高精度医療と免疫療法薬に関する初期臨床試験の演題(ASCO2016)

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

初期相のがん臨床試験における複数の知見は、がん治療の主流なトレンドである、分子標的療法と免疫療法に反映されている、と先週シカゴで開催されたASCO(米国臨床腫瘍学会)年次総会にて取りあげられた。

臨床試験の結果が直ちに患者ケアに転換されるわけではないが、各々の知見が患者のケアが変わる方向を示している、と試験責任医師および研究者のあいだで意見が一致した。

高精度医療の臨床試験が実施中

ASCO年次総会で発表された試験のうちの1つから得られた結果では、研究者がより正確な個別化治療の開発を加速するべく、いかに新しい臨床試験アプローチを活用して行くかを明らかにしている。

時にアンブレラ型やバスケット型と呼ばれるこれらの試験は、患者を登録する際、がん種または原発部位ではなく、腫瘍に承認済みもしくは臨床試験中の治療法により標的とされる分子変異があるかどうか、を基準とする。

サラ・キャノン研究所にて実施中のMyPathway臨床試験の結果では、乳がんと胃がんの一部、およびメラノーマ(悪性黒色腫)に対する適応承認済みの分子標的療法が、他のがん種に対しても有効である可能性が示された、とJohn D. Hainsworth医師は発表した。

本試験は、4つの特定のシグナル伝達経路である、HER2、BRAF、EGFR、ヘッジホッグのいずれかに遺伝子変異をみとめる腫瘍を有する進行がん患者を対象とした。

これらの特定変異を標的とした、米国食品医薬品局(FDA)で承認済みの4薬剤のいずれかにより治療を行なった。当該薬剤が承認済みのがん種に罹患していた患者はいなかった。

最初に治療を行った129人のうち、結果約25%の患者の腫瘍に部分奏効した、と研究チームは報告した。また、12種のがん患者に対しても治療が奏効した。

しかし、いくつかの特定のがん種で、HER2、またはBRAF遺伝子に変異がある腫瘍を有する患者はより奏効しやすく、約30%の患者に腫瘍サイズの縮小がみとめられた。

HER2遺伝子変異がみとめられる患者は、トラスツズマブ(ハーセプチン)とペルツズマブ(パージェタ)の併用治療を行なったが、大腸がん、膀胱がん、および胆管がん患者で最も顕著に奏効した。

BRAF遺伝子変異がみとめられる患者には、ベムラフェニブ(ゼルボラフ)による治療を行なったが、非小細胞肺がん患者で最も多く奏効した。

これらの知見を基に、研究チームは前述の遺伝子変異を有するこれらのがん種の患者を追加登録している、とHainsworth医師は記者会見で述べた。

より多くのがん臨床試験において“がん種にとらわれないアプローチ”を採用し始めており、この新しい方法が、最終的に患者のケアに影響を及ぼす、と記者会見の司会者である、City of Hope Cancer Center のSumanta Kumar Pal医師は述べた。

Hainsworth氏はPal氏に同意しつつも、原発部位よりも腫瘍の分子組成に基づく治療法は「このタイプのエビデンスがより多く蓄積されて、分子標的薬が増えるに伴い」段階的に進歩するであろうと注意を促した。

膀胱がんに対する免疫療法のたゆまぬ研究

免疫療法は、腫瘍学において中心的なテーマとして扱われる領域であり続けており、さまざまな種類の免疫に基づく治療法が、固形腫瘍と血液がんの両方に対して開発され、試験されている。

臨床試験からの知見が、免疫療法が、発展の乏しいがん領域における新しい治療法の選択肢を提供できる可能性を示していることを受け、研究者らは大きな希望を抱いている。

その一例として、膀胱がんにおいて、進行がん患者を対象とした第2相臨床試験からの知見が、ASCO年次総会で発表された。

臨床試験では、進行膀胱がんの一次治療として免疫チェックポイント阻害薬であるアテゾリズマブ(Tecentriq[テセントリク])を検証した。FDAは最近、前治療後に増悪した膀胱がん患者に対し、アテゾリズマブの適応を承認した。膀胱がんに対して承認された、ここ20年で初めての新規治療薬である。

FDAはいくつかの免疫チェックポイント阻害薬を承認済みであるが、アテゾリズマブは、この種の薬剤として初めて、PD-L1と呼ばれる腫瘍細胞(および腫瘍微小環境の他の細胞)上のタンパク質を標的とする。

別の免疫チェックポイント阻害薬2剤は、すでに承認済みであり、PD-L1が結合する、免疫細胞表面のPD-1を標的とする。

ASCO年次総会では、転移膀胱がんと初めて診断された際に、アテゾリズマブが早期に有効性を示す可能性の有無を特定するために、119人の患者を対象とした臨床試験を行なったことも発表された。

いくつかの臨床的要因(主に健康状態不良)が原因で、臨床試験に登録された患者の中には、進行膀胱がんの標準的一次治療である、シスプラチンによる化学療法を受けられなかったものの、登録された患者は全員、アテゾリズマブによる治療を受けた。

約14カ月のフォローアップ期間中央値の後、PD-L1阻害薬が奏効した患者は24%であった。疾患が完全に消失(完全奏効)した患者は7%、さらに部分奏効した患者は17%であった、と臨床試験責任医師である、ニューヨークにあるPerlmutter Cancer CenterのArjun Balar医師は報告した。

副次的評価項目である試験対象患者の全生存期間中央値は14.8カ月で「この患者集団における過去の中央値よりも延長しています。われわれが今見ている、全生存に関するこちらのデータは、非常に刺激的です」とBalar医師は記者会見で説明した。

患者はまた、十分に治療を継続できた。副作用により治療を停止したのは、試験参加者のわずか6%であった。それと比較して、化学療法を受けた進行膀胱がん患者の約20%は、副作用により治療を停止した。腫瘍細胞にPD-L1が発現したかどうかに関わらず、アテゾリズマブは奏効した、とBalar医師は述べた。しかし、PD-L1の発現を調べる最良な方法については、いまだに激しい論争がある、と氏は指摘する。

膀胱がんでは、PD-1、またはPD-L1の発現が、免疫チェックポイント阻害薬治療に奏効する患者を特定するための最良のマーカーではない可能性を示唆するエビデンスがいくつか存在する。患者の腫瘍における遺伝子変異の数、または膀胱内の腫瘍の位置など、その他の要因がより重要なマーカーになる可能性もあるのだ。

「今までのエビデンスに基づいて考慮すると、こうした別の要因が患者に奏効するのか、しないのか、ということに非常に大きく影響するようです」とBalar医師は述べた。

新規薬剤が胃がんに有望

免疫システムを刺激、発動する新たな薬剤の、別の第2相臨床試験の結果は、胃がん患者に対する新たな治療の可能性を提示している。

IMAB362、またはclaudiximab[クローディキシマブ]と呼ばれるモノクローナル抗体の薬剤は、接着結合と呼ばれる細胞膜構成要素の形成を促すタンパク質である、クローディン18.2を標的とする。

クローディン18.2は、胃がんと膵がんを含むいくつかのがんにおいて腫瘍細胞に過剰発現している、と臨床試験責任医師である、ドイツのフランクフルトにあるthe Institute of Clinical Cancer ResearchのSalah-Eddin Al-Batran医師は述べた。

IMAB362は主に、腫瘍細胞に結合し、腫瘍細胞を攻撃するための免疫システムの構成要素を誘導する機能を有するとされる。

本薬剤は、クローディン18.2を標的とする、ヒトにおける臨床試験で検証される初の薬剤となる。

試験には、腫瘍にクローディン18.2が過剰発現している転移胃がんの一次治療を受けた、252人の患者が登録された。患者は標準化学療法群、もしくは化学療法+IMAB362群に無作為に割り付けられた。

無増悪期間中央値は、IMAB362+化学療法群では7.9カ月で、化学療法単独群では4.8カ月だった。全生存期間の中央値は、IMAB362+化学療法群では13.2カ月で、化学療法単独群では8.4カ月だった。クローディン18.2が最も高いレベルで発現している腫瘍を有する患者の全生存期間中央値は、IMAB362+化学療法群では16.7カ月で、化学療法単独群では9.0カ月だった。

IMAB362+化学療法群の患者の約40%にいくらかの腫瘍縮小があったが、化学療法単独群の患者ではその割合は25%だった。IMAB362+化学療法群の患者の約10%は完全奏効したが、化学療法単独群の患者ではその割合は3%だった。

IMAB362と化学療法の併用は忍容性も高く、重篤な副作用を発現した患者はほとんどなかった。最もよくみられた重篤な副作用は好中球減少症と嘔吐であった。これは特にIMAB362が原因の可能性がある、とAl-Batran医師は述べた。

「この試験結果は、胃がん患者を対象としたIMAB362の第3相検証的試験の強力な論理的根拠をもたらしてくれます」とAl-Batran医師は述べた。

翻訳担当者 中島 節

監修 花岡秀樹(分子生物学・遺伝子解析/サーモフィッシャーサイエンティフィック)

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