術前免疫療法薬により高リスク肝がんの手術適応が増え、予後改善の可能性

従来なら手術の候補にならなかった患者が手術可能に

肝がん患者(従来の基準では手術の対象とならなかった患者など)に対し、術前に免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を投与したところ、手術を先行した患者と同程度の転帰となった。この後ろ向き研究の結果は、米国癌学会(AACR)の機関誌、Cancer Research Communications誌に掲載された。

「現在、全身療法による強力な治療に引き続いて手術を受けることで、長期生存が期待できる高リスクな肝臓がん患者群が存在します」と、本研究の統括著者であり、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンター腫瘍学准教授であるMark Yarchoan医師は言う。

免疫チェックポイント阻害薬は、進行した肝がんや転移を有する肝がんの治療の主流となっているが、早期肝がん患者の根治的治療は手術のみである。外科的切除の対象となるのは、腫瘍の大きさ、重要な組織までの近さ、複数の腫瘍巣の存在、安全性への懸念などの要因から、全体の30%程度にすぎない、とジョンズホプキンス大学キンメルがんセンター臨床研究フェローで本研究の筆頭著者であるMari Nakazawa医師は説明する。同氏によると、治癒を目的とした手術を受けた患者であっても、再発を経験することが多いと言う。

「手術の適応となる患者数を増やすこと、またそれにとどまらず、より多くの早期肝がんの患者さんを長期生存者に変えることが強く求められています」とNakazawa氏は述べた。

術前免疫療法薬が高リスクの特性の一部を軽減し、切除不能だった腫瘍が手術の適格基準を満たすのに役立つ可能性のあることが、他のがん種の研究により示されてきた。また、術前免疫療法は免疫系による微小転移の破壊を促し、遠隔再発予防に役立つ可能性もある。著者らは、高リスクの限局性肝がん患者において、術前免疫療法によって、手術がより安全で効果的となるという仮説を立てた。

Nakazawa氏、Yarchoan氏らは、2017年から2023年までにジョンズホプキンスで肝細胞がんの切除術を受けた患者92人の転帰を後ろ向きに検討した。この中には、術前免疫療法を受けた36人の患者が含まれており、その多くは手術前に、免疫療法の実施可能性と有効性を評価する臨床試験プロトコルのもとで治療を行った。免疫療法を受ける前であれば、これらの患者の61.1%は従来の外科的切除基準に基づく治癒的手術の候補にはならなかった。

手術を先行して受けた患者と比較して、術前免疫療法を受けた患者の多くが、血清AFP高値、腫瘍が5cm以上、門脈浸潤、多発性腫瘍巣などの高リスクの病像を示していた。高リスクの特性が予後不良と関連していることは以前から示されてきた。

しかし今回の研究では、術前免疫療法薬を受けた患者は、高リスクの特性により予後が悪いと予想されたが、手術を先行して受けた患者と同程度の予後となった。術前免疫療法を受けた患者のうち、94.4%が手術で断端陰性となり、無再発生存期間中央値は44.8カ月であった。手術を先行して受けた患者では49.3カ月であった。全生存期間中央値はどちらの群も未到達であった。

「今回の研究が示しているのですが、根治療法の候補患者を分類する基準は、この疾患には候補者を絞りすぎなのかもしれません」とYarchoan氏は述べた。

著者らは、これらの知見は後ろ向き研究によるものであり、仮説の生成を意図したものであることを強調しているが、これらのデータは将来の研究に有望な材料を提供するものであると考えている。「十分に考えられ、適切な集団を対象とした前向き試験によって、どの患者がこのアプローチの恩恵を得るかがわかるでしょう」とNakazawa氏は述べた。

「われわれの知見は、全身療法は、進行した患者さんに対して有用であるということだけでなく、早期の患者さんに対してもパラダイムを変え得るものであることを示しています」とYarchoan氏は付け加えた。

この研究の限界は、後ろ向き、単一施設であり、サンプルサイズが比較的小さいことなどである。さらに、本研究のコホートは、複数の異なる臨床試験で治療を受けた患者、および標準治療として先に手術を受けた患者から構成されているため、ベースラインの疾患特性、術前免疫療法(受けた場合)の期間、局所療法の有無、術後免疫療法の実施などの因子は患者間で異なっていた。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)、ルー&ナンシー・グラスミック・フェローシップ、リンダ・ルービン膵がんフェローシップ、ジェームズ&フランシス・マクグロスリン・フェロー・トゥ・ファカルティ・アワードから資金提供を受けた。Yarchoan氏はAdventris Pharmaceuticals社の共同設立者であり、AstraZeneca社、Exelixis社、Genentech社、Replimune社、Hepion社、Lantheus社からコンサルティング料を受け取り、ジョンズホプキンス大学を通じてBristol Myers Squibb社、Exelixis社、Incyte社、Genentech社から研究助成金を受け取っている。

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  • 監修 泉谷昌志(消化器内科、がん生物学/東京大学医学部附属病院)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2024/08/15

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