術前運動で肝臓を保護できる可能性

世界の多くの医療機関では、患者の手術結果を改善させるために、術前運動療法を指示している。オハイオ州立大学総合がんセンターのアーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC – James)、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターおよび医学部の研究者の主導でマウスを用いた新たな研究が実施され、手術による肝損傷に対する術前運動の予防効果の基礎となるメカニズムを明らかにした。

本研究結果は、Nature Metabolism誌のオンライン版に掲載されている。

術前運動療法は、手術を受ける多くの患者の手術結果を改善させることが示されているが、術前運動が炎症性損傷から臓器を保護するメカニズムは明らかになっていない。

オハイオ州立大学の研究者たちは、臓器に十分な血液が供給されない状態(虚血)と、血液供給が組織に戻ったときに起こる組織の損傷(再灌流障害)の基礎となるメカニズムを研究してきた。この種の損傷は、肝臓の手術中によく起こる。

「これは大きな発見であると考えています。基礎となる分子メカニズムを理解することで、運動耐性のある患者向けに術前療法を正確に設計でき、自然免疫細胞を鍛えて炎症反応を調節できるようになるでしょう」と、本研究の共著者である、オハイオ州立大学外科部門外傷・救急・熱傷分野准教授Meihong Deng医師は述べている。

本研究では、マウスで実施した4週間の有酸素運動の術前運動レジメンが、虚血および再灌流による肝臓の損傷や炎症を有意に軽減させることが明らかになった。重要な点としては、これらの有益な効果が、術前運動を終えた後にも、さらに7日間持続したことである。

本研究では、運動によって、代謝の再プログラム化が起こり、免疫力が鍛えられた抗炎症表現型へクッパー細胞が特異的に誘導されることが明らかになった。クッパー細胞は、肝臓内の不規則な形状の小血管(類洞)の内膜を形成する細胞の一種であり、赤血球の分解に関与している。

「今回の結果は、運動耐性のない患者向けの手法を模倣した新たな術前運動の開発に向けて、薬学的に利用可能な分子および細胞の標的を示しています」と、本研究の共著者である、OSUCCC – James外科腫瘍学部長Allan Tsung医師は述べている。Allan医師らの研究は、肝臓転移における手術で誘発された免疫応答に着目している。

本研究チームは、オハイオ州立ウェクスナー医療センターの外科および血液学部門、オハイオ州立感染症研究所の微生物感染・免疫部門のメンバーで構成されている。また、ピッツバーグ大学、中国武漢の華中科技大学、ボストンのベスイスラエル・ディーコネス医療センターからも研究者が参加している。

「われわれの研究グループは、肝臓の虚血および再灌流障害の基礎となる分子メカニズムを集中的に研究してきました。今後の研究では、臨床現場でこれらのメカニズムについてさらに研究するため、術前運動療法の患者から検体を採取する必要があります」と、筆頭著者であり、OSUCCC – James外科腫瘍学助教授兼Translational Therapeutic Programの研究者であるHai Huang医師は述べている。

本研究は米国国立衛生研究所(NIH)の助成金を受けている。

翻訳担当者 瀧井希純

監修 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)

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