ERBB2/3遺伝子異常を有する胆道がんにペルツズマブ+トラスツズマブ併用が有望

ASCOの見解

「ASCOが治験依頼者であるTAPURバスケット試験から得られた知見は、進行胆道がん(胆管がん、胆のうがん)の治療におけるERBB2/3経路の役割が非常に有望であり、ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法が治療の選択肢となり得ることをさらに裏付けるものです。これらの知見は、この患者集団におけるHER2検査の必要性を示しています」とCathy Eng医師(ASCOエキスパート、FACP、FASCO、バンダービルト・イングラムがんセンター)は述べた。

試験要旨

目的本試験は、ERBB2/3遺伝子異常を有する進行胆道がん患者におけるペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法の有効性と安全性を検討するものである。胆道がんには胆嚢がん、胆管がん、十二指腸乳頭部がんが含まれる。
対象者29人の進行胆道がん患者を対象とし、年齢中央値は66歳(範囲:34〜83歳)であった。66%が女性で、52%が白人、21%が黒人またはアフリカ系アメリカ人、10%がアジア人/アジア系アメリカ人であった。
主な結果本試験で、ペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法は、ERBB2/3遺伝子異常を有する進行性胆道がん患者において、活性シグナルを示す規定の基準を満たし、客観的奏効率(ORR)は32%、病勢コントロール率(DCR)は40%であった。
意義この併用療法は、治療歴の多い胆道がん患者に対して顕著な臨床活性を示し、ERBB2/3の増幅、過剰発現または変異を有する患者の病勢進行を管理する可能性を示している。

Journal of Clinical Oncology誌に発表された新たな研究は、ERBB2/3遺伝子異常を有する進行胆道がんに対するペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法に有望な結果を示している。胆道がんの罹患率と死亡率は近年著しく上昇しており、転移した患者の5年生存率はわずか2%である。

「われわれの研究は、胆道がんに対して可能な治療選択肢を特定する際の、包括的ゲノムプロファイリング解析の重要性を明示しています。胆管がんは、近年の進歩で治療法が劇的に変化している分野です。胆嚢がんの19%、肝外胆管がんの17%でERBB2増幅がみられますが、今回の知見はこれらの患者におけるペルツズマブ+トラスツズマブ併用療法の有効性を強調するものです。この治療法は、すでにNCCNガイドラインでカテゴリー2A治療法として推奨されており、今回のTAPUR試験データでさらに裏付けされました。このことから、FDA承認薬剤が標的とする遺伝子異常の検出を目的とした定期的な胆道がん腫瘍ゲノムプロファイリング解析の推進につながるだけでなく、これまで考慮されなかったかもしれない標的療法について、患者と腫瘍医が十分な情報を得た上で話し合うことの重要性が浮き彫りになります」と試験責任医師のRichard L. Schilsky医師(MD、FACP、FSCT、FASCO、シカゴ大学名誉教授、元ASCO執行副会長兼最高医学責任者)は述べた。

試験について

TAPUR(Targeted Agent and Profiling Utilization Registry:標的薬剤およびプロファイリング利用登録)試験は、進行がん患者を対象とした標的薬剤の抗腫瘍活性を評価する第2相バスケット試験である。本コホート試験の対象患者は、ERBB2/3ゲノム遺伝子異常を有する進行胆道がん患者であった。全参加者のECOG performance statusは0〜2であり、日常生活機能レベルはさまざまであった。登録患者29人のうち、28人が有効性評価が可能であった。主要評価項目は病勢コントロール(客観的奏効または16週間以上の病勢安定)であり、副次的評価項目は客観的奏効、無増悪生存期間、全生存期間、有害事象であった。

患者は、ペルツズマブとトラスツズマブの静脈内投与を3週間毎に受け、病勢進行が認められるか、毒性または患者の希望により中止されるまで続けられた。

主な知見

完全奏効が1例、部分奏効が8例、16週間以上病勢が安定した症例が2例認められ、病勢コントロール率は40%、客観的奏効率は32%であった。

4人の患者で、治療に関連するとみられるグレード3の有害事象(貧血、下痢、投与時反応、疲労)がみられた。

本治療法は統計学的に有意な活性シグナルを示す基準を満たし、今回の胆道がん患者グループにおける有効性を示した。

次のステップ

新たなERBB2標的療法が、来年評価される予定であり、焦点となるのは、ERBB2遺伝子異常を特徴とするさまざまな固形がんで有望な結果を示している抗体薬物複合体である。特筆すべきは、このような治療薬のひとつが、免疫組織化学的にERBB2過剰発現3+を示す固形腫瘍への使用について、臓器を特定しないFDA承認を最近得たことである。研究チームは、これらの先進治療薬をTAPUR試験に組み入れ、単剤療法として、また他の治療薬との併用療法での有効性を評価する予定である。

  • 監訳 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/05/15

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