OncoLog 2014年5月号◆In Brief「低悪性度神経膠腫の分類および治療方針を改訂する必要性がゲノム解析で示唆される」「血管新生阻害薬の併用療法が固形腫瘍に対して抗腫瘍効果を示す」「CTで膵臓癌の化学療法に対する反応を予測」

MDアンダーソン OncoLog 2014年5月号(Volume 59 / Number 5)

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低悪性度神経膠腫の分類および治療方針を改訂する必要性がゲノム解析で示唆される

低悪性度神経膠腫の中には、その分子上に脳腫瘍の中でも最も致死的な膠芽腫の特徴を有するものがあることが、ゲノムおよび分子の包括的な解析から明らかになった。

「臨床への直接の影響と言えば、これまで低悪性度として分類されてきた患者の中に、実際には膠芽腫患者として標準治療すなわちテモゾロミド化学療法や放射線療法による治療を受けるべき患者が存在する、ということです」と、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター、バイオインフォマティクスとコンピューテーショナルバイオロジー学部准教授で、同研究の主著者であるRoeland Verhaak博士は話している。

研究者らは「がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)」の高度プラットフォームを用いて低悪性度神経膠腫293検体を解析し、遺伝子発現、タンパク質発現、マイクロRNA発現、DNAメチル化および遺伝子コピー数のプロファイルの各特徴によってグループ分けを行った。その後、類似したプロファイルの組合せをもつスーパークラスターを特定するために副次解析を実施した。

「結果は、IDH1遺伝子とIDH2遺伝子の突然変異の有無および染色体1pと19qの共欠失の有無に基づいて、低悪性度神経膠腫が3種のスーパークラスターに分かれることを圧倒的に示しています」とVerhaak 氏は話した。

研究者らは、この3種のグループにはその腫瘍に、1)野生型の IDH1 およびIDH2(膠芽腫様の表現型)、2)IDH1 またはIDH2の突然変異を有し、染色体1pと19qに変化がないもの、または、3)IDH1 またはIDH2の突然変異を有しかつ染色体1pと19qの共欠失を有する、という特徴があると考えた。各グループの患者の生存期間中央値はそれぞれ、18カ月、7年および8年であった。

Verhaak氏は、「現在腫瘍の分類およびグレードの評価に使用している方法よりも、低悪性度の腫瘍をこのような3種の分子クラスターに分類する方がさらに正確に特徴を表わせます」と話した。

この3種の腫瘍クラスターを規定する分子マーカーは、既に患者の通常検査の一部として評価が行われているため、比較的早くこの新しい分類を導入することができる。

研究者らは本年4月、米国癌学会(AACR)年次総会でその知見を報告した。

血管新生阻害薬の併用療法が固形腫瘍に対して抗腫瘍効果を示す

血管新生阻害薬2種、ベバシズマブおよびセジラニブ(cediranib)の併用療法がいくつかのタイプの固形腫瘍に対して抗腫瘍効果を示すことが示された。

ベバシズマブは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を標的とし、数種類の癌に対して抗腫瘍活性を示すものの、薬剤抵抗が生じるため、通常は効果が持続しない。VEGFの経路を異なる部位で標的とする薬剤を併用することによって、さらに着実なまたは持続的な抗腫瘍効果が生まれる可能性がある。

ベバシズマブおよび試験段階にあるVEGF受容体チロシンキナーゼ阻害剤セジラニブの併用は、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの実験的癌治療部門准教授のDavid Hong医師が責任者を務める第1相臨床試験で検討された。

本試験の登録者は、治療抵抗性であるか標準治療のない進行期の固形腫瘍の患者とした。28日を1サイクルとし、第1、15日に経静脈的にベバシズマブを、第1〜21日に経口的にセジラニブを患者に投与した。試験に参加する患者が増えるにしたがい、ベバシズマブの用量を3mg/kgから5mg/kg、さらに10mg/kgに増量し、セジラニブの用量を15mg から20mg、30mg、さらに45mgに増量した。

本試験の目標は、同薬剤の組合せの安全性および今後の試験で使用する用量を明らかにすることである。治療効果も評価の対象とした。

本試験には患者51人を登録し、その内訳は、軟部肉腫17人、腎細胞癌7人、大腸癌6人およびその他の癌21人であった。

軟部肉腫の9人を含む19人の患者は安定した病状で16週間目も治療を受けていた。さらに4人の患者(トリプルネガティブ乳癌、基底細胞癌、胞巣状軟部肉腫、滑膜肉腫患者が各1人)において、30%を超える腫瘍縮小が見られた。また20%から30%の腫瘍縮小が見られた患者も4人(腎細胞癌が2人、前立腺癌と胞巣状軟部肉腫が各1人)いた。

用量制限毒性(グレード3かそれ以上の有害事象)は、1人の患者で胸痛、1人で倦怠感、2人で血小板減少症、3人で高血圧症(頭蓋内出血の1人を含む)を認めた。

今後の研究で推奨される用量はセジラニブを1日あたり20mgと、ベバシズマブを5mg/kg。このレベルでは、用量制限毒性は1例しか発生しなかった。

本研究は4月のCancer誌で(電子版で先行して)報告された。Hong医師と本研究の共著者らは、この薬剤の組み合わせによる今後の研究では、肉腫の患者に重点を置くことを推奨した。

CTで膵臓癌の化学療法に対する反応を予測

膵臓癌における定期的なコンピューター断層撮影(CT)スキャンは、治療の指針となるだけでなく、化学療法が腫瘍にどこまで浸透できるか予測する可能性がある。

膵臓癌への化学療法薬剤の到達度を調べる初めての臨床試験が、このほどテキサス大学MDアンダーソンがんセンターで実施された。膵臓癌は、無秩序あるいは非機能的な血管、大部分を占める繊維性組織、そして分子変異を有し、これらが化学療法剤の血管から腫瘍細胞への移行を妨げている。

「CTスキャンで使う静脈注射による造影剤の分布が、腫瘍への化学療法剤の到達を擬似的に示すことを発見しました」と外科腫瘍学部の教授で、本研究報告書の責任著者であるJason Fleming医師は話した。

研究者らは当初、原発性膵臓癌で外科的切除手術を受ける12人の患者を登録した。手術中、各患者は化学療法薬剤のゲムシタビンの注入を受けた。手術後、ゲムシタビンの取り込みについて腫瘍全域のDNAを分析した。

Fleming医師らは、ゲムシタビンの腫瘍への浸透度には差があり、DNAへのゲムシタビンの取り込みが高い腫瘍は、ヒト受動拡散型ヌクレオシド輸送体(hENT1)のレベルも高く、コラーゲンのレベルは低いことを発見した。高hENT1レベルと低コラーゲンレベルは両方とも、膵臓癌患者のゲムシタビンによる治療で良好な転帰に相関することで知られている。

Fleming医師らは、さらに腫瘍によってCT造影剤の吸収に違いがあることに気づき、造影剤の取り込みからゲムシタビンの経路および吸収を予測できるという仮説を立てた。この仮説を検証するため、研究者らは本臨床試験の11人の患者、外科的切除前にゲムシタビンの投与を受けた膵臓癌患者110人、および膵臓腫瘍切除手術前に化学療法を受けなかった55人の患者の治療前CTスキャンを分析した。数理モデルを使い切除された腫瘍における輸送因子を測ることで、研究者らはCT造影剤の取り込みが、ゲムシタビンの取り込み、治療に対する腫瘍の反応、全生存と関連することを発見した。

「腫瘍の生検検体から得る分子情報を通常のCTのデータと組み合わせることで、個々の腫瘍の治療に対する反応予測にもとづいて患者を分類できることを示唆しています」と、Fleming医師は話した。

本研究の報告は4月のJournal of Clinical Investigation誌で発表された。今後の研究は患者のケアや膵臓腫瘍への化学療法薬剤の到達の改善に、この新たな知見を応用することに焦点をあてると、Fleming医師は述べた。

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翻訳担当者 ギボンズ京子、片瀬ケイ

監修 白畑充章(脳腫瘍学/秩父市立病院 脳神経外科)

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