IL-6経路阻害は肝がん免疫療法を増強する可能性

IL-6経路の阻害により免疫療法薬の持続期間が延長し、副作用が軽減する可能性

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターでの研究で、がんに関連する細胞経路が発見された。これにより、肝がんで最もよくみられる種類である肝細胞がん患者の一部では副作用が軽減し、免疫療法の持続期間が延長する可能性がある。

研究者らは、インターロイキン6(IL-6)というタンパクがヤヌスキナーゼ1(JAK1)という酵素を活性化するときに形成される細胞経路について、および抗IL-6抗体および抗T細胞免疫グロブリンムチン-3(抗Tim-3)が免疫療法を増強する可能性について検討した。研究結果は、7月15日付けJournal of Clinical Investigation 誌電子版で発表された。

IL-6/JAK1経路は腫瘍でみられることが多く、免疫系を抑制するタンパクの一種であるプログラム細胞死リガンド1(PD-L1)の極めて重要な細胞機能を制御することによってがんによる免疫回避に関与している可能性がある。

「研究の結果、抗IL-6抗体は抗Tim-3抗体と結合するとT細胞による殺傷効果を増強させることがマウスモデルで実証されました」と分子細胞腫瘍学部門の博士研究員であるLi-Chuan Chan氏が述べた。「われわれはPD-L1のグリコシル化開始を制御するメカニズムを特定しましたが、そのことは抗IL-6と抗Tim-3の組み合わせがマーカーに基づく効果的な治療戦略であることを示唆しています」。

研究者らは、肝がん患者183人のがん検体のIL-6およびPD-L1発現の相関関係を検証し、IL-6発現が高値の患者はPD-L1発現も上昇していることがわかった 。これまでのMDアンダーソンがんセンターの研究で、IL-6高値は肝がん患者の予後不良と関連があることが報告されていた。チームの新たな知見は、IL-6が肝がんのPD-L1発現に対し「生理学的に重要かつ臨床的に関連する」ことを示唆した。

「IL-6/JAK1経路がPD-L1のリン酸化に関与していることもわかりましたが、肝がんマウスモデルではそれががん免疫回避の主要な原動力となったとみられます」とChan氏は述べた。「これらの知見をまとめると、活性化されたJAK1が他の細胞内コンパートメントに移動する潜在的メカニズムを明らかにした可能性があり、今後さらなる研究が必要です」。

本研究はまた、免疫療法の副作用を低減する潜在的利益を示した。副作用は、患者が治療を続けられる期間を短くしてしまうこともある。免疫チェックポイント阻害薬は血清 IL-6の産生を促進することが示されており、これは関節炎、クローン病、乾癬様皮膚炎を引き起こす可能性がある。

「そのため、IL-6経路の阻害はこれらの副作用を解決し、免疫療法の持続期間を延長すると思われます」とChan氏は述べた。

MDアンダーソンがんセンターの研究参加者は以下のとおりである。Chia-Wei Li, Ph.D.; Weiya Xia, M.D.; Jung-Mao Hsu, Ph.D.; Heng-Huan Lee, Ph.D.; Jong-Ho Cha, Ph.D.; Wen-Hao Yang, Ph.D.; Zhengyu Zha, Ph.D.; Seung-Oe Lim, Ph.D.; Chunxiao Liu, Ph.D.; Jielin Liu; Qiongzhu Dong; Yi Yang; Linlin Sun; Yongkun Wei, Ph.D.; Jennifer Hsu, Ph.D.; and Hui Li, all of the Department of Molecular & Cellular Oncology; Manal Hassan, Ph.D.; and Ahmed Kaseb, M.D., of the Department of Gastrointestinal Medical Oncology; and Hesham Amin, M.D., of the Department of Hematopathology. Mien-Chie Hung, Ph.D., formerly of the Department of Molecular & Cellular Oncology, was senior author on the paper and served as.Ph.D. thesis mentor for Chan, an awardee of a T32 training grant in Cancer Biology.

本研究は下記の助成を受けている。The National Institutes of Health (P30CA016672, CA211615, U01 CA201777, AI116722, and 5T32CA18692); the Cancer Prevention & Research Institute of Texas (RP160710); The University of Texas MD Anderson Cancer Center-China Medical University and Hospital Sister Institution Fund; the Ministry of Health and Welfare, China Medical University Hospital (MOHW108-TDU-B-212-124024 and MOHW108-TDU-B-212-122015); the Ministry of Science and Technology Overseas Project for Post Graduate Research (MOST 104-2917-I-564-003); the National Research Foundation of Korea (MSIP 2011-0030001); and the MD Anderson Odyssey Fellowship Program.

翻訳担当者 太田奈津美

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肝臓がん・胆嚢がんに関連する記事

術前免疫療法薬により高リスク肝がんの手術適応が増え、予後改善の可能性の画像

術前免疫療法薬により高リスク肝がんの手術適応が増え、予後改善の可能性

従来なら手術の候補にならなかった患者が手術可能に

肝がん患者(従来の基準では手術の対象とならなかった患者など)に対し、術前に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を投与したところ、手術を先...
ERBB2/3遺伝子異常を有する胆道がんにペルツズマブ+トラスツズマブ併用が有望の画像

ERBB2/3遺伝子異常を有する胆道がんにペルツズマブ+トラスツズマブ併用が有望

ASCOの見解「ASCOが治験依頼者であるTAPURバスケット試験から得られた知見は、進行胆道がん(胆管がん、胆のうがん)の治療におけるERBB2/3経路の役割が非常に有望であ...
意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果の画像

意図せぬ体重減少はがんの兆候か、受診すべきとの研究結果

ダナファーバーがん研究所意図せぬ体重減少は、その後1年以内にがんと診断されるリスクの増加と関連するという研究結果が、ダナファーバーがん研究所により発表された。

「運動習慣の改善や食事制限...
HER2標的トラスツズマブ デルクステカンは複数がん種で強い抗腫瘍効果と持続的奏効ーASCO2023の画像

HER2標的トラスツズマブ デルクステカンは複数がん種で強い抗腫瘍効果と持続的奏効ーASCO2023

MDアンダーソンがんセンター(MDA)トラスツズマブ デルクステカンが治療困難ながんに新たな治療選択肢を提供する可能性

HER2を標的とした抗体薬物複合体であるトラスツズマブ デルクステ...