癌の凍結外科手術
NCIファクトシート
Key Points ・ 凍結外科療法とは異常細胞を凍結し、死滅させる術式です。種々の癌および前癌性または非癌性疾患の治療に用いられ、体内および皮膚のどちらに対しても使用することができます(Question 1参照)。 ・凍結外科療法は手術の代替法として、拡大していない肝癌、他部位から肝臓へ拡大した癌、前立腺に限局している前立腺癌、子宮頚部の前癌病変、および骨の癌性ならびに非癌性腫瘍を対象としています(Questions 2、3、4参照)。 ・凍結外科療法は他の治療法よりも副作用が少なく、費用もかかりません。回復に要する時間が短くてすみます(Questions 5、6参照)。 本法はまだ試験段階にあり、長期の有効性については分かっていません(Questions 7、8参照)。 |
凍結外科療法(冷凍療法とも呼ぶ)とは、液体窒素(またはアルゴンガス)で発生させた超低温状態を利用して異常組織を破壊します。皮膚腫瘍など、体外に生じた腫瘍の治療に使用します。これらの腫瘍については、綿棒またはスプレーを用いて液体窒素を直接癌細胞に塗布します。
凍結外科療法は、体内に生じた腫瘍の治療にも使用します(内臓腫瘍および骨腫瘍)。これらの腫瘍については、冷凍プローブと呼ばれる中空針で液体窒素またはアルゴンガスを循環させ、腫瘍に接触させます。医師は超音波またはMRIを利用して冷凍プローブを誘導し、細胞の凍結具合を監視します。このようにして、隣接する健常細胞への損傷を抑えます(超音波では、音波が器官やその他の組織に当たって跳ね返り、ソノグラムと呼ばれる画像を描出します)。プローブの周囲にアイスボールが形成され、隣接する細胞を凍結します。液体窒素をさまざまな部位の腫瘍へ運ぶため、複数のプローブを使用することもあります。プローブは、術中または皮膚を通して(経皮的に)腫瘍に入れられます。凍結外科療法後、凍結組織は自然に溶けて体内に吸収されるか(内臓腫瘍の場合)、痂皮を形成します(体外に生じた腫瘍の場合)。
凍結外科療法は、種々の癌および前癌性または非癌性疾患の治療に用いられます。前立腺腫瘍および肝腫瘍のほかに、凍結外科療法は以下の治療に有効です。
凍結外科療法は、骨の軽度の癌性および非癌性腫瘍の治療にも使用されます。これはより広範な手術に比べて関節障害のリスクを抑制し、切断の必要性を軽減する可能性があります。皮膚病変が小さく、限局している場合は、エイズに関連するカポジ肉腫の治療にも使用されます。
研究者らは凍結外科療法を、乳癌、結腸癌、および腎臓癌などさまざまな癌の治療法として評価しています。また、凍結外科療法とホルモン療法、化学療法、放射線療法または手術など、他の癌治療との併用についても検討中です。
凍結外科療法は、前立腺に限局している早期前立腺癌男性の治療に使用することができます。本法は、標準的な前立腺切除術や種々の放射線療法ほど十分に確立されてはいません。長期の転帰は不明です。凍結外科療法が狭い領域に対してのみ有効であるため、前立腺を越えたり、遠隔部位へ拡大した前立腺癌の治療には使用されていません。
凍結外科療法の長所には、繰り返し施行することが可能であることや、年齢またはその他の医学上の問題のため、手術や放射線療法を受けられない患者の治療に使用できることなどがあります。
前立腺癌に対する凍結外科療法は副作用を引き起こすことがあります。副作用は、前立腺に放射線を受けたことのある男性に多く認められます。
◆ 性交不能(性機能の欠如)を来たす男性が多く認められます。
◆ 直腸に障害をもたらす場合があります。
凍結外科療法は、拡大していない原発性肝癌の治療に使用することがあります。特に、他の疾患などさまざまな因子により手術が不可能な場合に使用します。他部位(結腸や直腸など)から肝臓へ拡大した癌に使用することもあります。凍結外科療法の前後に、化学療法や放射線療法を施行する場合もあります。肝臓に対する凍結外科療法が胆管や主要血管を損傷し、出血(多量の出血)または感染をもたらすこともあります。
凍結外科療法にも副作用はありますが、手術や放射線療法に関連する副作用ほど重度ではないと考えられます。副作用は腫瘍の位置に影響されます。子宮頚部上皮内腫瘍に対する凍結外科療法により女性の受胎能が損なわれることはありませんが、さしこみ、疼痛、または出血を引き起こす可能性があります。凍結外科療法を皮膚癌(カポジ肉腫など)の治療に使用した場合は、瘢痕(はんこん)および腫脹を引き起こすことがあります。神経を損傷した場合は、感覚消失を来たすことがあり、まれに治療部位に色素消失および脱毛が認められることもあります。骨腫瘍の治療に使用した場合は、隣接する骨組織を破壊し、結果的に骨折を来たすことがありますが、このような副作用は治療開始からしばらくは起こらないことがあり、他の治療法により発生を遅延できる場合もあります。まれに特定の化学療法と負の相互作用をすることがあります。本法の副作用は、従来の手術や放射線療法に関連する副作用ほど重度ではないと考えられますが、長期の副作用を明らかにするためにはさらなる試験が必要です。
凍結外科療法には、他の癌治療より優れた長所があります。手術よりも侵襲性が低く、皮膚の切開口や凍結プローブの挿入口が小さくて済みます。その結果、手術による疼痛、出血、およびその他の合併症が最小限に抑えられます。本法は他の治療法よりも安価であり、回復に必要な時間が短く、入院期間も短いか、入院しない場合もあります。局所麻酔のみを用いて施行できる場合もあります。
凍結外科療法は限局された領域に集中して使用することが可能なため、医師は隣接する健常組織を破壊せずにすみます。繰り返し施行しても安全であり、手術、化学療法、ホルモン療法、および放射線療法など標準的治療法と併用する場合もあります。本法は、手術不能または標準的治療法に反応しないと考えられる癌の治療法となり得ます。さらに、年齢または他の疾患のため従来の手術の良い候補ではない患者にも使用することができます。
凍結外科療法の主な短所は、長期の有効性にまつわる不確実性です。凍結外科療法は、医師が画像検査(体内の領域を画像化する検査)の使用により視認可能な腫瘍の治療には有効ですが、顕微鏡的な癌の広がりを見逃す可能性があります。さらに、有効性についてはまだ評価の途中であるため、医療保険の問題が生じる場合があります。
癌のコントロールおよび生存期間の改善における凍結外科療法の有効性を明らかにするには、さらなる試験が必要です。これらの試験データから、医師らは凍結外科療法と手術、化学療法、および放射線療法など標準的な治療法を比較することができるようになります。また、医師らは凍結外科療法と他の治療法との併用の可能性について引き続き検討します。
子宮頚部新生物治療の場合、凍結外科療法は婦人科で広範に受けることができます。その他の非癌性、前癌性、および癌性疾患に関しては、熟練した医師および凍結外科療法施行に必要な技術を備えた病院およびがんセンターは現在のところ国内にそれほど多くありません。個人的に主治医に相談したり、地域の病院やがんセンターに問い合わせて凍結外科療法を用いている場所を探すことはできます。
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