ドリームチームによる膵臓がん初期段階での発見・治療の取り組み

「Stand Up to Cancer」資金提供によるMDアンダーソン研究者主導の共同研究

膵臓がんは、体に深く根付き大きくなった状態で発見されるため、治療が最も困難ながんの1つである。  「Stand Up to Cancer」(*米国、がんのための大々的なチャリティ・イベント)が結成し、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究者が主導するドリームチームは、膵臓がんの発生段階での検出方法を検討する予定である。発症リスクのある人において、膵臓がんの発生段階はもっとも攻撃しやすい時期である。

「ドリームチームの計画としては、膵臓がんの症状発生前のまだ沈黙の時期にがんを発見・予防することにあります。実際にがんになる前に発見できればより望ましいです」、とMDアンダーソンSheikh Ahmed Bin Zayed Al Nahyan Center for Pancreatic Cancer Researchのサイエンティフィック・ディレクターで本研究の臨床試験責任医師である Anirban Maitra, M.B.B.S.は述べた。

ドリームチームは、膵臓がん患者で遺伝性変異に関する標準検査の配備、画像解析の精度を高めるための深層学習(deep learning)の適用、発生段階のがんをノックダウンするのに最適なワクチンの作成、そして、リスク予測、前駆症状あるいは早期膵がんを検出する血液検査の開発のためのベストなアイディアの選別、を目指している。

SU2C-Lustgarten Foundation Pancreatic Cancer Interception(「スタンドアップ・トゥ・キャンサー」ルストガルテンすい臓がんストップ基金)ドリームチームの『高リスクのコホート集団における膵臓がん治療』の共同リーダーは、ボルチモアにあるジョンズ・ポプキンス大学病理学、薬学、および腫瘍学部教授であるMichael Goggins医師、カリフォルニア大学サンディエゴ校Healthのムーアズがんセンター長Scott Lippman医師。それ以外の参加施設はボストンにあるダナファーバーがん研究所、マサチューセッツ工科大学、およびメイヨークリニックである。

アメリカがん協会によると、2017年には約53,670人が膵臓がんの診断を受け、約43,090人が死亡すると予測される。膵臓がんは米国のがんの約3%を占めているが、がんによる死亡では7%を占めている。患者のうち5年間生存するのは約8%である。

4年にわたり700万ドルの助成金が提供されるが、これはルストガルテンすい臓がん研究基金などさまざまな協力者と共に「Stand Up to Cancer」が発表した4つの助成金のうちの1つに当たる。

Maitra学士はMDアンダーソンのムーンショットプログラムの一環である膵臓がんムーンショットの共同リーダーでもある。同氏は、ドリームチームは4つのプロジェクトを抱えていると述べた。膵臓がんムーンショットはがんを予防、検出、治療するための科学的発見に基づく新たな取り組みの開発を促進することを目的としている。

遺伝子検査を用いてリスク保有者を特定する

この全体的な概念は、膵臓がんリスクを高めることが知られている生殖細胞系変異(DNAの先天性異常)など既知の危険因子を利用するというものである。

取り組んでいる検出方法では、まず、BRCA1およびBRCA2など、リスクを高める既知の変異を有する者を特定するために、連続した膵臓がん患者2,000人の生殖細胞DNAを検証する目的でColorのシーケンシング技術を用いる。全患者の約12%がそのような変異を有している。

次に、変異を有すると判明した患者の第1度近親者が高リスク患者用クリニックを通じて遺伝カウンセリングおよびスクリーニングを受ける。MDアンダーソンの膵臓がんムーンショットによる臨床がん予防学部助教であるFlorencia McAllister医師が指導するクリニックは、そのような高リスク患者用クリニックの1つである。変異を有する血縁者はアクティブ・スクリーニング・プロトコルに組み込まれる。アクティブ・スクリーニング・プロトコルでは連続画像解析および血液に基づくバイオマーカー検査が行われる。

画像解析精度を向上させる機械学習

「膵臓がんが無症状である場合、われわれが検出したい小さな腫瘍を見つけるには、現行のCTスキャンおよびMRIスキャンは不十分であり、嘆かわしいです」、とMaitra学士は述べた。ドリームチームは、コンピュータに計算アルゴリズムを適用し、現在のところ人の眼では見落としてしまう膵臓の異常を認識できるようコンピュータを教育する予定である。

他の施設でも共有できるソフトウェアパッケージを作成することを目標としている。「標準治療である画像解析を利用しますが、これを計算アルゴリズムで増強するのです」、とMaitra学士は述べた。

膵臓がんを治療するワクチン

現在のところ、生殖細胞系変異があるために高リスクと特定され、また膵臓に嚢胞などの前がん性病変を有しているがんのない人がこの初となるワクチン試験に登録される。ワクチン試験の目的は膵臓がん予防である。

「現在のところ、該当者を内視鏡検査および定期的画像検査で追跡しています。みなさんはがんのあらゆる進行を早期に止めたいと望まれますが、それに対して有効な治療法はありません」、とMaitra学士は述べた。

このワクチンは、他のがん治療薬とは異なり、影響の少ない治療薬です。われわれ研究者はがん治療に最適であると考えています。

リスクを明らかにするバイオマーカー

分子バイオマーカーを用いて発現している膵臓がんの同定に利用できます、とMaitra学士は述べた。しかし、「分子バイオマーカーは潜在性(無症候性)疾患の検出には向いていません」と述べる。

ドリームチームでは、バイオマーカー研究領域のリーダーらが協力し、長期間にわたり追跡を行ったさまざまな研究コホートから採取した数百の血液サンプル中の最適なバイオマーカー候補を検出する予定である。縦断研究に登録したこれらのその他の点では健康な人の一部で膵臓がんが発症した。

「発症した人にある何かが膵臓のリスクを高めたのです」、とMaitra学士は述べた。このグループでバイオマーカーを特定することにより、将来、より集中型のスクリーニングあるいは早期治療を行うべき人の選択の指針として役立つかもしれない重要なプロジェクトで多施設のトップ研究者らチームを組み協力している。

エンターテインメント産業基金(Entertainment Industry Foundation)の一部門である「Stand Up to Cancer」は、そのチームの資金援助を行うことにより、研究ペースを速めてがん患者に対する新たな治療薬を早期に得ることを目的としている。その目的のために資金を集めている。

翻訳担当者 三浦 恵子

監修 花岡 秀樹(遺伝子解析/サーモフィッシャーサイエンティフィック)

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