NRG1遺伝子融合陽性の肺がん・膵臓がんに初の標的薬ゼノクツズマブを承認
Zenocutuzumab[ゼノクツズマブ](販売名:ビゼングリ)が食品医薬品局(FDA)の迅速承認を受け、NRG1融合という非常にまれな遺伝子異常を有する腫瘍を標的とする初の薬剤となった。この承認により、ゼノクツズマブは、腫瘍にNRG1融合があり、標準治療にもかかわらず病状が悪化した膵臓がんまたは非小細胞肺がん(NSCLC)の患者の治療に使用できる。
本承認は、ゼノクツズマブ治療を受けた患者の3分の1において少なくとも30%の腫瘍縮小が持続し、その持続期間が中央値で11カ月間続いたという臨床試験の結果に基づいている。この研究に参加した患者のほとんどは、非小細胞肺がん、あるいは膵臓がんを患っていた。
「この患者層に対しては、満足すべき治療法がまったくと言っていいほどありません」と、本研究主任研究者であるAlison Schram医師(スローンケタリング記念がんセンター)は述べた。「この承認により、有効な治療選択肢がほとんどないこれらの患者に、新たな治療選択肢がもたらされます」。
本件は迅速承認であるため、Merus社からゼノクツズマブのライセンスを取得したPartner Therapeutics社は、この薬が他の治療法よりも患者の延命につながる可能性もあるなど、患者に臨床的効果があることを確認するための追加研究を実施する必要がある。
深刻な副作用を起こさずに腫瘍を縮小
NRG1遺伝子の融合は、NRG1遺伝子の一部が別の遺伝子の一部と結合して発生する。この新たな遺伝子によってNRG1融合タンパクが生成され、これによって細胞の表面にある他の2つタンパクであるHER2とHER3の結合が活性化される。HER2/HER3複合体は、細胞を絶えず成長させ分裂させる信号を出す。
そもそもゼノクツズマブは、NRG1融合タンパク質がHER2/HER3結合を促進するのを阻害して、これらのがん促進シグナルをオフにする。
この第2相臨床試験には、NRG1遺伝子融合陽性の進行または転移性固形がんの成人が参加した。患者は病勢が悪化するまで、2週間に1回ゼノクツズマブを静脈内投与された。
この迅速承認は158人の患者のデータに基づいており、そのうち93人は進行非小細胞肺がん、36人は進行膵臓がんであった。残りの患者は乳がん、大腸がん、胆管がん、その他のがんを患っていた。
この治療薬でさまざまながん種の患者で腫瘍が縮小したが、非小細胞肺がんと膵臓がん患者に最も効果があった。非小細胞肺がん患者の約30%で腫瘍の縮小がみられ、その効果は中央値で12.7カ月続いた。また、膵臓がん患者の42%で腫瘍の縮小がみられ、その効果は中央値で7.4カ月続いた。1人の患者では腫瘍が完全に消失した。
副作用はほとんどが軽度で、下痢、疲労、吐き気、貧血などがあった。薬剤関連副作用のために治療を中止した患者は1人だけであった。
奏効率の向上
共同研究者であるStephen V. Liu医師(ジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンター)は、この研究は「重要な進歩」であると述べたが、30%という奏効率はまだ比較的低いと指摘した。それでも、ゼノクツズマブにはいくつかの実際的な利点があると言う。
「これらは標準治療ではよくならない腫瘍です」と彼は言う。「ゼノクツズマブのおかげで、奏効する可能性がより高い標的薬を手に入れることができました。もちろん、奏効率がもっと高ければいいのですが、より多くの患者がこの薬で利益を得られると実感しています。そして重要なのは、毒性が非常に少ないということです」。
Schram医師は、ゼノクツズマブが非常に良い選択肢であることに同意する。
「ゼノクツズマブは忍容性が極めて高く、患者は数週間以内に症状が回復することが多い」とSchram医師は述べた。
研究チームは、なぜ一部の患者が治療に反応する一方で、他の患者は反応しないのか、また薬剤耐性につながる原因は何なのかを究明するためにすでに研究を行っている。
研究者らは、ゼノクツズマブが他のがん種の患者で検証されて、承認が他のがん種にも拡大されることを期待している。HER2活性を阻害するアファチニブ(販売名:ジオトリフ)などの他の薬剤は、 NRG1融合陽性腫瘍の患者を対象に研究が行われている。
DNA検査による遺伝子融合の検出感度は低いため、NRG1融合は主にRNA検査で特定される。Schram医師は臨床医に対し、「この治療薬で利益を得る可能性のある患者を見逃さないように」診断検査にRNA検査を取り入れるよう勧める。
Liu医師も同意見である。「これは重要な進歩ですが、ゼノクツズマブの真の効果を見極めるためには、このような遺伝子変化の検出法を更に進歩させる必要があります」。
- 監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/03/26
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