標的免疫療法の新たな可能性が研究により明らかになる

米国国立がん研究所(NCI)/ブログ〜がんの動向〜

原文掲載日 :2015年10月29日

米国国立がん研究所(NCI)の研究チームは、数種の消化器がんは免疫系が認識しうる腫瘍特異的変異を有していることから、こうした腫瘍を持つ患者に対しては新たな治療法の可能性があると報告した。

Science誌の10月29日号に報告された本研究の統括著者でNCIのがん研究センター外科部門長であるスティーブ・ローゼンバーグ医師によれば、転移性消化器腫瘍では、特異的な遺伝子変異を標的としているT細胞(細胞を殺傷する白血球)を特定できるという。

それは、最も一般的な形態の免疫療法であるチェックポイント阻害剤が、ほとんどの消化器がんに対して有効性を示していないため、重要な知見だと、ローゼンバーグ医師は述べる。

この新しい研究によって、養子細胞移入と呼ばれる異なるタイプの免疫療法開発への「道が開かれる」こととなり、消化器がんやそれ以外の多くのがんに適用できる可能性もあるという。

一人の患者からはじまった研究

メラノーマや喫煙に誘発された肺がんなどのがんは、多数の遺伝子変異を有しているため、特に免疫原生が高い。つまり、非常に強い免疫反応をおこす傾向にあることを示している。

こうしたタイプのがんでは、ニボルマブ(オブジーボ) や、ペンブロリズマブ(キートルーダ)などのチェックポイント阻害剤の有効性が最も高い。

しかし消化器がんを含む一般的な上皮性がんは、メラノーマや肺がんに比べ変異が非常に少ない傾向にあるため、腫瘍特異的な免疫反応を誘発するかどうかが不明であったと、同医師は言う。

昨年、ローゼンバーグ医師が率いる研究チームは、進行胆管がんを患う一人の女性患者で、腫瘍特異的変異を標的とするT細胞を肺の転移巣で特定できたと報告した。この患者はその後、患者自身の変異に特異的なT細胞を増やしたものを使い、養子細胞移入を受けた。転移した肺と肝臓の腫瘍は2年以上にわたり、今も退縮を続けている。

この知見を踏まえた新たな研究には、継続中の臨床試験の一環としてNCIで治療を受けている患者9人を加えた。患者は大腸がん、膵臓がん、胆管がん、食道がんを有しており、すべて転移性であった。分析には最初の胆管がん患者のデータも含めた。

より多くの患者で、さらなる可能性

全体としては、患者の腫瘍が有する遺伝子変異は少なめであった。それでも研究者は、評価をした10人の患者のうち9人の転移腫瘍で、少なくとも1つの特異的変異を認識するT細胞を特定することができた。NCI研究チームはこれ以後も活動を拡大し、研究に参加した16人の患者のうち15人について変異特異的な免疫細胞を特定したと、ローゼンバーグ医師は話した。

また研究チームは数人の患者について、膵臓がんと大腸がんをはじめ、多くのがんによくみられるKRAS遺伝子の変異を認識する免疫細胞を探し出した。KRAS変異は、免疫系が認識する唯一の変異で、複数の患者の転移で確認できた。

ある種のがんでは、KRAS変異が比較的頻繁であることを考えると、この知見はKRAS変異のある腫瘍を認識する受容体を発現するように改変したT細胞という「容易に使用可能」な免疫療法の可能性をさぐる下地になると、ローゼンバーグ医師は指摘する。

この研究に参加した最初の10人の患者のうち2人は、自らの変異特異的なT細胞を使った追加治療を受けたが、治療効果は示されなかった。これらの患者では、血中循環に長期的に残る移入T細胞がほとんどなかった。胆管がんの患者では、治療の1ヶ月後で、血中に循環しているT細胞の4分の1近くが変異に特異的な養子移入細胞であった。

多くのがんへの青写真

いかに移入T細胞の持続性を改善するかを含め、さらに多くの研究が必要であると、ローゼンバーグ医師は話す。しかし同医師は、今回の研究が示した知見について希望も持っている。

「患者のがんの中から変異を特定し、そうした特異的変異を認識できるようT細胞を改変するという考え方は、多くの異なるタイプのがんを治療する青写真になる」と同医師は述べた。

NCIチームは、すでにこれらの知見に続く初期の臨床試験を計画していると、ローゼンバーグ医師は話した。

[画像訳]

治療前、20ヶ月後
転移性の胆管がん患者が、自らの変異に特異的なT細胞を使った免疫療法による治療を受けた結果、肺転移と肝臓の腫瘍の退縮が2年以上続いている。

原文

翻訳担当者 片瀬ケイ 

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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