免疫チェックポイントVISTAが膵臓がんの治療抵抗性に関与
膵臓がんとメラノーマの比較で間質の重要性が浮彫に
MDアンダーソンニュースリリース2019年1月11日
研究者らは、膵臓がん免疫療法における新たな標的候補を特定した。膵臓がんはこれまで、他のがんに有効な免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいことで知られている。
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究チームは、免疫細胞、特にマクロファージ上の免疫チェックポイントVISTAが過剰発現して膵臓がんに浸潤しているのを発見した。その研究チームの論文は、1月11日(金)に米国科学アカデミー紀要電子版で発表されることになっている。
「VISTAは膵臓がん治療における標的候補です。そして、VISTAを阻害する複数の抗体が臨床開発中です」とGenitourinary Medical Oncology and Immunologyの教授で、共同筆頭著者であるPadmanee Sharma医学博士は述べた。「そういったVISTA陽性細胞に対して他の標的も見つけられるか、さらなる研究が必要です」。
T細胞上のPD-1やCTLA-4ブレーキを阻害することによってがんに対する免疫攻撃を解き放つ現在の免疫チェックポイント阻害薬は、膵臓がんに対して効果がみられていない。膵臓がんは最も致死率の高いがんの1つで、患者の5年生存率は7%以下である。
Sharma医学博士と2018年ノーベル賞受賞者のJim Allison博士(免疫学の教授)が率いるチームは、膵臓がんとメラノーマを比較し、膵臓がんにおける免疫細胞の浸潤と免疫抑制チェックポイントの発現に焦点を当てた。メラノーマは免疫チェックポイント阻害に最も脆弱ながんである。
はじめに、研究者チームは、未治療で外科的に切除された膵臓腫瘍23個を使い、9つの免疫抑制遺伝子の発現を分析した。その結果、患者が2つに分かれることがわかった。抑制遺伝子が高発現している患者(11人)と低発現している患者(12人)である。
免疫抑制遺伝子の発現レベルが低い患者の生存期間が中央値で37カ月だったのに対し、発現レベルが高い患者の生存期間は20カ月だった。これは免疫が全生存に影響を与えている可能性を示している。
腫瘍構造:間質と悪性細胞
膵臓がんの腫瘍には非悪性の支持細胞である間質が高密度で含まれている。他方、メラノーマに含まれる間質は最小限で、膵臓がんとは真逆である。この違いが研究チームの分析に影響を与えた。膵臓がんは30%の悪性細胞と70%の間質で構成されていたが、メラノーマではこの割合が逆だった。
間質の割合が大きく異なるだけでなく、構造も異なるのだとSharma医学博士は話す。「メラノーマでは、間質の薄い膜が広範囲の悪性細胞を囲っています。膵臓がんでは、がん細胞、間質、がん細胞、間質、という風に混ざっているのです」。
未治療の膵臓がん腫瘍29検体と未治療のメラノーマ44検体の分析で、メラノーマでは攻撃する免疫T細胞の浸潤性が高いこと、そしてチェックポイント分子PD-1とそれを活性化するリガンドPD-L1の発現レベルがより高いことがわかった。この2つはメラノーマの治療で阻害薬の標的にされている。しかし、膵臓がんの方がVISTAの発現レベルがはるかに高かった。
膵臓腫瘍の約3分の1はメラノーマとほぼ等しいT細胞浸潤性を示した。しかし、膵臓がんの場合、T細胞は悪性細胞ではなく腫瘍の間質に集中していたのに対し、メラノーマではがん細胞と間質に均等に分布していた。
研究者には納得のいく話だ。「膵臓がんでは、腫瘍に悪性細胞よりもはるかに多くの間質が含まれています。その理由は、腫瘍の成長に間質が関与しているからだと思います」とSharma氏は言った。
Allison 博士は、間質細胞がT細胞をがん細胞から排除している可能性を指摘した。
VISTAとマクロファージ
VISTAは、ほとんどの場合マクロファージ(免疫反応の一環で微生物、細胞片や腫瘍細胞を飲み込み消化する「大食い」免疫細胞)上に発現している。VISTAはT細胞を不活性化することが知られている。
CD68陽性マクロファージの密度はおおむね同等だったが、膵臓がんでは、これも間質に集中して存在していることを研究者らは発見した。膵臓がんのマクロファージの方が、VISTAの発現レベルがはるかに高かった。
3種類の膵臓がん(未治療の原発巣、治療済みの転移巣、術前補助療法で治療した原発巣)をそれぞれ比較したところ、転移巣ではT細胞の浸潤性が低いこと、そして未治療の原発巣と転移巣の方がVISTAレベルがより高いことがわかった。
7つの膵臓サンプルの分析で、CD68陽性マクロファージがPD-L1とVISTA経路を別に有しており、それぞれ免疫反応を阻害していることがわかった。転移膵臓がん患者3人の腫瘍から採取したT細胞を用いて実験をしたところ、活性化VISTA経路が、PD-L1による阻害以上に腫瘍における活性化T細胞反応を低下させていることがわかった。これは、PD-1/PD-L1阻害薬での治療が奏効しないのは未治療のVISTA経路が免疫反応を抑制することが原因かもしれないことを示唆している。
ムーンショットプログラムとの共同
今後の研究では、T細胞浸潤を増やすための併用療法戦略を探求することになるであろう。この際、マクロファージを標的にするため、抗CTLA-4チェックポイント阻害に加えてVISTA抗体も利用するかもしれない、とSharma医学博士は述べた。
Allison博士とSharma医学博士は、治療前、治療中、治療後の腫瘍サンプルの免疫モニタリングによって、腫瘍および治療に対する免疫応答を解明するMDアンダーソンの免疫療法プラットフォームのリーダーである。このプラットフォームチームは、MDアンダーソンのムーンショットプログラム™の一部である膵臓がんムーンショット™と、メラノーマムーンショット™とタッグを組んだ。これは、患者の命を救う臨床的進歩につなげる科学的発見を加速させるための共同の取り組みである。
Allison博士およびSharma医学博士の共著者は以下のとおりである。 Jorge Blando, Ph.D., and Anu Sharma, Ph.D., and Maria Gisela Higa, M.D., Hao Zhao, Ph.D., Luis Vence, Ph.D., Shalini Yadav, Ph.D., Jiseong Kim, and Sreyashi Basu, Ph.D., all of the Immunotherapy Platform; Anirban Maitra, M.B.B.S., Michael Tetzlaff, M.D., Ph.D., Russell Broaddus, M.D., Ph.D., and Huamin Wang, M.D., Ph.D., of the department of Pathology; Jennifer Wargo, M.D., and Matthew Katz, M.D., of Surgical Oncology; Gauri Varadhachary, M.B.B.S., M.D., and Michael Overman, M.D., of GI Medical Oncology; Cassian Yee, M.D., and Chantale Bernatchez, Ph.D., of Melanoma Medical Oncology; Christine Iacobuzio-Donahue, M.D., Ph.D., of Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York; Alejandro Sepulveda, Ph.D., and Michael Sharp of Janssen Research and Development, Pharmaceutical Companies of Johnson & Johnson, Spring House, PA. Kimはテキサス大学MDアンダーソンがんセンターUTHealth Graduate School of Biomedical Sciencesの院生である。
この研究は、免疫療法プラットフォームである膵臓がんムーンショット、国立がん研究所(RO1 CA1633793)およびParker Institute for Cancer Immunotherapy(PICI)からの助成金によって資金調達された。Allison、Sharma、Wargo、Yee各氏はPICIのメンバーである。
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