オラパリブ維持療法はBRCA関連の膵臓がんの進行を遅らせる
ASCOの見解
「本試験の結果が与える影響の全貌を知るのに、われわれは長期的なデータを心待ちにしています。オラパリブがBRCA変異を有する患者の遠隔転移を有する膵臓がんの進行を遅らせていることが一貫して見られるのは、明るい話題です。膵臓がん治療の新しい時代の幕開けとなる可能性があります。初めてバイオマーカーに基づき患者に合わせた治療を行うことが可能となり、BRCA変異を有する場合の治療選択肢がさらに広がります」と、Suzanne Cole医師は述べた。
ランダム化第3相POLO試験で、PARP阻害剤オラパリブ(商品名:リムパーザ)維持療法によって、BRCA遺伝子変異陽性で遠隔転移を有する膵臓がん患者の進行がプラセボ群より有意に遅かったことが明らかになった(無増悪生存期間中央値:それぞれ7.4カ月対3.8カ月)。本試験では、プラチナベースの一次治療終了後に進行が認められなかったがん患者にオラパリブを投与した。2年後、オラパリブ投与群では22.1%で病勢進行が認められなかったのに対し、プラセボ投与群では9.6%であった。全生存データ解析にはまだ観察期間が不十分であるが、遠隔転移を有する膵臓がん患者の生存期間中央値が現在1年未満であることを考えると、このデータは著しい進歩となる。
これらの調査結果は、2019年度米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で受理された5,600件の抄録のうち、患者ケアにとって非常に重要な4件の研究を取り上げるASCOのプレナリーセッションで発表される。
「POLOは、遠隔転移を有する膵臓がんの治療においてバイオマーカーに基づくアプローチを確立することを目的とする最初の第3相ランダム化試験で、この治療困難ながんに対する個別化治療の新しい時代への扉を開くものです」と、本研究の筆頭著者で、FASCO(米国臨床腫瘍学会フェロー)、シカゴ大学医学部内科学教授でもあるHedy L. Kindler医師は述べた。「約5人に1人の患者がオラパリブに対し、中央値で2年間効果が持続しましたが、このことは遠隔転移を有する膵臓がんでは本当に注目に値します。BRCA変異で生じる遠隔転移を有する膵臓がん患者の軌跡が変化する可能性があります」。
オラパリブは、DNAの転写と修復において重要なPARP酵素を阻害する標的療法である。オラパリブは最近、これまでプラチナベースの化学療法でベネフィットを得ていたBRCA変異陽性患者における初回治療の維持療法として米国食品医薬品局(FDA)によって承認された。
生殖細胞系列BRCA変異は親から子へ受け継がれ、卵巣がん、乳がん、前立腺がんなどのがんを発症する可能性を高めることで知られている。これまでの第3相試験では、他のBRCA変異によって生じるがん(卵巣がん、乳がん)におけるオラパリブのベネフィットが示されてきた。膵臓がんの約5〜6%が、1つまたは2つのBRCA遺伝子の突然変異によって引き起こされる[1]。
2019年1月に、ASCOは、膵臓がん患者が膵臓がんリスクを高める遺伝性症候群のリスク評価を受けることを推奨する暫定的な臨床的見解(Provisional Clinical Opinion、 PCO)を発表した。 PCOはまた、膵臓がんと診断された患者については、家族歴が遺伝性のがん関連症候群を明らかに示唆していなくても、BRCA変異検査を含むがん感受性に対する生殖細胞系列遺伝子検査について検討したほうがよいと述べている。
試験について
現在の試験は、ゲムシタビン(商品名:ジェムザール)による化学療法に続いてオラパリブによる治療を受けたBRCA1/2遺伝子変異を伴う膵臓がんにおいて22%の奏効率(腫瘍の縮小)が認められた2015年の試験[2]の第2相試験データに基づいて行われている。
POLO試験では、オラパリブが初回のプラチナベースの化学療法を16週間以上行った後に病勢進行を遅らせることができるかどうかを調べた。プラチナベースの化学療法に対する毒性は、投与期間が長くなるほど高くなることが多いため、16週間後に投与を中止する場合もある。 著者らによると、オラパリブのような毒性が低い経口の非化学療法薬を用いることは重大な選択肢を提供するだろうとのことである。
膵臓がん患者3,315人をスクリーニングした後、生殖細胞系列BRCA変異を有する247人を同定した。3対2の比率で154人の患者を無作為に割り付けた結果、92人がオラパリブ投与群に、62人がプラセボ投与群に割り付けられた。プラチナベースの化学療法の最終投与から4〜8週間で治療を開始した。 治療期間の中央値は、オラパリブ投与群で6カ月、プラセボ投与群で3.7カ月であった。
登録患者の年齢の中央値は57歳であった。オラパリブ投与患者の58%が男性で、同数の男性と女性にプラセボが投与された。 登録患者の3分の2がBRCA2変異を有し、残りはBRCA1変異を有していた。
主要な知見
最初の40週間は8週間ごとに、そしてその後12週間ごとに、患者の病勢進行を評価した。無作為に治療に割り付けた後6、12、18、および24カ月の時点で、オラパリブ投与群は、プラセボ投与群と比較して、少なくとも2倍の確率で病勢進行を示さない傾向にあった。
オラパリブ投与群は、プラセボ投与群と比較して、病勢進行リスクを47%低下させた(ハザード比= 0.53)。無増悪生存期間中央値は、オラパリブ投与群では7.4ヶ月であったが、プラセボ投与群では3.8ヶ月であった。1年後、病勢進行の徴候は、オラパリブ投与群では33.7%で、プラセボ投与群では14.5%で認められなかった。2年後、がん進行は、オラパリブ投与群では22.1%で、プラセボ投与群では9.6%で認められなかった。
重篤な副作用(グレード3、4、または5)は、オラパリブ投与群では40%で発生したのに対し、プラセボ投与群では23%で発生した。さらに、オラパリブ投与群の5.5%およびプラセボ投与群の1.7%が、毒性のため治療を中止した。オラパリブは忍容性が良好で、オラパリブ投与群とプラセボ投与群の間でQOL(生活の質)に差はなかった。
次の段階
Kindler博士は、本試験の結果はおそらく治療を変えるものになると述べている。長期的な目標は、POLO試験でこの薬からベネフィットを得た患者にとどまらず、膵臓がんにおけるオラパリブの有用性を実証することである。
本研究では、AstraZeneca社と米国ニュージャージー州ケニルワースのMerck社の子会社であるMerck Sharp & Dohme社から資金提供を受けた。
試験の概要
研究対象: BRCA変異を有する膵臓がん患者治療を目的とするPARP阻害剤オラパリブ
試験の種類 :第3相ランダム化臨床試験
登録患者: 154名
治療内容 :オラパリブ
主な知見: 無増悪生存期間中央値は、オラパリブ投与群では7.4カ月で、プラセボ投与群では3.8ヵ月であった。
副次的知見: 2年後、オラパリブ投与群では22.1%、プラセボ投与群では9.6%において、病勢進行が認められなかった。
2019年度Cancer Communications Committeeの情報開示は以下を参照:
https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/2019-am-CCC-Disclosures.pdf
報道にはすべてASCO年次総会に帰属する旨を明示すること。
抄録全文はこちら
[1]Pancreatic Cancer Action Network: pancan.org/facing-pancreatic-cancer/about-pancreatic-cancer/risk-factors/genetic-hereditary/genetic-mutations/
[2] Kaufman B1, Shapira-Frommer R, et al. Olaparib monotherapy in patients with advanced cancer and a germline BRCA1/2 mutation. J Clin Oncol. 2015 Jan 20;33(3):244-50.
原文掲載日
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