胃/胃食道接合部がんに対するペムブロリズマブの承認をFDAが修正
米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ
注:この記事は2023年11月21日に更新され、HER2陰性の胃/胃食道接合部がんに対するペムブロリズマブ+化学療法の食品医薬品局(FDA)による承認を反映している。
食品医薬品局(FDA)は、進行胃がん/食道胃接合部(GEJ)がんの一部の患者に対する治療における免疫療法薬ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の2021年迅速承認の内容を修正した。
当初の承認は、進行したHER2陽性(腫瘍にHER2タンパクが過剰発現している)胃がんまたは食道胃接合部がんの患者に対する、トラスツズマブ(ハーセプチン)と化学療法との併用でのペムブロリズマブの使用を対象としていた。
11月9日に発表された承認更新によれば、ペムブロリズマブは、別のタンパクであるPD-L1も高レベルで発現している上記がん患者に対してのみ使用可能となった。PD-L1のレベルはCPS(複合陽性スコア)と呼ばれるスコアを用いて決定され、今回の修正承認は腫瘍のPD-L1 CPSが1以上の患者を対象としている。
当初の承認に対する変更は、KEYNOTE-811と呼ばれる大規模臨床試験の最新結果に基づいており、ペムブロリズマブは腫瘍のPD-L1発現レベルが高い(PD-L1陽性)参加者のみに有効であることが示されていた。この試験の参加者の約85%がPD-L1陽性腫瘍であった。
トラスツズマブと化学療法へのペムブロリズマブ追加によって、無増悪生存期間(病状が悪化することなく生存する期間)が改善したが、この改善には腫瘍がPD-L1陽性であった参加者のデータのみが寄与している。
実際、PD-L1がまったくない、あるいはほとんどない試験参加者のうち、ペムブロリズマブを投与された患者は、トラスツズマブと化学療法のみを投与された患者よりも予後が悪い傾向にあった。KEYNOTE-811の最新結果は、10月20日にマドリッドで開催された欧州腫瘍学会(ESMO)年次総会で発表され、同日Lancet誌に掲載された。
今回の知見は、HER2陽性の胃がん/食道胃接合部がん患者にとって10年以上ぶりの有意義な改善であると、本試験の治験責任医師であるYelena Janjigian医師(ニューヨーク、スローンケタリング記念がんセンター(MSKCC))はESMO会議で述べた。
Janjigian医師は「生存期間に改善がみられたことに非常に満足しています」と述べた。トラスツズマブと化学療法へのペムブロリズマブ追加によって、「一部の患者の生活は一変するでしょう」とも述べている。
HER2に続く生物学的標的はPD-L1
HER2を標的とするトラスツズマブや他の薬剤は、乳がんの治療に一般的に使用されているが、過去10年間の研究で、胃がんや食道胃接合部がん(食道と胃の接合部に発生する)を含む他のがんでもHER2が過剰発現していることがわかっている。進行胃がん患者の約15%、進行食道胃接合部がん患者の約30%がHER2陽性である。
2010年、大規模臨床試験において、化学療法へのトラスツズマブ追加により、HER2陽性の胃がんまたは食道胃接合部がんの患者の生存期間が大幅に改善した。このがん種において生存期間の改善が数十年ぶりにみられた試験となった。ほどなくして化学療法へのトラスツズマブ追加はHER2陽性胃がん/食道胃接合部がんの標準治療となった。
HER2陰性胃/胃食道接合部がんに対してもペムブロリズマブと化学療法の併用療法を承認 11月16日、HER2陽性疾患に対する承認を修正した1週間後、食品医薬品局(FDA)は、HER2陰性の進行胃がんまたは食道胃接合部がん(GEJ)患者に対する初回治療として、ペムブロリズマブと化学療法の併用を承認した。 今回の承認は、ペムブロリズマブ+化学療法と化学療法単独を比較したKEYNOTE-859試験の結果に基づいている。全体として、ペムブロリズマブ投与群では全生存期間中央値が11.5カ月に対して12.9カ月とわずかに改善した。治療開始後2年の時点で、ペムブロリズマブ投与群の28%が生存していたのに対し、化学療法単独群では19%であった。 ペムブロリズマブによる全生存期間の改善は、腫瘍のPD-L1レベルが高い参加者でより大きかった。腫瘍のPD-L1レベルが最も高い(CPS 10以上)参加者(試験参加者全体の約3分の1)では、全生存期間の中央値が15.7カ月であったのに対して、参加者全体では10.8カ月であった。 本承認では、ペムブロリズマブと化学療法(フルオロピリミジンとプラチナ製剤の両方)の併用は、腫瘍のPD-L1レベルに関係なく使用できる。 |
それ以降、HER2陽性の胃がん/食道胃接合部がんの治療法において実質的な進歩はなかった、とJanjigian医師はESMO総会で述べた。しかし、HER2陽性がんはHER2標的療法に対してどのように耐性を獲得するかなど、HER2陽性がんの根底にある生物学的性質の理解は進んでいる。
例えば、MSKCCのJanjigian医師ら研究グループによれば、HER2陽性の胃/食道胃接合部腫瘍は、トラスツズマブによる攻撃を長期間受けると、PD-L1を含む他の複数のタンパクのレベルを上げ始めることがわかっている。PD-L1は免疫チェックポイントと呼ばれるタンパク質ファミリーに属するが、腫瘍での主な役割は、免疫系から腫瘍を守ることである。
ペムブロリズマブは免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤群の一つである。ペムブロリズマブは、免疫細胞によるがん細胞攻撃を抑制するPD-L1の機能を阻害することによって作用する。胃/食道胃接合部がんにおけるPD-L1の明らかな役割によって、これらのがん患者を対象としたペムブロリズマブの最初の臨床試験に拍車がかかった、とJanjigian医師は説明した。
数年前に発表されたKEYNOTE-811の初回結果では、トラスツズマブと化学療法に加えてペムブロリズマブを投与された進行がん患者の70%以上で腫瘍が縮小し、時には完全に消失したことが示された。それから間もなく、FDAは最初の迅速承認を発表した。
PD-L1レベルによる違い
KEYNOTE-811への600人近い参加者は、トラスツズマブと化学療法(多くの場合、CAPOXと呼ばれるレジメン)を受ける群と、それらの治療に加えてペムブロリズマブを受ける群に無作為に割り付けられた。参加者の大半は白人、65歳未満、男性、胃がんであった。ペムブロリズマブを製造するMerck社が試験に資金を提供した。
現在までの参加者の追跡調査(中央値ほぼ40カ月)によると、ペムブロリズマブ投与群全体における無増悪生存期間中央値の改善はわずかであった。しかしながら、腫瘍のPD-L1レベルが高い参加者では、ペムブロリズマブによる改善はより明確であった。(表参照)。
さらに、統計学的確実性を高めるためには、試験参加者をより長く追跡する必要があるが、これまでのところ、ペムブロリズマブを投与された参加者の方が全体として生存期間が長いこともわかっている。
ESMO2023で発表されたKEYNOTE-811の追跡調査結果
結果 | ペムブロリズマブ+トラスツズマブ+化学療法 | トラスツズマブ+化学療法 |
無増悪生存期間(群全体) | 10.0カ月 | 8.1カ月 |
無増悪生存期間(PD-L1陽性) | 10.9カ月 | 7.3カ月 |
全生存期間(群全体)* | 20.0カ月 | 16.8カ月 |
全生存期間(PD-L1陽性)* | 20.0カ月 | 15.7カ月 |
* 全生存期間解析は未了
Janjigian医師によれば、全生存期間の解析はまだ最終的なものではないとのことであるが、腫瘍のPD-L1レベルが高い患者については、これまでのところ有望な傾向である。
対照的に、PD-L1レベルが低い試験参加者においては、最新データでペムブロリズマブ群で生存不良という結果であった。PD-L1レベルの低い患者での結果は、ペムブロリズマブの追加は益よりも害の方が多い可能性を強く示唆している、とFlorian Lordick医師(ドイツ、ライプチヒ大学がんセンター)はESMO総会で述べた。
「そういうわけで、PD-L1陰性である[HER2陽性]患者にペムブロリズマブを投与してはいけません」とLordick医師は述べた。
ペムブロリズマブの追加でみられた副作用は、免疫チェックポイント阻害薬治療で通常認められる副作用とほぼ同じであり、肺や大腸の炎症のような免疫関連の問題などであったとJanjigian医師は述べた。
重篤な副作用はペムブロリズマブ群でやや多くみられ、各治療群で数人の患者が治療に関連した副作用により死亡した。
患者ケアの変更、より多くの答えの追究
英国ケンブリッジ大学病院のElizabeth Smyth医師とシンガポールの国立大学がん研究所のRaghav Sundar医師は、Lancet誌の付随論説で、全生存期間の最終的な結果はまだ得られていないが、現在までの結果には説得力があると述べている。
腫瘍PD-L1高値の患者における全生存期間は、本試験の主要評価項目には含まれていないことを認めつつ、「(PD-L1高値患者の)試験参加者数と生存利益は、このサブグループの患者に対する臨床診療の変更を正当化するのに十分なものである」と述べる。
ESMO総会では、ペムブロリズマブのような薬剤は、他のがんの研究で示唆されているように腫瘍のPD-L1レベルが高い患者ほど有効性が高い可能性はあるのかとの質問もあった。Janjigian医師は、研究チームが現在も試験データを解析中であると述べた。
Lodrick医師は、ペムブロリズマブを投与すべき患者と投与すべきでない患者を識別するために、より正確なバイオマーカーが必要であることを認めながらも、PD-L1 CPSが1以上であることが、「このような状況で使用すべきバイオマーカーであることに変わりはない」と述べている。
Janjigian医師のグループが行なっている他の研究から言えることは、少なくともある一時点、あるいは患者個々の腫瘍における単一のマーカーから、薬が奏効しそうな患者を識別するのは最良の方法ではなさそうである。
「PD-L1やHER2ほど単純ではありません。もう少し複雑です。期待していてください」と同医師は言う。
- 監訳 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
- 翻訳担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2023/11/17
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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