HIV感染者の肛門がん予防について初めてのガイドラインを専門委員会が発表

スクリーニングと治療に関する新たな推奨は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が主導した全国的な大規模研究の結果に基づいている

HIV感染者の肛門がん前駆病変を検出・治療して肛門がんの発症リスクを低減することを目的としたはじめての全米ガイドラインが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の主導による全国的な研究の結果をもとに作成された。

このガイドラインは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校感染症科のJoel M. Palefsky教授が主導したAnal Cancer/HSIL Outcomes Research(ANCHOR)試験の結果を用いて、HIVケアの専門家委員会が7月9日に発表した。ANCHOR試験は、米国国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究所(NCI)が資金を提供し、AIDS Malignancy Consortiumが実施した。

全米25の臨床施設で実施したANCHOR試験は、2022年にNew England Journal of Medicine誌で発表されたが、女性における子宮頸がんの予防と同じように、肛門の前がん病変の定期的なスクリーニングと切除によって肛門がんのリスクを大幅に低減できることを明らかにした。

「肛門がんは非常に悪質な疾患であり、われわれはとうとうそのリスクを大幅に減少させる手段を手に入れました」と肛門がんの世界的専門家であるPalefsky氏はいう。「この新たな推奨により、HIV感染者ケアにおいて肛門がんのスクリーニングが定期的に行われることを願っています」。

HIV感染者の肛門がんリスクは高い

肛門がんは一般集団ではまれだが患者数は増加しており、HIV感染者の間では4番目に多いがんである。

一般的な性感染ウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)感染者では、HIVとの重複感染により肛門がんの発症リスクが高まる可能性がある。新しいガイドラインでは「男性と性交渉を持つHIVに感染した男性と、トランスジェンダー女性のHIV感染者は肛門がんのリスクが最も高いグループである」としている。

肛門がんは初期には症状がなく、患者は痔と間違えてしまうこともある。診断される頃には進行・転移している可能性もある。

新ガイドラインでは、高解像度の肛門内視鏡検査(HRA)が可能であれば、HIVに感染している特定の成人(男性と性交渉を持つ男性およびトランスジェンダーの女性は35歳から、女性または男性と性交渉を持たない男性は45歳から)は、肛門ぬぐい液を用いた検査室検査と、がんを疑わせる病変を触診する​​​​肛門直腸指診を受けて、肛門がん前駆病変のスクリーニングを受けるべきであるとしている。

「スクリーニングの方法はいたって簡単です」とPalefsky氏はいう。「スクリーニング検査が陽性であれば、次の評価ステップはHRAです。HRAで肛門がんの前駆病変が見つかれば、がんに進行するリスクを減らすために治療が行われます」。

HRAが利用できない場合でも、スクリーニング年齢に達しているHIV感染者は、年1回の直腸検査を受け、陽性であれば標準的な肛門鏡検査を受けるべきである。痛み、出血、腫瘤がある人、肛門がんの徴候がある人は、標準的な肛門鏡検査を受けるべきである。Palefsky氏は、35歳未満のHIV感染者でも症状のある人は標準的な肛門鏡検査を受けるべきだと付け加えた。

「HIV感染者がかかりつけ医と肛門がん検診について話し合うことを強く勧めます」。

1991年、Palefsky氏は肛門がんの予防に焦点を当てた世界初のクリニック、UCSF Anal Neoplasia Clinic Research and Education Centerを設立した。

新ガイドラインの推奨は、HIVケアの専門家で構成される、米国保健福祉省の「成人および青少年HIV感染者における日和見感染の予防と治療に関する会議」によって作成された。同会議は、NIHのOffice of AIDS Research Advisory Councilの作業部会であり、米国疾病管理予防センター、HIV Medicine Association、および米国感染症学会と協力している。

  • 監訳 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 翻訳担当者 奧山浩子
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  • 原文掲載日 2024/07/18

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