患者の人口統計に鑑み、本研究ではアジア人集団に焦点を当てました」と、研究筆頭著者である国立台湾大学病院(台湾台北市)のChih-Hung Hsu医学博士は述べた。

SKYSCRAPER-08試験は、切除不能な局所進行食道扁平上皮がん、切除不能な再発食道扁平上皮がん、または転移を有する食道扁平上皮がんの一次治療として、T細胞免疫グロブリンおよびITIMドメイン(TIGIT)阻害薬チラゴルマブ+プログラム細胞死タンパク質1(PD-L1)阻害薬アテゾリズマブに化学療法を併用した場合の有効性と安全性を、プラセボ+化学療法と比較して評価した。中国本土、韓国、タイ、台湾、香港の67施設で461人の患者が登録された。主要評価項目は、独立判定機関が評価した無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)であった。

主な知見

このランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、229人が免疫療法薬併用+化学療法群に、232人がプラセボ+化学療法群にランダムに割り付けられた。

  • 最短6.5カ月の生存追跡調査後、独立判定機関の評価によるPFS中央値は、チラゴルマブ+アテゾリズマブ+化学療法を受けた患者で6.2カ月であったのに対し、プラセボ+化学療法を受けた患者では5.4カ月であった。
  • 最短14.5カ月の生存追跡調査後、OS中央値はチラゴルマブ+アテゾリズマブ+化学療法群で15.7カ月であったのに対し、プラセボ+化学療法群では11.1カ月であった。
  • 全体として、治療に関連した副作用は両治療群の98.2%に発現した。両群でみられた副作用の多くは化学療法に関連したものであった。
  • チラゴルマブ+アテゾリズマブ+化学療法群で特筆すべき副作用は、免疫介在性発疹(38.6%)、免疫介在性肝炎(35.1%)、免疫介在性甲状腺機能低下症(17.5%)、輸液関連反応(17.5%)、免疫介在性肺炎(7.5%)であった。特に注目すべき副作用の多くはグレード1または2であり、容易に対処可能であった。

次のステップ

局所進行食道がんに対して、標準化学放射線療法後の維持療法としてのチラゴルマブ+アテゾリズマブ併用療法、および術前の化学放射線療法とチラゴルマブ+アテゾリズマブとの併用療法を検討する研究が進行中である。

本試験はF. Hoffmann-La Roche LtdおよびGenentech Inc.から資金提供を受けた。

  • 監訳 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2024/01/16

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