膵がん転移巣を標的とした放射線治療の追加により無増悪生存期間が延長

転移膵臓がんの臨床試験で報告された中で最長の無増悪生存期間を達成

オリゴ転移(少数の転移巣)のある膵がん患者で、標準治療の化学療法に転移巣を標的とした放射線治療を追加することで無増悪生存期間(PFS)が改善したことが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らにより示された。本日Journal of Clinical Oncology誌に発表された多施設共同EXTEND試験の結果は、2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)消化器がんシンポジウムで初めて発表された。

追跡調査期間中央値17.3カ月で、転移巣を標的とした治療(MDT)と化学療法を併用した患者の無増悪生存期間は10.3カ月であったのに対し、標準化学療法を受けた患者では2.5カ月に過ぎなかった。さらに、MDTによる免疫応答の増加が生存期間の延長に関連していた。

「転移性膵がんの患者は、治療の選択肢が限られており、予後も不良です」と筆頭著者である消化器放射線腫瘍学助教のEthan Ludmir医師は述べた。「標的放射線治療の追加で、無増悪生存期間の平均が4倍になったことを大変うれしく思います。このアプローチは転移性膵がん治療のパラダイムシフトとなる可能性を示唆しています」。

転移性膵がんは急速に重要な臓器に転移し、疾患管理に大きな困難をもたらす。進行した病期で診断されることが多いため、治療効果は低く、生存率が低下する。この疾患の複雑さと多くの治療法に対する抵抗性も予後不良の一因である。主な治療法の化学療法では、一般に病勢進行までの平均生存期間は7カ月である。

MDTは、高線量の放射線治療で転移巣を標的とし、スキャンで確認されたすべての部位のがん細胞をすべて除去することを目的とする。この方法は主に、画像診断で転移巣が5個以下であるオリゴ転移のあるがん患者を対象として評価されている。オリゴ転移のがんはしばしば、限局性がんと広範に転移したがんの中間の病期と表現される。

MDTは、2016年にMDアンダーソンで行われた初期の研究で、肺がん患者に対する有効性が示され、主要な研究分野として浮上してきた。その後、前立腺がんや腎臓がんなど、複数の種類のがんで有効性が示されている。

EXTEND試験は、複数の固形がんを対象とした第2相ランダム化バスケット試験であり、オリゴ転移のあるがん患者を対象に、MDT+化学療法が化学療法単独と比較してPFSを改善するかどうかを検証するものである。本試験は、オリゴ転移のある膵がん患者でMDTを特に評価した最初のランダム化試験である。2019年から2023年にかけて、EXTEND試験の膵がんバスケットにおいて、転移部位が5つ以下の患者40人が評価された。

新病変再発までの期間の中央値は、MDT群では14カ月であったのに対し、対照群では5カ月であった。12カ月の新病変無再発率はMDT群で54%、対照群で38%であった。対照群からMDT群へのクロスオーバーは可能であった。MDTは主に高線量の放射線療法からなるものの、忍容性は非常に良好で、MDTと関連のあるグレード3以上の有害事象は認められなかった。

本試験の探索的評価項目は、MDTが免疫応答を促進する可能性を示した先行研究に続き、MDTが身体の免疫系に及ぼす影響を検討することを目的とした。研究者らは、全身性の免疫活性化イベントがMDTと関連し、PFSの改善と相関することを見出した。

「この結果は、転移巣を標的とした治療がオリゴ転移のある膵がん患者にとって有効かつ安全であることを示唆しています」と治験責任医師である放射線腫瘍学准教授Chad Tang医師は述べた。「とはいえ、転移巣を標的とした局所治療で観察された延命効果を検証し、治療効果の潜在的なメカニズムとして全身性の免疫活性化を調べるためには、より大規模な試験が必要です」。

これらの知見に基づき、MDアンダーソンは、年内に開始される第3相EXPAND試験を主導する。このランダム化臨床試験では、MDTがオリゴ転移のある膵がん患者のPFSと全生存期間の両方を改善するかどうかを検証する。本試験では、MDアンダーソンおよびMDアンダーソンがんネットワーク®の特定の提携施設の患者も登録する予定である。

本試験は、Cancer Prevention and Research Institute of Texas(CPRIT)(RP180140)、米国国立衛生研究所米国がん研究所(P30 CA016672)、Translational Molecular Pathology-Immunoprofiling Laboratory、Andrew Sabin Family Fellowship、Fund for Innovation in Cancer Informaticsの支援を受けた。Ludmir医師とTang医師に報告すべき利益相反はない。共著者の全リストおよび開示情報は、論文全文を参照されたい。

  • 監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 記事担当者 坂下 美保子
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  • 原文掲載日 2024年8月5日

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