切除可能な肝臓がんに術前セミプリマブ(PD-1阻害薬)は有望

PD-1阻害薬セミプリマブ(cemiplimab、販売名:Libtayo)術前投与は現在進行中の第2相試験において、切除可能な肝細胞がん(HCC)患者の3分の1に病理学的奏効をもたらした。

「この試験では、術前におよそ3週間治療を実施したにすぎません」と電子メールでロイター ヘルスに語ったのは、Thomas Marron博士(マウントサイナイ・アイカーン医科大学、ニューヨーク)である。「目標は、必ずしも切除しようとする腫瘍を死滅させることではなく(これらの患者はいずれにしても手術を受けることになる)、どのような腫瘍であるかを免疫系に教え、体内のどこかに残存し、最終的に再発につながる微小病変を認識し排除できるようにすることでした」。

「およそ3分の1の患者において、わずか数週間ですでに顕著な腫瘍の死滅がみられました」と同氏は指摘する。「肝がん以外の腫瘍(特に肺がん)の術前投与試験において、この治療が予想以上に早く効果を示すことがすでに証明されていましたので、必ずしも驚くべき結果ではありませんでしたが、いずれにしても喜ばしいことでした」。

「特にそう言えるのは、腫瘍壊死によってこれらの患者ががんを再発しない可能性が高まると考えられるためです」と語る。「このことは、おそらく肝臓がんにおいて最も重要であると言えます。というのも肝臓がんは、1)手術後の再発率が70%と高く、2)がんの再発リスクを低減することが証明された標準的な術前または術後治療がないためです」。

Lancet Gastroenterology and Hepatology誌で報告されているように、この単群、非盲検、第2相試験では、切除可能な肝細胞がん(ステージIb、II、IIIb)の患者が登録され、術前セミプリマブ350 mgを3週間おきに2サイクル静脈内投与された後、外科切除を受けた。

切除後、術後セミプリマブ350 mgを3週間おきに8サイクル静脈内投与された。

主要評価項目は、病理検査での有意な腫瘍壊死(切除された腫瘍の70%以上の壊死と定義)であった。

21人の患者が登録され、術前セミプリマブ投与を受けた。20人が切除に成功し、そのうち4人(20%)が有意な腫瘍壊死、3人(15%)が部分奏効、その他が安定を示した。

20人(95%)の患者が、術前治療中にいずれかのグレードの「試験治療下で発現した有害事象」を経験した。グレードを問わず最も多かったのは、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST)の増加(4人)、血中クレアチンホスホキナーゼの増加(3人)、便秘(3人)、疲労(3人)であった。

グレード3の有害事象が7人にみられ、血中クレアチンホスホキナーゼの増加(2人)、低アルブミン血症(1人)などが含まれた。グレード4または5の有害事象は発生しなかった。

1人の患者が肺炎を発症し、手術が2週間延期された。

著者らは、「本コホートで観察されたセミプリマブに対する病理学的奏効は、肝細胞がん患者における最適な治療期間を決定し、術前PD-1遮断の臨床的有用性を明確にする大規模試験の計画を支持する」と結論づけている。

「この試験で注目すべき点の1つは、この術前治療が、臨床医と患者の共通の懸念である手術の大幅な遅延を引き起こさなかったことです」とMarron博士は語る。「特に、コロナウイルス感染症が流行している今の時代、患者が手術を受けるまでに数週間を要する場合が多いことを考えると、このような短期間の治療は、副作用の可能性が比較的低く、患者に大きな利益をもたらす可能性があります」。

James Harding博士(スローンケタリング記念がんセンター、消化器腫瘍学・早期医薬品開発サービス、ニューヨーク)は、ロイター ヘルスへの電子メールで試験についてコメントしている。「この結果は、肝細胞がん患者における免疫チェックポイント阻害薬の抗腫瘍効果を引き続き裏付けるものです」。

「ここでの新規性は、この試験が、疾患の初期ステージで免疫チェックポイント阻害薬を単独または組み合わせて使用することを試みる試験の一つであるということです」と語る。「この小規模な試験の予備結果は非常に興味深いものですが、当然、より大規模なランダム化比較試験が必要であり、初期ステージの患者で周術期治療が標準治療となるかどうか確認が進められています」。

「肝細胞がん治療のパラダイムは進化しており、臨床医と患者は注意深く見守る必要があります。私の目から見ても、この分野は急速に変化しています」とHarding博士は結論する。

本試験は、Regeneron Pharmaceuticals社から資金提供を受けた。Marron博士と多くの共著者は同社から報酬を受け取っており、17人の共著者は社員および株主である。

原典:https://bit.ly/3uajcki、Lancet Gastroenterology and Hepatology誌、オンライン版2022年1月19日

翻訳担当者 工藤章子

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

原文掲載日 

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