神経内分泌腫瘍患者に恩恵をもたらす新規治療
放射性同位元素で標識する腫瘍細胞傷害を促進する標的薬が、ある種の進行性神経内分泌腫瘍(NET)患者にとって、
第3相試験に参加した患者群は標準の一次治療に抵抗性の腫瘍を有していた。新薬である177Lu-Dotatateで治療を受けた患者群ではがんの進行がなく、高用量オクトレオチドLAR(販売名サンドスタチンLARデポ)投与を受けた患者群より実質的に長期生存した。
この知見はまた、この薬剤が患者の全生存期間を改善する可能性も示唆している。しかし、それを明確に示すには長期追跡が必要であると、本試験責任者であるフロリダ州タンパのMoffittがんセンターのJonathan Strosberg医師は言った。
この試験の結果は1月12日発行のNew England Journal of Medicine(NEJM)誌に掲載された。
試験参加者は消化管の中間部を原発とし、中腸NETとして知られる進行性NETを有していた。標準治療に抵抗性をもった中腸NET患者において効果が示されている治療はほとんどない、とStrosberg氏は言った。
特に本試験では副作用の発現が限定的であったことから、試験結果は「とても勇気づけられるもの」であったと彼は続けた。
本試験の早期データと主に欧州で実施された小規模試験から得られた結果に基づき、177Lu-Dotatateは中腸NETおよび消化管のその他の部位にNETを有する患者に対する治療薬として、現在、米国食品医薬品局(FDA)に審査を受けている。
NET細胞を標的とし傷害する
NETは神経内分泌細胞から発生する。神経内分泌細胞は神経細胞に似ているが、内分泌細胞またはホルモン産生細胞のように挙動する。神経内分泌細胞は肺や消化管において重要な生理機能を果たしている。
これまでに良性も含め40種類以上の異なるタイプのNETが同定されているが、本腫瘍は比較的希少である。またその多様性、異質性、挙動から、同じ解剖学的部位における腫瘍の中でも悪性度が高い。
一般的には小腸中間部(空腸)から結腸開始部(上行結腸)と定義される部分である中腸から発生するNETは最も頻度の高いがん性NETである。転移性中腸NETを有する患者は予後不良であり、5年以上の生存者は約半数のみである。
現在のNET治療の大半は、ソマトスタチンと呼ばれるホルモンの受容体を腫瘍が過剰発現していることを利用したものである。ソマトスタチンが受容体に結合すると、セロトニンや成長ホルモンなど何種類かのほかのホルモンの大量放出が妨げられる。
他の問題点として、NETは血中に多量のホルモンを放出し、カルチノイド症候群として知られる状態である、下痢や紅潮などの多くの問題を引き起こす。
ソマトスタチン自体は循環血中にとどまるのは数時間である。このため、より長時間循環血中にとどまっていられるソマトスタチンの異なる形態、または類似体(アナログ)がNET治療の根本となっている。
しかしながら、オクトレオチドLARなど現在FDAに承認されているソマトスタチンアナログの作用は、腫瘍の縮小というより、主に腫瘍の安定化と増殖遅延のみであると、Strosberg医師は説明した。
177Lu-DotatateはNET治療に使用されているほかのソマトスタチンアナログとは重要な点で異なっている。放射性同位体を取り込むのである。
Strosberg医師によると、177Lu-Dotatateのソマトスタチンアナログの成分はオクトレオテートで、これはNET細胞上の重要な受容体との親和性がほかのソマトスタチンアナログより強力である。標識される放射性同位体は177ルテチウムである。
二つの作用部位をもつソマトスタチンアナログは新しいものではない。PETスキャンを用いて腫瘍局在を示すイメージング剤としても検討されており、この目的で1種類以上の試薬がFDAから承認されている。
しかしながら、177Lu-Dotatateの場合、放射性同位体は治療的な役割を担う。いったん腫瘍組織に運ばれると、従来のソマトスタチンアナログより相当に強力な殺細胞または細胞傷害作用をもつ、とStrosberg医師は説明した。
改善された腫瘍縮小と生存率
本試験ではソマトスタチンアナログ投与下でも進行がみられた229例の転移性NET患者を、177Lu-Dotatate群または高用量オクトレオチドLAR群に無作為に割り付けた。
177Lu-Dotatate群は症状コントロールのため標準用量のオクトレオチドも併用した。この患者集団では高用量オクトレオチドLARが標準治療とみなされていないとStrosberg医師は指摘した。しかし、臨床現場ではこの投与法が採用されることも多いため、試験責任医師および規制当局は対照群での使用は「合理的な選択」であると感じたようだ、と彼は説明した。
NETTER-1と呼ばれる本試験は、本剤の製造元であるフランスの会社Advanced Accelerator Applicationsより資金提供を受け、主に欧米の病院で実施された。
治療開始20カ月後の時点で、症状悪化がみられなかったのは177Lu-Dotatate群で約65%の患者だったが、対照群では11%のみだった。全体として、顕著な腫瘍縮小がみられたのは177Lu-Dotatate群の18%に対して、オクトレオチドLAR群は3%のみであった。
歴史的に、これらの患者群における腫瘍縮小はまれである。このため、本試験でみられた2桁の腫瘍縮小率は、Strosberg医師によると「非常に高い」といえる。
死亡者は、高用量オクトレオチドLAR群14例、177Lu-Dotatate群26例と、高用量オクトレオチドLAR群で2倍多かった。入手可能なデータから、177Lu-Dotatateは「おそらく『全』生存に対する効果を有することが示唆されました」とStrosberg医師は言った。「患者にとって望みとなるこの可能性は、最終解析で裏付けられるでしょう」。
NETの異質的な性質を考慮すると、対象患者を中腸NETのみに限定した本治療の第3相試験を行うことが重要であると、NCIがん研究センター内分泌腫瘍部門長のElectron Kebebew医師は話した。
「本試験結果は顕著であり、進行性NETの患者に新規代替治療を提案するものです」と彼は述べた。
しかし、Kebebew医師は、177Lu-Dotatate治療に最も恩恵を受ける可能性がある患者集団を把握するためにさらなるデータが必要であることを注意した。本試験への参加資格があったのは、治療開始後3年以内に病勢増悪がみられた患者であったことに彼は言及した。
がんが進行するまでの期間が比較的長かった患者群を試験に含むことは、ほかの治療を検討した試験での結果に比べ、無増悪または全生存率データを歪めてしまった可能性がある、とKebebew医師は言った。
今のところ副作用は限定的である
放射性同位体を標識したソマトスタチンアナログは重篤な腎障害を引き起こす可能性があるが、少なくとも今のところ、NETTER-1試験ではそのような問題は報告されていない。
177Lu-Dotatate群で副作用発現がより多かったものの、重篤な毒性は限定的で対応可能であったとStrosberg医師は説明した。
「われわれはこれらの薬剤による治療後は患者の腎機能が進行的に低下していくことをみてきているので、患者を長期観察することが重要でしょう」とKebebew医師は話した。
本試験で最も多かった副作用は、吐き気と嘔吐だった。しかしこれらの異常は、多くの場合、177Lu-Dotatateによるものでなく、腎障害を防ぐために投与される約20種類のアミノ酸混合液の点滴に伴うものであったと、Strosberg医師は言った。
本試験以外に、177Lu-Dotatateが開発され広く検討されている欧州で治療を受けている患者は、2種類のみのアミノ酸の点滴を併用することが一般的で、嘔気はかなり少ない、と続けた。
2016年6月、FDAはAdvanced Accelerator Applications社から提出された177Lu-Dotatateの新薬承認申請を優先審査に認定した。これは、審査過程を早く済ませることを意味している。
しかし、昨年の後半、FDAは申請を支持するデータの提示法についての修正と、本剤の安全性およびいくつかの異なる患者集団での有効性に関する追加データを要求し、これにより本剤の承認決定が延期された。
【図のキャプション】
消化管の中間部、または中腸は、がん性神経内分泌腫瘍形成が最も起きやすい部位である。
クレジット:Terese Winslow
原文掲載日
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