早期膵臓がんにおける低侵襲性膵体尾部切除術は有効

米国臨床腫瘍学会(ASCO)

ASCOの見解

「この確認試験は、切除可能な膵臓がんに対して低侵襲手術法が安全で効果的な選択肢であることを証明しています。このランダム化比較手術試験は、外科医と患者の両方にとって、熟練外科医の手による低侵襲手術が開腹手術に劣らないという安心につながることでしょう。これにより、がんリスクを高めることなく、回復時間の短縮や感染リスクの低減といったメリットが得られるかもしれません」と、ASCO専門家のJennifer F. Tseng医師は述べている。

切除可能な膵臓がん患者にとって、脾臓摘出を伴う低侵襲性膵体尾部切除術は、従来の開腹手術に代わる安全かつ効果的な方法であることが、国際共同ランダム化比較試験であるDIPLOMA試験の結果で明らかになった。膵臓の体部または尾部にある腫瘍と脾臓を切除するこの手術法は、開腹手術と比較して切開創が小さく、重篤な合併症のリスクも低いとされている。この研究は、米国臨床腫瘍学会年次総会2023(ASCO2023)で発表された。

試験要旨

目的切除可能な膵臓がんに対する低侵襲膵体尾部切除術と開腹膵体尾部切除術を比較検討すること
対象者12カ国35施設の切除可能な膵臓がん患者258人。腹腔鏡またはロボット支援による低侵襲手術を受けた患者は117人、開腹手術を受けた患者は114人であった。
結果・低侵襲手術の83人(73%)、開腹手術の76人(69%)で、腫瘍と周囲の健常な組織を完全に除去する「根治切除」が達成された。
・郭清されたリンパ節数は、中央値が低侵襲手術群で22個、開腹手術群で23個と、各群で同程度であった。
・腹膜再発率は、低侵襲手術群41%、開腹手術群38%と、両群間に有意差はなかった。
重要性この試験により、低侵襲性膵体尾部切除術は切除可能な膵臓がん患者に対する手術として有効な選択肢であることが確認された。この試験は、膵臓がんに対するこれら2つの手術法を比較した初のランダム化比較試験であり、患者さんや医師にとって、この低侵襲な選択肢が安全で有効であることを再確認するものである。

主な知見

DIPLOMA試験は、膵体部または尾部の早期膵臓がん患者を対象に、開腹手術と低侵襲手術の治療成績を比較した初のランダム化患者盲検試験である。開腹による膵体尾部切除術では大きな切開を1箇所に行うが、低侵襲手術では小さな切開を数箇所に行う。この手術では、さらにリンパ節を採取するために脾臓も摘出する。

この試験は、確立された治療法と別の治療法を比較し、新しい治療法が確立された標準治療に劣っていないことを確認する非劣性試験である。どちらの手術法も同程度の結果を示した。この試験の主要評価項目は、切除の根治性、すなわち腫瘍と周囲の健常な組織の一部を完全に切除することであった。根治切除は、低侵襲手術群の83人(73%)、開腹手術群の76人(69%)で達成された。手術後、以下の点も明らかになった。

・手術中に摘出されたリンパ節数、すなわち郭清されたリンパ節数の中央値は、低侵襲手術群で22個、開腹手術群で23個であった。膵体尾部切除術を成功させるための最小リンパ節郭清数は13である。

・腹膜再発、すなわち腹腔内で再発したがんの再発の割合は、低侵襲手術群で41%、開腹手術群で38%であった。

「手術はこの20年で大きな進歩を遂げました。その中でも特に重要なのは、低侵襲手術の導入です。膵臓がんについては、低侵襲の膵体尾部切除術が開腹手術に引けを取らないことが初めて証明されました。私たちの研究は外科医には安心感を与え、また患者にはどのような治療を受けたいか医師に相談するために必要な情報を提供するなどして手助けすることができます」と、筆頭著者のMadammad Abu Hilal医師(イタリア・ブレーシアのInstituto Ospedaliero Fondazione Poliambulanza外科部長)は述べた。

米国では2023年に膵臓がんと診断される成人は64,050人と推定され、そのうち外科的な腫瘍切除が可能な早期で診断されるのはわずか12%に過ぎないと言われている。手術で治療可能な早期膵臓がんの5年相対生存率は44%である。1

これら2つの手術法を比較するこれまでの研究はシステマティックレビューで行われ、開腹による膵体尾部切除術と低侵襲膵切除術の間で同様の結果が得られることが示されてきた。しかし、研究対象であった膵臓外科医の3分の1は、開腹手術と比較した低侵襲手術の安全性と有効性について懸念を示している。このランダム化盲検試験は、低侵襲性膵体尾部切除術が早期切除可能な膵臓がん患者にとって実行可能な選択肢であることを示す証拠となる。

試験について

2018年5月から2021年5月にかけて、国際共同第3相DIPLOMA試験には、切除可能な膵臓がん患者258人が登録された。そのうち、231人が試験の参加を継続し、低侵襲の膵体尾部切除術を受ける介入群と、標準的な開腹手術を受ける対照群のいずれかに無作為に割り付けられた。 患者本人も、検体を検査した病理医も、受ける手術の種類について盲検化された。

次のステップ

この研究では、これらの患者の追跡調査を継続して3年後と5年後の転帰を比較するほか、この試験で採取した検体の追加分析では切除した脾臓のリンパ節数を調べて脾臓の摘出が必要であるかどうかを判断する。また、腹腔鏡手術とロボットによる低侵襲手術の予後を比較するための追加試験を行う予定である。

参考文献

1. Pancreatic Cancer: Statistics: https://www.cancer.net/cancer-types/pancreatic-cancer/statistics

  • 監訳 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
  • 翻訳担当者 瀧井希純
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  • 原文掲載日 2023/05/25

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