一部の消化管間質腫瘍(GIST)ではイマチニブを中断なく使用すべきとの臨床試験結果

一部の進行した消化管間質腫瘍(GIST)の治療薬としてイマチニブ(販売名:グリベック)を投与されている人は、病状が悪化するまではその治療を中断せずに続けるべきであるとする臨床試験の新たな結果が示された。

フランスで実施されたこの試験には、イマチニブによる治療を1年、3年、または5年間受けた進行GIST患者が組み入れられた。治療期間終了時に腫瘍の増殖が止まっていた、腫瘍が縮小していた、または消失していた参加者を、疾患進行(増殖し始める、悪化する)までイマチニブを継続する群と中止する群に無作為に割り付け、最長20年間追跡した。

いずれの治療期間についても、治療終了時にイマチニブを中止した参加者では、疾患がより急速に悪化し、イマチニブが効かなくなる(薬剤への耐性が生じる)までの期間が短く、治療継続群の患者と比べて生存期間が長くなかったことが、8月7日付のLancet Oncology誌に報告された。

これらの知見から、ほとんどの進行GIST患者はイマチニブ治療を中断することなく継続すべきであるとの専門家の推奨が裏付けられる、と本試験の治験責任医師Jean-Yves Blay医師(フランス リヨン、レオンベラール・センター)は指摘した。

「イマチニブ治療の中止は、よほどの医学的理由がない限り控えるべきです」とBlay医師は言う。

付随論説の著者らも同意見である。もしイマチニブが進行GIST患者に効いているのであれば、「良いことを止めてはいけない」と、Ryan Denu医学博士とNeeta Somaiah医師(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)は書いている。

休薬について

チロシンキナーゼ阻害薬という治療薬の一種であるイマチニブは、進行GIST患者に対する標準的な初回治療として長い間使用されてきた。イマチニブは腫瘍を縮小させることができるが、がんはやがてその薬に対して耐性を獲得し、再び増殖し始める。

研究者らによれば、イマチニブの投与期間を制限する他の要因としては、薬剤のコスト、吐き気や嘔吐など患者のQOLに影響を及ぼすような副作用がある。

このような問題を前提として、「患者が治療中断に疑問を抱くのは当然のことです」と、NCIがん研究センターのAndrew Blakely医師は言う。GIST専門医である同医師は、本研究には関与していない。

米国および欧州のガイドラインでは一般的に、進行GIST患者が治療の副作用に耐えられ、病状が安定している限り、イマチニブを無期限に継続することを推奨している。今回の新たな知見は、この指針を支持すると同時に、新たな洞察を追加するものである。

本研究は、上記論説著者らが記すように、「イマチニブ投与で病勢進行なしに3年を経過した患者は、イマチニブ長期投与でより良好な転帰が得られる可能性が高い」という事実を強調するものある。

「イマチニブの中断が薬剤耐性のリスクや生存に悪影響を及ぼすとは予想していませんでした」とBlay医師は言う。

すべての試験で、中断のない治療で好結果

今回の臨床試験BFR14には、外科的治療が不可能である、または転移がある進行GIST患者が登録された。参加者全員がイマチニブによる治療を開始し、がんが悪化し始めない限り、少なくとも1年間は治療を継続した。その後、研究者らは患者を、治療を継続する群、中止する群のいずれかに無作為に割り付けた。

治療開始3年後と5年後に病勢が安定している患者については、この無作為割り付けを繰り返した。すべての症例において、治療中止群の患者は、がんが再び増殖し始めた場合、治療を再開することができた。

BFR14試験タイムライン

BFR14試験では、参加者はイマチニブを中止する群と継続する群に無作為に割り付けられた。試験のタイムラインは以下の通りである:

2003年5月〜2004年3月: イマチニブ1年投与後、32人を投与中止、26人を投与継続に割り付け。

2005年6月~2007年5月: イマチニブ3年投与後、25人を投与中止、25人を投与継続に割り付け。

2007年11月~2010年7月: イマチニブ5年投与後、14人を投与中止、13人を投与継続に割り付け。

その結果、すべての時点で中断のない治療で良好な成果が得られた。

例えば、イマチニブ投与を3年後も継続した25人では、無作為割付け日から何らかの原因で死亡するまでの期間の中央値は11.2年(134カ月)であったのに対し、3年後に投与を中止した25人では8.6年(104カ月)であった。

無増悪生存期間(がんが悪化せずに生存する期間)は、イマチニブ投与継続群の方が中止群よりも長かった。例えば、イマチニブ投与を1年後も継続した人たちの無増悪生存期間中央値は27.8カ月であったのに対し、その時点で治療中止に割り付けられた人たちでは6.1カ月であった。

各時点で治療を中止した群は、治療を継続した群よりも早くイマチニブに対する耐性を獲得した。例えば、1年後にイマチニブを中止した群では、耐性獲得までの期間の中央値はほぼ2.5年(28.7カ月)であったのに対し、治療を継続した群では7.5年(90.6カ月)であった。

イマチニブを中止した患者において耐性がより早く生じる理由を解明するには、さらなる研究が必要であると、Denu医師とSomaiah医師は記している。

これらの知見は、イマチニブ治療について患者と医師が話し合う上で役立つだろうとBlakely医師は言う。

「がん専門医は今回の結果を引用すれば、休薬延長や、任意時点以降の治療中止が通常推奨されない理由を詳しく説明できるかもしれません」。

がん臨床試験の長期追跡調査から得られた新たな知見

BFR14試験の先行結果では、進行GISTでも腫瘍の増大がみられない一部の患者では、1年間の治療後にイマチニブを休薬しても安全である可能性が示唆されていた。

「今回の結果は、試験参加者を長期間追跡してわかる重要な情報を示しています」とBlay医師は言う。

研究者らが指摘する本試験の限界は、無作為化および病勢進行の時点で腫瘍の分子学的特徴が明らかであった参加者の割合が少ないことである。この情報があれば、GISTの生物学的性質とその治療法に関する手がかりが得られる可能性がある。

イマチニブが効かなくなった患者には、スニチニブ(販売名:スーテント)やニロチニブ(販売名:タシグナ)などの新しいチロシンキナーゼ阻害薬がある。医師は患者の腫瘍の生物学的特徴に基づいて、これらの次世代治療薬から選択することができる。

「私たちは、次の治療法を選択する際に(腫瘍の)特定の遺伝子変化に着目することによって、GIST治療のアプローチを改良しています」とBlakely医師は述べた。

  • 監訳 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024年9月19日

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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