OncoLog2013年10月号◆Compass:「切除可能または切除可能境界の膵臓腺癌:最初の治療法に新たな選択肢」

MDアンダーソン OncoLog 2013年10月号(Volume 58 / Number 10)

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切除可能または切除可能境界の膵臓腺癌:最初の治療法
切除可能または切除可能境界の膵臓腺癌患者に対して術前化学放射線療法は有用な可能性

はじめに

膵外分泌腺癌は膵臓癌の95%を占める。なお、膵神経内分泌癌は残りの5%を占めるが、その自然経過、生物学、および治療法は膵外分泌腺癌と異なるため、本稿では対象としない。

膵臓腺癌は、最初に、切除可能、切除可能境界、局所進行/切除不能、転移性/播種性に分類される。本稿では、最初の治療法(手術または術前療法)の決定について専門家の間で最も意見が分かれる、切除可能および切除可能境界の膵臓腺癌を中心に解説する。MDアンダーソンがんセンターで推奨される治療順序では、最初の治療法は、切除可能および切除可能境界の膵臓腺癌ともに術前療法である。しかし、この治療順序は、多くの医療機関での標準治療と異なる。

致死的な疾患

膵臓腺癌は致死的な疾患としてよく知られている。膵臓腺癌患者の生存率は改善しておらず、この複雑な疾患の発生率は上昇しているようである。

膵臓腺癌では、検査を促すような症状を早期から呈することはまれであり、大半の患者は診断時に疾患が進行している。「このような腫瘍は診断がつく数年前から存在していた可能性があります」と外科腫瘍学教授のJason Fleming医師は述べた。

一般的に、膵臓腺癌は生物学的に悪性度の高い疾患と考えられている。限局癌と判定され、外科的に切除した膵臓腺癌患者において、局所再発や遠隔転移の発生率は高い(80~90%)。この知見から、微小転移巣は高頻度に存在しているが、診断時に見落とされている可能性が示唆される。このような可能性は、ほとんどの膵臓腺癌は全身疾患であるとの認識を専門家に促し、化学療法や化学放射線療法を術後でなく術前に実施すべき最大の根拠とされる。

評価および病期決定

病理学的病期は切除標本を評価して初めて得られる情報が一部で必要なため、膵臓腺癌患者に対する最初の治療法は臨床病期に基づいて決定される。膵臓腺癌の初回分類では、臨床情報と画像所見に基づいて、切除可能、切除可能境界、局所進行/切除不能、転移性/播種性に分類する。

膵臓腺癌の手術は複雑で術後合併症の発現率が高く、また有効とされる手術では完全切除(すべての切除断端で腫瘍細胞陰性:R0)を達成しなければならない。そのためには、術前病期を正確に決定することが必須とされる。画像診断法の進歩により、試験開腹を行うことなく臨床病期を決定できるようになった。これらの画像診断法には、特別な膵臓用プロトコールに準拠したコンピュータ断層撮影法(CT)があり、造影剤注入後の動脈/静脈相に多相ヘリカルCTで撮影する。また、超音波内視鏡検査(EUS)や内視鏡的逆行性胆管膵管造影法(ERCP)を利用することで、開腹術を行うことなく、針生検や、主要血管病変の評価、胆汁の流れを改善するステント留置術を実施できる。

膵臓腺癌は、主要血管(上腸間膜静脈、門脈、上腸間膜動脈、腹腔動脈、肝動脈)から境界明瞭な組織面で分離されている場合、切除可能に分類される。切除可能境界腫瘍では、これらの血管の1つ以上に腫瘍が接したり、これらの血管の1つ以上が腫瘍でが歪曲したり、不正に狭窄したりしている。そのため、R0切除達成を達成する可能性が低下する。なお、腹腔動脈や上腸間膜動脈の周囲を半分以上不正に狭窄している腫瘍は、局所進行/切除不能に分類される。

治療法に関する考察

局所膵臓腺癌の治療を開始する前に多職種・多部門との連携(集学的な連携)を取ることが重要である、と消化器腫瘍内科教授のGauri Varadhachary医師は述べた。最初の治療法として術前療法を実施する場合には、その前に特定の処置を行わなければならない。すなわち、生検所見に基づいて確定診断し、胆管閉塞を伴う患者にはステント留置術を実施しなければならない。

「治療を開始する前に、手術の実施可能性を決定する必要があります。この決定は、患者や家族の期待といった点からもきわめて重要です」とFleming医師は述べた。また、腫瘍の切除可能性に加えて、合併症や衰弱、疾患自体に左右される全身状態などの患者因子も、手術の実施可能性に影響を及ぼすと強調した。「多くの膵臓腺癌患者は衰弱が激しく、栄養状態不良の患者もいますが、うっ滞した胆汁の流れを改善し、腫瘍に対する術前療法を行うことで、患者の体力は回復します」と述べた。

多くの医療機関では、切除可能な膵臓腺癌患者に対する標準治療として、最初に手術(開腹術)を実施し、手術中に確定診断して病期を決定してから、腫瘍を切除する(切除不能と判定された場合を除く)。試験の結果から、術後療法は生存に中程度の有益性をもたらすことが示されている。しかし、多くの患者は疾患進行、合併症、術後合併症、術後回復遅延などいくつかの理由で術後療法を受けていない.

最初に手術を行った場合、術後化学療法を開始できるようになるまで少なくとも8週間の回復期間を設ける必要がある。この間,手術自体が免疫機能を障害し、小転移巣の成長を促進しさえすることもあり、転移の可能性が高まる。

MDアンダーソンがんセンターの治療法

術後の再発率が高いことから、診断時に、膵臓腺癌患者は臨床的に検出不能の転移巣を有する可能性が高い、と多くの医師は認識するようになっている。これらの知見に基づいて、MDアンダーソンがんセンターの医師は、切除可能または切除可能境界の膵臓腺癌患者に対する最初の治療法として、手術でなく術前療法を行うようになってきている。

前療法

術前療法の目標は、手術の成功率(R0達成率)を上昇させ、局所再発や遠隔転移の発生率を低下させることである。MDアンダーソンがんセンターで実施している術前療法には、「化学療法」、「化学放射線療法」、「導入化学療法後の化学放射線療法」がある。なお、「導入化学療法後の化学放射線療法」は、画像所見と血清マーカー値に基づき転移リスクの高い患者に選択的に実施される。臨床試験(参加可能な場合)の一環として術前療法を受けるよう患者に促している、とVaradhachary医師は述べた。

放射線照射との同時使用により、一部の化学療法薬は放射線増感剤として働く。現在使用されている化学療法レジメンのうち放射線増感作用を示すレジメンは、5-FU、カペシタビン、またはゲムシタビンを含む、とVaradhachary医師は述べた。導入化学療法では、ゲムシタビンとその他の薬剤一剤を併用することが多い。また、臨床試験において、2013年初頭から切除可能境界の膵臓腺癌患者の登録を開始し、進行膵臓腺癌の治療に使用されるFOLFIRINOXレジメン(オキサリプラチン、イリノテカン、5-フルオロウラシル、ロイコボリン)による導入化学療法(続いて化学放射線療法と手術を実施)を評価中である。

膵臓腺癌患者に対する術前放射線療法の妥当性は大規模試験で検証されておらず、この領域に関して幅広いコンセンサスは得られていない、とFleming医師は指摘した。しかし、「われわれの臨床経験から、術前放射線療法を実施することで、断端陰性切除を達成する可能性が高まると考えられます」とFleming医師は述べた。Fleming医師らは、放射線照射は腫瘍最外層の細胞を殺傷し、腫瘍周囲に死細胞からなる辺縁を作り出し、この辺縁はきわめて高頻度に完全切除に必要な断端となる、との仮説を立てた。

放射線腫瘍学教授のChristopher Crane医師もこれに同意し、「動脈への浸潤を伴う切除可能境界腫瘍患者の95%は化学放射線療法後に断端陰性切除を達成しました。これらの患者は全員、化学放射線療法を実施しなければ断端陽性であったと予想されます」と述べた。さらに、手術前に放射線療法を実施することで膵管空腸吻合部の外分泌が抑制され、重大な術後合併症の一つである縫合不全の予防の一助となる、とCrane医師は付け加えた。

Crane医師によると、MDアンダーソンがんセンターにおける膵臓腺癌患者に対する標準的な術前放射線療法は三次元原体照射で、実施期間は通常5.5週間である。この方法は効果的で忍容性も良好である。なお、より高度な方法は患者の費用負担を増やすだけと考えられる。

できる限り手術に進めるように、忍容性が良好な化学放射線療法レジメンを採用し、治療中の支持療法に十分配慮することが重要であると、Crane医師は強調した。

「旧来の治療パラダイムでは、手術成績に基づいて術後療法を実施する患者を選択しました。この順序を逆にすべきです」と消化器腫瘍内科教授のRobert Wolff医師は述べた。

外科医も含めた集学的チームの全員が化学放射線療法中の患者の状態を観察する機会を持つことが重要であり、それにより患者が手術に耐えられるかどうかを評価できる、とCrane医師は付け加えた。「膵臓腺癌患者は激しく衰弱していることが多く、全身状態が不良な場合が多々あります。そのため、患者の状態を観察する必要があります」。

手術

膵臓腺癌の根治的治療法は手術[腫瘍/周囲組織断端陰性の完全切除(R0)]のみである。完全切除(R0)は、術後病理検査にて許容される切除断端に肉眼的および顕微鏡的遺残腫瘍が認められないこと、と定義される。R0切除を達成できなければ、手術を実施する意味がないことが臨床試験で示されている。すなわち、切除断端に顕微鏡的遺残腫瘍が認められた患者(R1)における生存転帰は、手術せずに姑息的治療を受けた患者と差がなかった。

膵臓腺癌の手術では通常、試験的腹腔鏡検査を実施し、この検査所見に基づいて病期が決定し次第、最終的な切除術を実施する(切除不能と判定された場合を除く)。

膵頭部腺癌の最終手術は膵頭十二指腸切除術(Whipple手技としても知られている)である。膵臓は多数の血管や管とつながっており、切除術後にこれらを再建しなければならない。そのため、本手技は技術的に難しい手術である。多くの箇所を吻合する必要があり、それぞれの吻合箇所で、数ある術後合併症の一つである縫合不全が生じる可能性がある。これまでの手術成績から、本手術の周術期死亡率は高いことがわかっている。

膵頭十二指腸切除術の成績は手術チームの経験に大きく左右される。アメリカがん協会(ACS)の報告では、膵頭十二指腸切除術実施例の周術期死亡率は、年間手術数が少ない医療機関では15%であるが、年間手術数が多い医療機関では5%未満である。なお、MDアンダーソンがんセンターにおける膵頭十二指腸切除術実施例の周術期死亡率は1%未満である。

術前療法の適用拡大

切除可能または切除可能境界の膵臓腺癌患者に対するMDアンダーソンがんセンターのアプローチについて、その有効性が複数の試験で証明されている。例として、1つのレトロスペクティブ解析にて、術前療法を受けた患者はすべての予定治療を完了する可能性がより高いことが示されている。すなわち、最初に手術を受けた患者のうち、術後療法を受けることができた患者は60%未満であったが、術前療法を受けた患者のうち、手術を受けることができた患者は約70%であった。術前療法後に手術を実施しなかった理由で最も多かったのは、術前療法中の疾患の進行であった。これらの患者の疾患は侵襲性か、すでに進行しており、最初に手術を実施しても、術後早期に再発したであろう、と研究者らは考える。

このような結果が得られているにも関わらず、術前療法は普及していない。しかし、近年の進歩によって術前療法の適用は拡大するであろう、とWolff医師は考える。「第一に、手術先行の治療法は過去25年間の治療成績を変えていないとの認識が広がっています。第二に、画像診断の進歩により、切除可能境界腫瘍という新たな臨床サブカテゴリーが設けられました」とWolff医師は述べた。切除可能境界腫瘍患者の手術成績は術前療法を実施することで向上する可能性が示唆されており、これらの患者を特定することは重要である、とWolff医師は考える。MDアンダーソンがんセンターで実施した1試験において、切除可能境界腫瘍患者150人に術前療法を実施し、うち60人(40%)が最終的に手術を受けた。手術実施例の全生存期間の中央値は40カ月を上回り、切除断端陽性例は10%未満であった。

転移リスクが高いと考えられる患者に対して、手術先行の標準治療ではなく術前療法を実施するようになってきている、とWolff医師は述べた。切除可能境界腫瘍患者において術前療法による治療成績が増えれば、切除可能腫瘍患者に対しても術前療法をより適用しやすくなるであろう、とWolff医師は期待している。さらに、優れた全身療法や新薬が進行膵臓癌に有効と判明すれば、治療成績がより良好な術前療法を実施するようになるであろう、とVaradhachary医師は前向きに考えている。

術前療法の主な利点は、是正可能な危険因子を有する患者を医師が特定できることである、とFleming医師は付け加えた。「手術までの期間に、栄養状態や体力、全身状態を改善することができ、また、手術を実施不可能にしたり、術後合併症リスクを上昇させたりする、その他の医学的問題に対処することさえ可能です」と同医師は述べた。

— Sunni Hosemann

【中段図語句訳】

切除可能または切除可能境界の膵臓腺癌:最初の治療法
[左から1列目]                                  診断:膵外分泌腺癌
切除可能
切除可能境界

[2列目]
患者因子

・遠隔転移リスク
・全身状態
・遠隔転移リスク
・全身状態
・主要血管病変
[3列目]
最初の治療法
標準
手術
手術
または
術前療法
化学療法
または
化学放射線療法
または
導入化学療法+化学放射線療法
[4列目]                                    MDアンダーソンがんセンターの推奨
術前療法
化学療法
または
化学放射線療法
または
導入化学療法+化学放射線療法
術前療法
化学療法
または
化学放射線療法
または
導入化学療法+化学放射線療法

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翻訳担当者 永瀬祐子

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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