膵臓がん早期発見にエクソソームを用いたリキッドバイオプシーが有望

エクソソームを用いたリキッドバイオプシーは、バイオマーカーCA19-9と併用することで、ステージ1〜2の膵臓がんの97%を正確に検出した。この研究結果は、4月5日から10日まで開催された米国癌学会(AACR)2024年年次総会で発表された。

「膵臓がんは致死率が非常に高い悪性腫瘍の一つですが、それは、患者の大半ががんが既に転移した後にはじめて診断されるからです」と、本研究の上席著者であり、シティー・オブ・ホープの分子診断学・治験部門長であるAjay Goel博士は述べた。

がんが非常に早い段階(すなわち膵臓から転移する前)で診断された患者の5年相対生存率は44.3%であるのに対し、転移性疾患と診断された患者ではわずか3.2%である。「患者をできるだけ早期に診断し、治癒の可能性のある手術や治療を受ける機会が得られるようにすることが最も重要です」とGoel氏は言う。

Goel氏の研究グループの博士研究員であるCaiming Xu医師によれば、膵臓がんの症状は非特異的であり、また膵臓は腹部の奥深くにあって身体診察で容易に触診することができないため、早期発見は依然として困難である。さらに、CA19-9のような既存のバイオマーカーは、それ単独で早期膵臓がんを検出する信頼性がない。

Goel氏、Xu氏らは、エクソソームを用いたリキッドバイオプシーで膵臓がんを早期発見する可能性を探った。リキッドバイオプシーは、血液やその他の体液から、腫瘍によって排出される遺伝物質や細胞などのがんの徴候を調べるものである。同研究者らは、がん細胞や健康な細胞から血液中に排出されるエクソソームと呼ばれる特殊な小胞を分析する新しいリキッドバイオプシー法を開発した。エクソソームは、細胞間情報伝達の一形態として、ある細胞から別の細胞へカーゴ分子をシャトル輸送する。

「エクソソームは、排出された細胞の細胞質を保持しており、基本的に排出元の組織の生理学的性質を反映しています」とXu氏は説明する。研究チームは、膵臓がんから排出されたエクソソームに特異的にみられる8つのマイクロRNA(低分子非コードRNA)を同定した。そして、これらを膵臓がん患者の血液から検出された5つのセルフリーDNAマーカーと組み合わせ、膵臓がんに関連するシグネチャーを開発した。

研究者らは以前、米国または日本に住む95人から成る集団を対象として、エクソソームを用いたリキッドバイオプシーシグネチャーの性能を試験し、膵臓がんの検出率が98%であったことを報告している。最新の研究では、複数の施設や国から集めた大規模な前向き研究集団でリキッドバイオプシーを評価しようとした。

本研究に登録された人々(国別):
 日本・・・膵がん患者150人、健常人ドナー102人
 米国・・・膵がん患者139人、健常人ドナー193人
 韓国・・・膵がん患者184人、健常人ドナー86人
 中国・・・膵がん患者50人、健常人ドナー80人

リキッドバイオプシーシグネチャーは、日本集団の情報に基づいて訓練し、米国、韓国、中国の集団で検証した。Goel氏、Xu氏らは、彼らのリキッドバイオプシー法による検出率を以下のとおり報告した。
 米国の集団・・・膵臓がん93%
 韓国の集団・・・膵臓がん91%
 中国の集団・・・膵臓がん88%

さらに、このシグネチャーを膵臓がんマーカーCA19-9と組み合わせると、このリキッドバイオプシー検査により米国集団ではステージ1〜2の膵臓がんの97%を正確に検出した。ステージ1の膵臓がんは膵臓に限局しており、ステージ2の膵臓がんの一部は近傍のリンパ節に転移しているが、遠隔部位には転移していない。

「われわれは、エクソソームマイクロRNAとセルフリーDNAを組み合わせたエクソソームベースのシグネチャーを確立し、早期膵臓がん患者を確実にみつけられるようになりました」とXu氏は述べた。

「早期膵臓がんに関して、われわれの方法はCA19-9測定単独よりも優れたリキッドバイオプシー検査となります」とGoel氏は付け加えた。「さらに、異なる民族的、地理的背景を有する集団など、複数の異なる集団においても、本検査法の有効性を評価しています」。

この検査を一般集団に展開するにはさらなる研究が必要であるが、研究者らは、慢性膵炎、新規発症糖尿病、膵臓がんの家族歴のある人など、膵臓がんのリスクが高い特定の人々には有益かもしれないと指摘した。

本研究の限界は、研究集団に含まれる黒人の人数が限られていたことである。もう一つの限界は、シグネチャーの開発に使用された候補マイクロRNAのレベルを正規化するための、確立されたマイクロRNAコントロールがなかったことである。

本研究は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)の国立がん研究所(National Cancer Institute)の支援を受けた。Xu氏とGoel氏は利益相反がないことを表明している。

  • 監訳 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/04/08

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