新たに確認された5カ所の領域の遺伝子変化は膵臓がんリスクに関連する

これまでに実施された膵臓がん全ゲノム関連解析研究の中でも最大と言われる研究において、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターおよび米国国立がん研究所(NCI)の研究者および世界の80カ所を超えるその他施設の共同研究者がヒトゲノムの5カ所の領域に膵臓がんリスクを高める可能性のある変化を確認した。

新たに得られた研究結果により、膵臓がんリスクにつながる遺伝的変化すべてが完全に把握できるあと一歩であることが分かった。膵臓がんの発生機序がより一層理解できれば、より多くの標的治療や早期発見法が明らかになる可能性があるため、この結果は重要だと研究者たちはいう。膵臓がんは米国や欧州でがんによる主要な死亡原因のひとつで、2020年までに年間15万人近くが死亡すると予想されている。

ヒトの1(1p36.33)、7(7p12)、8(8q21.11)、17(17q12)、18(18q21.32)番染色体で新たに確認された遺伝子変異それぞれで、膵臓がんのリスクが15%から25%増加する可能性があると研究リーダでありジョンズホプキンス大学のSol Goldman膵臓がん研究センターの健康科学修士のAlison Klein博士は語る。本研究グループはかつて13カ所の遺伝子領域から17種類の変異を発表した。

Nature Communicationsの2月8日電子版に掲載された研究結果には、膵臓がんコホートコンソーシアム(PanScan)および膵臓がん症例対照コンソーシアム(PanC4)のヨーロッパ系膵臓がん患者9,040人および健常者12,946人の遺伝子情報が含まれている。科学者たちは21,536人の1,130万種類以上の変異を解析した。

「個人レベルでは、これらの変異が存在してもリスクはわずかに変化するだけであり、いずれかの変異を保有するからといって、がんを予測できるわけではない。しかし、総合すると膵臓がんがどのように発生するのか完全に把握する一助となる」と腫瘍学、病理学および疫学の教授であるKlein博士は語る。

新たに確認された変異のひとつが、膵臓がんの主なドライバー遺伝子である腫瘍タンパク質p53に直接結合するタンパク質のNOC2Lで確認されたとKlein博士は語る。その変異はまたp63と呼ばれる別のがん抑制遺伝子にも結合し、以前実施された研究でKlein博士らがp63遺伝子の変異により膵臓がんリスクが高くなることを明らかにした。細胞増殖の調整に関わる肝細胞増殖因子と呼ばれるHNF4G遺伝子やHNF1B遺伝子の変異は、膵臓を調整する役割を果たし、またがん発生の一因となることが確認されている。またHNF1Bの変異は20歳以下の若者が発症する家族性糖尿病である若年の成人発症型糖尿病も関連しているとKlein博士と語る。

消化管ホルモンの放出を担うGRP遺伝子の近くに、また細胞の接着、遊走、そしておそらく転移の調整を担うTNS3に別の変異が確認された。

膵臓がんは米国では第3位、欧州では第5位のがんによる死亡原因である。このがんは致命的であるものの、頻度自体は毎年の罹患数が約55,000人と比較的少ないため、研究のデータを十分に得るために今回の研究のような大規模共同研究が必要であるとKlein博士は語る。

膵臓がんの遺伝学に踏み込んで引き続き研究を行うとKleinは語る。「膵臓がんリスクの遺伝的因子についてまだ分からないことが多い」。

Klein博士に加え、次の研究者が本研究に参加した。ジョンズホプキンス大学のEvelina Mocci、Erica J. Childs、Fei Chen、Amanda Blackford、Michael Borges、Michael Goggins、Daniel Laheru、Kala Visvanathanまた世界80カ所を超えるその他施設の研究員

本研究は次の個人、団体および資金により支援を受けた。
R01 CA154823、Lustgarten Foundation、契約番号HHSN26120080000IEに基づくNCIの連邦予算、NCIの助成金P50CA062924およびR01CA97075、Susan Wojcicki、Dennis TroperおよびSol Goldman膵臓がん研究センター

(画像訳)研究結果をまとめたマンハッタンプロットのグラフに表示されている高いピークは膵臓がんリスクに最も有意に関連する遺伝子座を示している。緑の点は本論文で発表した新たな遺伝子座の位置を表示している。

翻訳担当者 松長 愛美

監修 中村 能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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