ニモツズマブによりKRAS野生型進行膵臓がんの全生存期間が有意に延長

ASCOの見解

「たとえどの程度であっても、転移性膵臓がんの臨床試験で生存期間の改善がみられるのは興味深いことです。この試験では膵臓がんの分類型の一つであるKRAS野生型を検討していますが、この型は膵臓がん患者全体の10%にも満たないため、前向きな研究はほとんどありません。ゲムシタビン/ナブパクリタキセル併用療法と比較する研究を今後行えば、興味深いのではないでしょうか。私たちはすべての膵臓がん患者の生命に真の違いをもたらすために、可能性のある進歩の検証を検討すべきです」と、ASCOの消化器がんエキスパートであるCathy Eng医師(FACP:米国内科学会フェロー、FASCO:ASCOフェロー)は述べている。

新たな研究において、ゲムシタビン(販売名:ジェムザール)にニモツズマブ[nimotuzumab]を追加することにより、KRAS野生型の進行膵臓がん患者、特に膵胆管(胆道)の閉塞に対する手術を必要としない患者の全生存期間が改善したことが、米国臨床腫瘍学会年次総会2022(ASCO22)で発表される。

試験要旨

【目的】 ゲムシタビンにニモツズマブを追加投与することで全生存期間が改善されるか。

【対象者】 中国におけるKRAS野生型の進行膵臓がん患者92人。

【結果】 ニモツズマブ+ゲムシタビン投与群の全生存期間(OS)の中央値(10.9カ月)は、ゲムシタビン+プラセボ投与群(8.5カ月)と比較して有意に延長した。

1年生存率はニモツズマブ+ゲムシタビン群で43.6%、プラセボ+ゲムシタビン群で26.8%、3年生存率はそれぞれ13.9%および2.7%であった。

無増悪生存期間(PFS)の中央値は、ニモツズマブ+ゲムシタビン群で4.2カ月、プラセボ+ゲムシタビン群で3.6カ月であった。

胆道閉塞を解除する手術を必要としない患者の全生存期間へのベネフィットは、ニモツズマブ群対プラセボ群でそれぞれ11.9カ月対8.5カ月、手術歴のない患者ではそれぞれ15.8カ月対6.0カ月となった。

胆道閉塞に対する手術歴がない患者の無増悪生存期間は、ニモツズマブ群対プラセボ群でそれぞれ5.5カ月対3.4カ月であった。

【意義】 本試験の結果は、治療が非常に困難な進行膵臓がん患者のサブセットに対する標準治療を変える可能性がある。

******

主な知見

全生存期間の中央値は、ゲムシタビン+プラセボ群(8.5カ月)と比較して、ニモツズマブ+ゲムシタビン群(10.9カ月)で延長した。

1年生存率は、ニモツズマブ+ゲムシタビン群およびプラセボ+ゲムシタビン群でそれぞれ43.6%および26.8%、3年生存率は13.9%および2.7%であった。

無増悪生存期間の中央値は、ニモツズマブ+ゲムシタビン群で4.2カ月、プラセボ+ゲムシタビン群で3.6カ月であった。

胆道閉塞を解除する手術を必要としない患者における全生存期間へのベネフィットは、11.9カ月対8.5カ月であった。手術歴のない患者では、ニモツズマブ+ゲムシタビン群対プラセボ+ゲムシタビン群でそれぞれ15.8カ月対6.0カ月であった。胆道閉塞に対する手術歴がない患者の無増悪生存期間は、ニモツズマブ+ゲムシタビン群対プラセボ+ゲムシタビン群でそれぞれ5.5カ月対3.4カ月であった。

ニモツズマブ+ゲムシタビン群における有害事象の発現率は、プラセボ+ゲムシタビン群と同様であった。ニモツズマブ+ゲムシタビン群で最も多かった有害事象は、好中球減少症(11.1%)、白血球減少症(8.9%)、血小板減少症(6.7%)であり、いずれも体内の血球に影響を与えるものであった。

「今回のNOTABLE試験は、膵臓がんの分野での画期的な進展になると信じています。この試験の結果は、KRAS野生型の膵臓がんの患者さんに新たな希望をもたらす可能性があります」と、筆頭共著者のShukui Qin医師(南京医科大学Jinling Hospitalがんセンター正教授兼医長)は述べる。Qin医師の共著者は、中国上海同済大学East Hospital腫瘍科の正教授兼科長であるJin Li医師である。

今年米国で膵臓がんと診断される患者は、62,210人と推定される。進行したステージで診断された場合、現在の治療法を受けた後の全生存期間の中央値は約6カ月から8カ月とされている。

中国における膵臓がん罹患率は増加傾向にある。中国の症例は、新規に診断されたがん全体の約25.2%(2020年の新規症例は124,994例)、世界の膵臓がんによる死亡の約26.1%(2020年の死亡は121,853人)を占めている。

KRAS遺伝子の変異は膵臓がん全体の85%~90%を占めている。膵臓がんの10%~15%はKRAS野生型(変異なし)である。

ニモツズマブは、細胞表面の上皮成長因子受容体(EGFR)を標的とし、EGFRを過剰発現する腫瘍細胞の増殖を抑制することができるモノクローナル抗体である。

中国とキューバの合弁会社で開発された本剤は、中国では2008年に中国国家薬品監督管理局(NMPA)により上咽頭がんの治療薬として承認されている。中国では、頭頸部、子宮頸部、食道やその他のがんを対象としたニモツズマブの一連の臨床試験が進行中である。なお、本剤は米国食品医薬品局(FDA)の承認は取得していない。

試験について

前向き二重盲検第3相臨床試験であるNOTABLEでは、中国の局所進行または転移性膵臓がんの患者を、ニモツズマブ投与後にゲムシタビンを投与する群と、プラセボ投与後にゲムシタビンを投与する群のいずれかに無作為に割り付け、進行または許容できない毒性が認められるまで投与を継続した。本試験では化学療法を受ける前に胆道胆管閉塞を解除する手術が必要であったかどうかに基づいてサブグループ解析を行った。胆道胆管閉塞に対する手術を必要としない患者は、肝機能が良好で黄疸もないため、化学療法への忍容性が高い可能性がある。

主要評価項目は全生存期間、副次的評価項目は無増悪生存期間、奏効率、安全性などであった。

次のステップ

本試験に参加した患者は、全生存期間や長期安全性に関する評価項目への影響について、引き続き追跡調査を実施する。本試験では、実際の膵臓がん患者を極力反映する集団を登録するために、患者の募集を続けている。

本試験は、中国で実施されており、治験依頼者はBiotech Pharmaceutical Corp.Ltd.である。

日本語記事監修 :泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)

翻訳担当者 瀧井希純

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

膵臓がんに関連する記事

米FDAが、非小細胞肺がんと膵臓腺がんにzenocutuzumab-zbcoを迅速承認の画像

米FDAが、非小細胞肺がんと膵臓腺がんにzenocutuzumab-zbcoを迅速承認

2024年12月4日、米国食品医薬品局は、以下の成人を対象にzenocutuzumab-zbco[ゼノクツズマブ-zbco](Bizengri[販売名:ビゼングリ]、Merus NV社...
50歳未満の成人における膵臓がんに関する知識ギャップの画像

50歳未満の成人における膵臓がんに関する知識ギャップ

50歳未満の膵臓がん罹患率は上昇しているが、ほとんどの人が、膵臓がんは高齢者だけが罹患する病気であり、そのリスクを減らすためにできることは何もないと思い込んでいることが、オハイオ州立大...
AIが前がん性膵嚢胞の特定を支援の画像

AIが前がん性膵嚢胞の特定を支援

新しい低侵襲の臓器温存による治療法では、手術なしで熱による治療により前がん組織を破壊

膵臓がんのような、症状は現れにくいが致命的な疾患の早期発見に関しては、早期に発見して疾患の悪性度を予...
膵がん転移巣を標的とした放射線治療の追加により無増悪生存期間が延長の画像

膵がん転移巣を標的とした放射線治療の追加により無増悪生存期間が延長

転移膵臓がんの臨床試験で報告された中で最長の無増悪生存期間を達成オリゴ転移(少数の転移巣)のある膵がん患者で、標準治療の化学療法に転移巣を標的とした放射線治療を追加することで無...