前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが大幅に低減

治療の高い成功率により、米国の画期的な臨床試験が早期終了に

HIV感染者の肛門がんは、その前がん病変を治療することで本格的ながんに進行するリスクを大幅に低減可能であることが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の研究者らが実施した大規模第3相試験で明らかになった。

4,446人を対象としたランダム化臨床試験(ANCHOR試験:Anal Cancer/HSIL Outcomes Research)の結果、肛門に生じた高度扁平上皮内病変(HSIL)を除去することで、肛門がんに進行する可能性が有意に減少することがわかった。

このような結果が示されたのはANCHOR試験が最初である。試験は米国内の21施設で実施された。結果は査読誌に投稿される予定であり、公衆衛生上の重要性を考慮して、現在すでに公表されている。

「本研究は、肛門がんおよびその前がん病変の経過、予防、治療に関する数十年の研究を総括するものです。また、肛門がんのリスクが高い人々に対する標準的な治療ガイドライン(高度扁平上皮内病変のスクリーニングや治療も含まれる)を作成する上で重要な情報を提供するものです」と研究責任者であるUCSF医学部教授Joel Palefsky医師は述べた。

「HIV感染者の肛門には高度扁平上皮内病変がしばしば見られ、ときに治療が困難な場合もあるのですが、子宮頸がんと同様に、そうした高リスクの患者においても肛門がんは予防できることをANCHOR試験のデータは初めて示しました」とPalefsky医師は述べる。「今回の研究はHIV感染者を対象に行われましたが、この結果は肛門がんのリスクが高いことが知られている他の人々、たとえば外陰がんや子宮頸がんの既往歴のある女性、HIV陰性の男性と性交渉をもつ男性、HIV感染以外の理由で免疫機能が低下している男女などにおいても、同様に肛門がんの予防が可能であることを示唆しています」。

Palefsky医師は1991年に世界初の肛門がん予防専門のクリニックをUCSFで設立した。現在はUCSF Anal Neoplasia Clinic Research and Education Centerとして知られており、サンフランシスコのUCSF Medical Center at Mount Zionに拠点がある。

この研究では、HIV感染者で肛門に前がん病変がある35歳以上の患者を、病変を治療する群と、治療せず積極的監視を行う群との2群に無作為に割り付けた。

治療法としては、電気焼灼法が最も多かった。これは高度扁平上皮内病変(HSIL)部分を電気メスで焼き切って除去する方法で、日帰り手術施設で行うことが可能である。参加者は3~6カ月ごとに再評価され、2群間での肛門がんの発症率が比較された。

肛門がんの発症率はHIV感染者で非常に高く、これは子宮頸がんと同様である。どちらもヒトパピローマウイルスとの強い関連性があり、発症の前に高度扁平上皮内病変が見られる。

子宮頸部の高度扁平上皮内病変を発見して治療する子宮頸がん予防プログラムは標準的な治療法であり、子宮頸がんの発症リスク低減に非常に有効である。肛門の高度扁平上皮内病変の治療を検討する最大の理由もまた、肛門がんの発症リスクを低減することにある、と研究チームは述べている。「ANCHOR試験は、肛門がん予防プログラムを肛門がんのリスクが高い人に対する標準治療として推奨する上で、重要な情報を提供する可能性があります」。

本研究は、UCSFのPalefsky医師らのチームが主導し、米国国立がん研究所(NCI)がサポートするエイズ悪性腫瘍コンソーシアムを通じて実施された。統計解析に関するサポートはアーカンソー医科大学が、開発業務受託機関としてのサポートはThe Emmes Company LLCが提供した。

翻訳担当者 岩佐薫子

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)

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