高精度医療(Precision Medicine)試験で患者の治療選択肢が広がる

米国臨床腫瘍学会(ASCO) プレスリリース

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「本研究は、新たな治療法の特定に役立つ高精度医療(precision medicine:プレシジョン・メディシン)の驚異的な可能性を示していますが、臨床試験などの研究開発環境において、ゲノムに基づく検査や治療方法を探究する必要性も強調しています」と、Sumanta Kumar Pal医師(ASCO治療開発学専門委員)は話す。「腫瘍の異常は同様であるにもかかわらず、ある特定の患者は分子標的療法の利益を得られ、他の患者は利益を得られない理由を説明する未知の要因があるようです。その答えを見つけ出して、奏効する可能性のある治療をより多くの患者に適用するとともに、病状改善や延命の可能性が低い治療を患者が受けずに済むようにしなければなりません」。

腫瘍に分子異常がみられる患者に、その分子異常を狙った分子標的薬を投与する第2相試験の有望な早期結果が研究者から報告された。12の異なるがん種の進行がん患者129人のうち29人においてFDA承認適応外の薬剤による奏効が認められた。特定の分子異常のある腫瘍4種類において有望な反応がみられたため、これら腫瘍コホートは試験参加者を追加して拡大されている。

本研究は本日の記者会見で取り上げられ、2016年ASCO年次総会で発表される。

「腫瘍ゲノム検査の利用の可能性はますます高まっており、今回のような研究によって、より多くの患者が高精度医療という治療アプローチの利益を受けられるようになるでしょう」と、本研究の主著者John D. Hainsworth医師(テネシー州ナッシュビル、サラ・キャノン研究所 統括研究者)は話す。「結論を出すにはまだ早いですが、今回の知見は、たとえばHER2標的治療で言うと、現在適応のHER2陽性乳がんと胃がん以外にも利用できる可能性を示唆しています。私たちの研究は、HER2増幅大腸がん(HER2遺伝子の過剰コピーがあるもの)、さらにおそらく他のHER2陽性がんに対するHER2標的療法の効果について初歩的な知見を強く示しています」。

試験について

MyPathwayとは、有効な治療法がない進行がん患者に対する4つの治療レジメンを評価する、現在進行中の非ランダム化非盲検試験である。この全米的研究には現在39施設が参加している。

試験対象となる患者の条件は、分子検査をすでに受け、HER2、BRAF、ヘッジホッグ、EGFR経路のいずれかに異常を示すがんであることとされた。患者ごとに、それぞれの分子異常を標的とする薬剤が決められた。患者にHER2異常(増幅、過剰発現、変異)がある場合は、トラスツズマブ(ハーセプチン)およびペルツズマブ(パージェタ)の併用、BRAF変異にはベムラフェニブ(ゼルボラフ)、ヘッジホッグ経路変異にはvismodegib [ビスモデギブ](米国商標Erivedge [エリベッジ])、EGFR変異にはエルロチニブ(タルセバ)で治療が行われた。これらの治療法に関する現行の適応以外のがん種のみを試験対象とした。

試験の主要な結果

試験当初に登録された患者129人のうち、HER2に異常があったのは82人、BRAF異常は33人、ヘッジホッグ異常は8人、EGFR異常は6人であった。患者全員が進行固形がんを患い、平均3回の前治療を受けていた。合計でがん種12種類の患者29人が分子標的治療に反応した。反応を示した患者のうち14人は、中央値6カ月(3~14カ月)の治療後で病態が進行し、15人は治療から3カ月~11カ月後も効果が持続している。

最も有望な効果はHER2に異常のある患者で確認され、大腸がん患者20人中7人、膀胱がん患者8人中3人、胆管がん8人中3人が客観的奏効(30%以上の腫瘍縮小)を示した。これらの結果から、上記患者群への登録が拡大された。

BRAF変異を有する肺がん患者群も増員される予定である。この患者群の当初登録者15人のうち、3人が客観的奏効を示し、2人は病態安定(がんが縮小も増殖もしない状態)が4カ月以上続いた。

次のステップ

本研究は、患者500人までを対象とするようにデザインされている。治療による効果が少ないことが判明したグループは試験を早期で切り上げ、効果が実証されたグループは登録患者を追加する。研究者らは、これらの経路を標的とする新規レジメンの組み入れも計画している。たとえば、MEK阻害剤cobimetinib[コビメチニブ]はまもなく、BRAF変異患者に対するベムラフェニブと併用される。将来、新たに追加される分子異常を標的とする新規薬剤の組み入れも計画されている。

本研究はGenentech, Inc.社の資金提供を受けた。

翻訳担当者 山田登志子

監修 花岡秀樹(分子生物学・遺伝子解析/サーモフィッシャーサイエンティフィック)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

その他の消化器がんに関連する記事

HIV感染者の肛門がん予防について初めてのガイドラインを専門委員会が発表の画像

HIV感染者の肛門がん予防について初めてのガイドラインを専門委員会が発表

スクリーニングと治療に関する新たな推奨は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が主導した全国的な大規模研究の結果に基づいているHIV感染者の肛門がん前駆病変を検出・...
意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
進行性神経内分泌腫瘍に二重作用薬カボザンチニブが有効の画像

進行性神経内分泌腫瘍に二重作用薬カボザンチニブが有効

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)・ 腫瘍細胞の増殖と腫瘍血管新生を標的とするカボザンチニブ(販売名:カボメティクス)は、膵外神経内分泌腫瘍および膵神経内分泌腫瘍の患者において、プラセボと比...
前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが低下の画像

前がん病変治療でHIV感染者の肛門がんリスクが低下

HIV感染者を対象とした大規模臨床試験から、肛門の前がん病変である高度扁平上皮内病変(high-grade squamous intraepithelial lesions:HSIL)の治療により、肛門がんの発症率が半分以下に減少することが