胃酸抑制薬は、パゾパニブ治療を受ける肉腫患者の生存転帰に悪影響

軟部肉腫患者が胃酸抑制薬(GAS)と抗がん剤パゾパニブ(Votrient)の併用治療を受けると、無増悪生存期間と全生存期間が有意に短縮することが、米国がん学会(AACR)のClinical Cancer Research誌で発表された。

「われわれの研究によって、進行した軟部肉腫患者においては、胃酸抑制薬の服用がパゾパニブの効果を弱めることがわかりました」「がん治療の転帰に大きな影響を与える可能性があるため、がん専門医や薬剤師は、患者の併用薬に細心の注意が必要です」と、パリ南大学Gustave Roussy Cancer Instituteの腫瘍内科医および臨床薬理学者であるOlivier Mir医学博士(MPH)は述べた。

胃酸抑制薬による治療は比較的よく行われており、治療中のがん患者の最大50%がこの治療を受けていると推定されている。一般的な胃酸抑制薬には、オメプラゾール(Prilosec)やエソメプラゾールマグネシウム(Nexium)などのプロトンポンプ阻害剤や、ラニチジン(Zantac)などのヒスタミンH2受容体拮抗薬がある。多くの西欧諸国では、一般用医薬品(OTC医薬品)として手に入る。

腎細胞がんや軟部肉腫の治療に使用されるマルチキナーゼ阻害剤であるパゾパニブの吸収はpHに依存する、とMir医学博士は話す。「パゾパニブ錠が経口投与された場合、溶解するには、酸性環境、すなわち胃に入る必要があることが知られています」。「胃酸抑制薬療法の主な機能が胃の酸度を下げることですので、これらの薬がパゾパニブの吸収を抑えてしまうことがあるのです」とMir医学博士は述べた。

Mir医学博士によると、固形がん患者が胃酸抑制薬を服用するとパゾパニブの吸収が抑制されること(血漿データで判断)は以前の研究から知られている。「われわれは、胃酸抑制薬療法がパゾパニブを服用している肉腫患者の生存転帰にどう影響しているかを判断したいと思っていました」と同氏は述べた。

Mir医学博士らは、終了済の2件の臨床試験から抽出したデータを組み合わせて分析した。 その2件の臨床試験とは、進行した軟部肉腫患者を対象としたパゾパニブの忍容性および抗腫瘍活性を評価した第2相試験と、治療歴のある進行した軟部肉腫患者を対象とし、パゾパニブの有効性をプラセボと比較して評価した第3相臨床試験である。パゾパニブの治療を受けた合計333人の患者が分析の対象となった。そのうち、117人(35.1%)はパゾパニブ治療中に1回以上は胃酸抑制薬を服用しており、59人(17.7%)はパゾパニブ治療期間の80%を超える期間にわたって胃酸抑制療法薬を併用していて、19人(5.7%)は臨床試験参加登録時にすでに胃酸抑制薬を服用していた。

多変量解析の後、パゾパニブ治療中に胃酸抑制薬を服用しなかった患者と比較して、治療期間の80%以上にわたって胃酸抑制薬を併用した患者は、無増悪生存期間が有意に短かった(中央値が4.6カ月に対して2.8カ月)。

胃酸抑制薬の使用は全生存期間も有意に短縮した。胃酸抑制療法を治療期間の80%以上にわたって利用した人たちの全生存期間の中央値(8カ月)は、胃酸抑制薬療法を利用しなかった人たち(12.6カ月)よりも短かった。

第3相試験でプラセボ治療を受け、今回の解析の対象となった110人においては、胃酸抑制薬の併用と無増悪生存期間または全生存期間との間に関連性が認められなかった。「これは、胃酸抑制薬とパゾパニブの間の薬物間相互作用がサルコーマ患者の生存転帰に直接影響を及ぼしたことを示唆しています」とMir医学博士は述べた。

Mir医学博士らはまた、胃酸抑制薬療法がパゾパニブ関連毒性の発生頻度を減少させないことも確認した。

「われわれの研究結果は臨床を変えるものであると思います。そして、胃酸抑制薬が唯一の選択肢でない限り、パゾパニブ治療中の患者には胃酸抑制薬を処方しない方が良いと思います」とMir医学博士は述べた。

「胃酸抑制薬療法は腹痛のために利用されることが多いですが、腹痛が常に胃酸と関連しているわけではありません」とMir医学博士は言う。「胃酸抑制薬を服用している患者の大多数では、別の治療法を用いたとしても、腹部の不快感を軽減できると私は推測します。また、がんの治療中は服用している全ての薬(一般市販薬を含めて)を担当医に伝えることも大切です。潜在的な薬物間相互作用を特定し、それを回避できるようにするためです」。

この研究では、比較的小さいサンプルサイズと薬物動態学的データの欠如などが制約となった。後期の臨床試験では、そのようなデータはルーチンでは収集されない。

本研究はベルギーのFonds Cancer(FOCA)の資金提供を受けた。

Mir医学博士はAmgen、Bayer、Bristol-Myers Squibb、Eli Lilly、Ipsen、Lundbeck、Merck Sharp&Dohme、Novartis、Pfizer、Roche、Servier、Vifor Pharmaのコンサルタントを務めていた。

翻訳担当者 関口百合

監修 遠藤誠(肉腫、骨軟部腫瘍/九州大学病院 整形外科)

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