中間型肝がんに経動脈化学塞栓療法ベースの併用療法が有効
肝臓がんの一種である中間型 (intermediate stage) 肝細胞がんに対する治療方法が、2つの大規模臨床試験の最新結果を受けて変わる可能性がある。両試験では、TACEと呼ばれる治療法を免疫療法薬および血管新生阻害薬と組み合わせて検証した。TACE(経動脈化学塞栓療法)では、カテーテルを使用して肝臓に化学療法薬を直接注入する。
TACEは長い間、中間型肝細胞がんの標準治療法であった。中間型肝細胞がんとは、がんが肝臓以外には転移していないが、肝硬変、腫瘍の大きさや位置などの問題により外科的に切除できない病状である。
2つの試験のうちLEAP-012試験では、TACEを免疫療法薬ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)および血管新生阻害薬レンバチニブ(販売名:レンビマ)と組み合わせて検証した。もう一方のEMERALD-1試験では、TACEに免疫療法薬デュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)および血管新生阻害薬ベバシズマブ(販売名:アバスチン)を組み合わせて検証した。
両研究は同様の結果となった。TACE+2剤併用療法を受けた患者は、TACEのみを受けた患者と比較して、無増悪生存期間(がんが再発したり悪化したりすることなく生存した期間)が長かった。無増悪生存期間の中央値は、LEAP-012試験では14.6カ月対10カ月、EMERALD-1試験では15カ月対8.2カ月であった。
両研究の結果は1月18日にThe Lancet誌に掲載された。
肝臓がんの新しい治療法の研究者で、どちらの研究にも関わっていないTim Greten医師(NCI)は、これら2試験にはいくつか重要な違いがあると説明した。例えば、EMERALD-01ではTACEを4回まで実施できたが、LEAP-012では2回しか実施できなかった。
さらに、両研究の患者に対する追跡期間は、併用療法が患者の全生存期間の延長に役立ったかどうかを判断するには十分ではないとGreten医師は指摘した。それでも、腫瘍専門医がより多くの中間型肝細胞がん患者にこれらの選択肢のいずれかを提供し始めることを期待していると述べた。
患者の観点から見ると、「無増悪生存の改善は有意義です」とGreten医師は述べた。
行き詰まった中期肝細胞がんの治療
肝細胞がんは、肝臓がんの中で最も多い。早期に診断されれば、手術あるいは、ごく一部の患者に適応される肝臓移植で治療することができる。早期段階の肝細胞がんと診断された患者の約70%は5年後も生存しており、多くは治癒すると考えられている。
また、体の他の部位に広がった、つまり転移した肝細胞がんの治療は著しく進歩している。最近まで、転移肝細胞がんと診断された人は、わずか数カ月しか生きられないと考えられていた。現在では、免疫チェックポイント阻害薬と血管新生阻害薬を組み合わせた治療法のおかげで、生存期間は約2年、場合によってはそれ以上になることもあると、Greten医師は述べる。
しかし、中間型肝細胞がんの場合は事情が異なり、2000年代初頭のTACE導入以降、有意義な進歩はほとんどなかったと、LEAP-012試験主任研究者であるJosep Llovet医師(アイカーン医科大学)は説明した。
TACEでは、カテーテルを鼠径部の動脈に挿入し、画像ガイド下にカテーテルを慎重に蛇行させて肝動脈に到達させる。そこからカテーテルを肝臓に挿入し、化学療法薬を注入する。続いて動脈を一定期間閉塞し、化学療法薬を肝臓内に留める。
大半の患者では、TACEでがんが抑制される期間は1年未満で、治療後の全生存期間中央値は約2~2.5年であると、Llovet医師は2024年9月開催の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)年次総会で本試験結果を発表した際に述べた。
多くの試みにもかかわらず、中間型肝細胞がん患者の転帰を改善できていないと、肝臓がん研究者であるAngela Lamarca医学博士(スペイン、Fundacion Jimenez Diaz大学病院)は説明する。
「これがニーズが満たされていない分野であることはわかっています」と、Lamarca博士はESMO総会で述べた。
TACEと薬剤併用による無増悪生存率の改善
LEAP-012試験には480人の患者が登録され、ペムブロリズマブとレンバチニブの製薬企業であるMerck社が資金を提供した。患者をTACE治療のみを受ける群、またはTACE治療+ペムブロリズマブ+レンバチニブ投与を受ける群に無作為に割り付けた。後者のグループの患者に対しては、初回TACE治療を受ける1カ月前までに2剤投与を開始した。
TACE+2剤投与群では無増悪生存の改善がみられたほか、治療開始から2年後に生存している患者の割合も改善し、75%対69%であった。
研究チームの報告によると、TACEと2剤併用投与を受けたほぼすべての患者に、肝障害や高血圧など臨床的に重大な副作用がみられた。ペムブロリズマブ+レンバチニブ投与群の患者の約8%が副作用のため両薬剤の使用を中止したが、副作用のためどちらか一方の薬剤のみの使用を中止した患者の割合はそれより高かった。
EMERALD-1試験には618人の患者が参加し、TACE単独、TACE+免疫療法薬デュルバルマブ、TACE+デュルバルマブ+血管新生阻害薬ベバシズマブという3つの治療群があった。この試験にはデュルバルマブの製薬企業AstraZeneca社が資金を提供した。
デュルバルマブは初回TACE治療の1週間後に投与され、ベバシズマブは最終TACE治療の2週間後に投与された。研究者らがそのタイミングを選んだのは、以前の研究でベバシズマブをTACEと同時に使用すると深刻な副作用が生じたためだと研究者らは説明した。
TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ群は、TACE単独群およびTACE+デュルバルマブ群と比較して、無増悪生存期間が改善し、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ群対TACE+デュルバルマブ群では15カ月対10カ月であった。この結果から、TACEと組み合わせる場合、2薬剤併用が「重要であると思われる」と研究チームは記している。
試験開始から2年後、TACE+デュルバルマブ+ベバシズマブ群ではがんが悪化することなく生存していた患者の割合が32%であったのに対し、TACE単独群では25%であった。
試験に参加した患者のほぼ全員が治療による何らかの副作用を経験し、約28%が副作用のためにある時点で治療を中止した。デュルバルマブ+ベバシズマブ併用群で、最も多かった重篤な副作用は高血圧と貧血であった。
Lamarca医師は、2つの臨床試験で無増悪生存が改善したことは「非常に良いニュース」であり、この併用療法を中期肝細胞がん患者におそらく使用することになるだろうと述べた。しかしながら、LEAP-012試験で使用されたペムブロリズマブ+レンバチニブ併用の方が、試験結果は「より堅牢であるように思われる」と彼女は指摘した。
中間型肝細胞がんの治療をさらに改善
Lamarca医師は、中間型肝細胞がんの最適な治療法については、不明点がまだ多いと述べた。これには、追加のTACE処置を実施する時期の決定も含まれており、「これは非常に難しく、医療機関ごとに異なります」と彼女は続けた。
また、TACEと併せて2薬剤を使用する最適なタイミングの問題もあると、ドイツのヴュルツブルク大学病院のFlorian Reiter医師とAndreas Geier医師は、The Lancet誌の付随論説で述べている。
いくつかの試験では、これらの2剤を「TACEのかなり前に」投与することを検証しており、「TACEは、2剤による治療を終えた後にがんが進行し始めた患者に対してだけ使う」とReiter医師とGeier医師は書いている。
TACEはほとんどの病院で中間型肝細胞がんの標準治療となっているが、一部の大規模がんセンターでは、放射線塞栓療法(TARE)と呼ばれる、カテーテルを使った同様の治療がよく行われていると、Greten医師は説明した。TAREでは、化学療法薬の代わりに放射性化合物を充填したビーズが腫瘍に直接注入される。
この治療法は通常、腫瘍が小さい患者にのみ適用されるが、TACE治療を受けた患者よりも延命効果があるという証拠はないと同医師は警告した。
現在進行中の臨床試験では、TACEとTAREを他の免疫療法薬や標的療法薬と組み合わせて検証している。たとえば、AstraZeneca社は、イットリウム90と呼ばれる放射性化合物をデュルバルマブとベバシズマブと組み合わせてTAREを検証する試験EMERALD-Y90を実施している。
- 監修 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/03/07
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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