2013/01/08号◆特集記事「C型肝炎ウイルスの除去と治療効果に関連する遺伝子の新発見」
NCI Cancer Bulletin2013年1月8日号(Volume 10 / Number 1)
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◇◆◇ 特集記事 ◇◆◇
C型肝炎ウイルスの除去と治療効果に関連する遺伝子の新発見
C型肝炎ウイルス(HCV)を自然に除去する能力、および(合衆国における肝癌の主原因である)慢性HCV感染の治療に対する反応と強い関連のある遺伝子変異型が同定された。
加えて、この変異型の発見を通じてIFNL4という未知の遺伝子が初めて見つかり、研究者らを驚かせた。今回同定された変異型は、インターフェロンラムダファミリーに属するインターフェロンラムダ4(IFNL4)という新発見のタンパク質の合成を直接担っている。
NCIの研究者らが率いたこの研究の結果は、1月6日付Nature Genetics誌電子版で公表された。
これまでに同定され、すでに臨床で治療方針決定のために用いられている一塩基遺伝子多型(SNP)に比べ、(ss469415590という)新発見の変異型は、アフリカ系の人々においては自然に感染を除去する力と治療反応を予測する力が強いことがわかった。アジア系、ヨーロッパ系の場合には、新発見の変異型による予測の正確さは従来同定されていた(rs12979860という)SNPと同等であった。
米国では、慢性HCV感染者全体の4分の1近くをアフリカ系アメリカ人が占めている。総じて、HCVに感染した人の80%が慢性的な感染に至り、慢性感染者の約5%が肝癌を発症する。
今回の発見によって、治療決定の助けとなる新たな遺伝子検査がすぐにも開発できるでしょうし、いずれは、これを基礎としてHCVの新治療が開発されるかもしれません、と本研究の共同主任研究者であるNCIの癌疫学・遺伝学部門(DCEG)トランスレーショナルゲノム学研究室Dr. Ludmila Prokunina-Olsson氏は述べている。
しかも、この発見を手がかりにもっと別の発見がなされる可能性もある。「新たなインターフェロン遺伝子の発見は、すごいことなのです。それは〔その遺伝子が〕他の病気についても重要性をもつのではないかという問いを喚起します」とProkunina-Olsson氏は語った。
遺伝子もタンパク質も、変異型なしには始まらない
新発見の遺伝子はインターフェロンラムダファミリーの一員である。このファミリーには他に3つの遺伝子が含まれている。それら自体いずれもほんの十年ほど前に発見されたばかりのこの遺伝子は、ある種のウイルスを細胞に寄せつけないために一役買うタンパク質をコードする。
新しい変異型には、あるヌクレオチドが欠失したものと、そのヌクレオチドが存在するものとの二つの型がある。Prokunina-Olsson氏の説明によれば、欠失体だけがIFNL4を生成する。機序は不明だが、IFNL4はHCVの除去および不活化、そして標準的HCV治療への反応を妨げるとみられる。
「遺伝子変異がなければ〔IFNL4〕タンパク質はありません。有るか無いか、二つに一つなのです」と同氏は言った。
先行研究を踏まえて
この研究は、IFNL3遺伝子(旧名IL28B)近傍の第19染色体の一領域内のSNPを同定したこれまでのゲノムワイド関連研究(GWAS)の後継である。過去に発見されたSNPは、HCV感染クリアランスおよび治療への反応と強い関連があった。典型的な治療は、ペグインターフェロンαとリバビリンの併用、そして近年ではプロテアーゼ阻害剤を追加した3剤併用療法などである。
この新研究において、HCVの攻撃を受ける際に第19染色体のこの領域で何が起こっているのかもっと詳細に調べたいと研究チームは考えました、と本研究のもう一人の共同主任研究者であるDCEG感染・免疫疫学科のDr. Thomas O’Brien氏は説明した。
「GWASにありがちですが、もとの研究でも、追跡研究でも、異なる機能を持つ変異型やメカニズムを特定することができませんでした」とO’Brien氏は指摘した。
研究チームは、RNAシーケンスの手法を用い、合成RNA処理によってC型肝炎感染を模倣したヒト肝細胞の新鮮試料で、全遺伝子の発現を解析した。Prokunina-Olsson氏によれば、他のゲノム解析手法とは異なり、RNAシーケンス解析は、既知の遺伝子セットをもとに作業しなければならないという制約を受けない。「RNAシーケンス解析は、既知であるか否かを問わずそこにあるものをすべて示してくれるのです」と同氏は説明した。
RNAシーケンス解析の結果、第19染色体のこの領域に存すると判明している遺伝子において予想通りの活性がみられた。
「それから、予想外のものが見つかったのです」とProkunina-Olsson氏は続けた。見つかったのは、IFNL3近傍だが、既知の遺伝子も存在が予想される遺伝子も含まない箇所にある転写産物(RNA分子)であった。
「RNAシーケンス解析から新遺伝子の分離・生成と特徴づけに至るまでに、約9カ月かかりました。存在が予想すらされていなかったまったく新たな遺伝子が確認されるのは、滅多にないことです」とProkunina-Olsson氏は述べた。
慢性HCV感染患者が参加した2つの臨床試験の検体を用いたところ、アフリカ系アメリカ人においては、従来見つかっていたSNPよりもこの欠失体のほうが、不良な治療反応との関連がずっと強いことが判明した。さらに別の臨床試験の2つの検体を解析したところ、自然なHCVの除去についても同様の傾向がみられた。また、欠失は、ヨーロッパ系やアジア系に比べてアフリカ系アメリカ人にずっと多く見られることがわかった。
この研究結果はある矛盾を示しています、とO’Brien氏が続けた。インターフェロンは、感染に干渉(interfere)することからそう名付けられた。「しかし、HCV感染において、IFNL4タンパク質はウイルスクリアランス〔除去/不活性化〕に干渉するようです」と彼は述べた。
患者や研究者への示唆は?
この研究結果は広範な影響を及ぼす可能性がある、とニューヨークにあるロックフェラー大学でHCV研究を主導するDr. Charles Rice氏は指摘する。
「とりわけ、生物学的基礎や機序をもっとよく理解するうえで、この研究は大いに期待されます」とRice氏は述べた。先行のGWAS研究は、この染色体領域がHCVクリアランスと治療反応にとって重要であることを強調していた。この新しい遺伝子は「その学説の中核部分を占めていると目されます…これによって、当該遺伝子がどのような働きをしているのか明らかにするというまったく新たな研究領域が切り開かれました。まさしくブレークスルーと呼ぶにふさわしい画期的発見です」とRice氏は述べた。
臨床的見地からいえば、もう一つ別の有望な方向性は、治療反応を予測する助けとなる検査の開発である。
「もし、人種を問わずただ一つの遺伝子検査だけしかしたくないと思うならば、この新たな変異型こそがどの患者にも当てはまる普遍的な臨床的予測因子となり得ます。なぜなら、アフリカ系アメリカ人患者の場合、現行の検査よりもいっそう正確だと思われるからです」とO’Brien氏は述べた。
IFNL4タンパク質はまた、治療標的としても有望であろう、とこの研究グループは論じている。IFNL4生成能を持たない人は少なからず存在するため、IFNL4が不可欠だとは思われず、したがって有害事象を伴わずにIFNL4を阻害する治療ができる可能性があると、O’Brien氏は指摘した。
O’Brien氏とProkunina-Olsson氏はすでに、この変異型が進行性黒色腫に対するインターフェロン治療への反応に影響するかどうかを調べ始めている。両氏はまた、国立アレルギー感染症研究所の研究者らと共同で、この変異型がHCVを直接攻撃する諸々の新治療への反応に影響するかどうかを研究している。
Rice氏の解説によれば、慢性的HCV感染の治療は、インターフェロン治療からもっと新しい抗ウイルス治療へと急速に移行しつつある。従来のインターフェロン治療はたしかに有効だが、とりわけ重大な副作用を伴う場合がある。したがって、今回発見された変異型やその他のSNPが新たな治療に対する反応にいかに影響するかを評価することは重要であるという。
—Carmen Phillips
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盛井有美子 訳
畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター) 監修
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翻訳担当者 盛井有美子
監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)
原文掲載日
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