AIが前がん性膵嚢胞の特定を支援

新しい低侵襲の臓器温存による治療法では、手術なしで熱による治療により前がん組織を破壊

膵臓がんのような、症状は現れにくいが致命的な疾患の早期発見に関しては、早期に発見して疾患の悪性度を予測することが、長期生存率を高めるために重要である。

膵臓がんの普遍的なスクリーニング方法が存在しない中、オハイオ州立大学総合がんセンター、アーサーG・ジェームズがん病院・リチャードJ・ソロブ研究所(OSUCCC - James)の研究者らは、膵臓がんの早期発見、あるいは前がん段階での発見に役立てようと、人工知能(AI)に注目している。

膵臓がんのほとんどは明確な症状がないため、診断が遅れる。しかし、約4分の1は嚢胞として始まり膵臓がんに発展する可能性がある。課題は、どの嚢胞ががんになるリスクが高いか低いかを正確に判断することである。

「手術によって摘出された前がん性膵嚢胞のうち、約50%は摘出する必要がなかった可能性が高く、患者の一生の間にがんに進行することはなかったでしょう」と、消化器専門医でOSUCCC-James Molecular Carcinogenesis and Chemoprevention Research Programの研究者であるSomashekar Krishna医師は述べた。「膵臓がんに罹患している患者の多くは60歳以上であり、手術が危険となるような他の疾患を抱えています。病変を前もって特定し、リスク分類する方法が見つかれば、多くの患者は低侵襲の臓器温存アブレーションで嚢胞を除去することができます」。

AIを活用して人間の分析スピードと精度を高める

Krishna医師と彼のチームは、ミニプローブ型のレーザー光学カメラを使用し、超音波内視鏡と呼ばれる手法で膵臓に到達する。このアプローチにより、嚢胞壁の詳細な顕微鏡画像を提供する「バーチャル生検」を行うことができる。その後、AIを使って膵臓内部の映像を解析し、嚢胞ががんに発展するかどうかを示す臨床徴候を特定する。

しかし、動きの速い何百枚ものビデオ画像からがんの危険因子を特定するのは、画像を確認する人の訓練や経験にもよるが、難しく面倒な作業であり、時には不正確になることもある。

「それは、時速100マイルで移動しているビデオの中の黒、白、青の車をすべて数えろと言うようなものです。ビデオをスロー再生し、数百、ひょっとすると数千の個々のフレームを分析しなければ不可能です」とKrishna医師は言う。
このプロセスをスピードアップし、結果の精度を向上させるため、同氏はHarry Chao博士(オハイオ州立大学のコンピューター・サイエンス・エンジニア)と共同で、膵臓がんの臨床的特徴を数時間ではなく数秒で認識しフラグを立てるAIアルゴリズムをトレーニングしている。

「AIは、膵臓がんの早期発見のための強力な診断ツールとなる可能性があります。AIは命を救うだけでなく、不必要に侵襲的な手術とそれに伴うコストを減らすことができます」とKrishna医師は言う。「さらに、糖尿病や消化器系合併症の発症など、臓器摘出による医学的副作用のリスクも低下します」。

膵臓がんの治療

膵臓以外に広がっていない膵臓がんは、一般的にホイップル法と呼ばれる手術法で治療される。これは、膵頭部、小腸の最初の部分、胆嚢、胆管を切除する大規模な手術である。高齢者や膵臓がん以外にも重篤な疾患を抱える人にとっては、回復が困難な場合がある。

Krishna医師は、高周波アブレーションで標的を絞って加熱することにより異常組織を除去し、前がん性膵嚢胞を治療する新しい低侵襲内視鏡手術の先駆者である。この方法は、早期あるいは前がん状態の患者に対して、臓器を温存し大きな腹部手術を避けるという選択肢を提供するものである。同氏によれば、これはすべての人にとって第一選択肢ではないかもしれないが、膵臓手術でより高いリスクに直面する可能性のある患者にとって貴重な代替手段となる。

アメリカがん協会(ACR)によると、毎年 66,000 人以上が膵臓がんと診断され、その大半が進行がんである。喫煙、肥満、食事要因、糖尿病、慢性膵炎、遺伝的危険因子はすべてリスクを高める可能性がある。

  • 監修 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
  • 記事担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2024/11/21

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