大腸癌臨床試験でセツキシマブ、パニツムマブ投与前の遺伝子検査を支持する結果
Colorectal Cancer Trials Support Gene Testing for Two Drugs
(11/12/2008掲載、11/05/2010更新) – 2008年、3つの試験により、大腸癌においてセツキシマブ(アービタックス)またはパニツムマブ(Vectibix)の化学療法前に腫瘍遺伝子変異検査を受けるべきであるとするエビデンスが追加された。[pagebreak]NCIキャンサーブレティン2008年11月4日掲載記事より(最新号日本語版はこちら)
大腸癌患者はセツキシマブ(アービタックス)またはパニツムマブ(ベクティビクス[Vectibix])による治療を受ける前に腫瘍の遺伝子変異について検査を受けるべきとするエビデンスが積み上げられているが、3件の研究結果が新たなエビデンスとして加えられることになった。これらの新知見では、ある種の遺伝子変異を有する腫瘍では薬剤の効果が期待できないため、患者に対する投与を控え、経済的負担や副作用を回避すべきであると提案されている。
セツキシマブおよびパニツムマブは、種々の癌に関わる因子である上皮増殖因子受容体(EGFR)を抑制するモノクローナル抗体である。
今回の新しい知見は、KRAS遺伝子に変異を有する患者にセツキシマブの効果はないとする大規模臨床試験であるCRYSTAL試験後向き分析など、これまでの研究結果を裏づけ、さらに拡大していくものである。ASCOでの報告以降、NCIはセツキシマブの臨床試験においてはKRAS遺伝子変異の検査を含めるよう変更している。欧州では、パニツムマブによる治療はKRAS 遺伝子が正常な患者に限定されている。
第1の新研究は、進行大腸癌患者の生存に対する有効性を評価したセツキシマブ単独臨床試験の後向き分析である。この現在終了したCO.17臨床試験において、セツキシマブの効果が見られたのは腫瘍が正常な(変異していない)KRAS遺伝子を有する患者に限られていた。
昨年度の報告によると、セツキシマブ群は対症療法のみを受けた群に比べ生存期間が平均6週間延長した。しかし実際に生存期間が延長したのは一部の患者のみであり、その理由を解明するため、572人のうち394人から採取した腫瘍サンプルに立ち帰り再分析を実施した。
その結果、明確な傾向が浮かび上がった。正常KRAS遺伝子を有する患者では、セツキシマブ群は対症療法群にくらべ生存期間が約2倍となった(9.5ヶ月対4.8ヶ月)。無進行生存期間についてもセツキシマブ群は優れていた(3.7ヶ月対1.9ヶ月)。
一方、変異したKRAS遺伝子を有する患者では両群の生存期間に差がなかったことが2008年10月23日付けNew England Journal of Medicine(NEJM)誌で発表された。KRAS変異は腫瘍の42%に存在した。
共著者でオタワ大学のDr. Derek Jonker氏は次のように記している。「この結果は癌治療における大きな変動を反映している。過去、特にCO.17臨床試験において、われわれは数多くの患者を治療しながら効果は限られたものであったが、今、最も治療の効果が得られる患者を判別し、患者個々の癌の遺伝子組成に基づいたオーダーメイド治療が可能となりつつある。」
付随する論説によると、抗EGFR治療を検討している進行大腸癌患者は全員KRAS遺伝子の検査をするべきであるというのが現在までの研究による「妥当な結論」であるという。
今回の臨床試験結果は大腸腫瘍のEGFRに関する前臨床試験結果と一致するものであった。EGFRは細胞表面に存在し、細胞増殖に関する数多くのシグナル伝達経路を制御している。変異型KRASは、通常EGFRにより制御されるシグナル伝達経路(MAPKなど)を構造的に活性化することができる。この活性化がEGFRより「下流」で発生するために、EGFRの阻害剤が異常シグナルを止められないのではないかと考えられている。
BRAFなど他の遺伝子における変異も抗EGFR薬治療の効果を損なう可能性があると論説では触れられている。大腸癌の約15%では、MAPK経路の一部を担うBRAF遺伝子に疾患関連の変異が見られる。
NEJMの記事が掲載された翌日、イタリアの研究者らも、BRAF遺伝子変異のある転移性大腸腫瘍にはセツキシマブおよびパニツムマブが奏効しないという同様の臨床試験結果を得た。変異のある患者ではこれらの薬剤が奏効しなかった一方で、奏効したのはすべて正常BRAF 遺伝子を有する患者であった。
この臨床試験は113人の患者を登録して行われ、治療が奏効しない症例の30%にKRAS 遺伝子変異があった。そのほか14%がBRAF 遺伝子変異によるものであったが、奏効しない症例の半数以上は理由が不明であった。
EGFRを標的とした治療による効果が得られない患者をより確実に選別するためにはまだ他の分子マーカーが必要、とトリノ大学のDr. Federica Di Nicolantonio氏は話す。同氏はスイス・ジュネーブで開催された第20回EORTC-NCI-AACR分子標的と癌治療シンポジウムにおいてこの結果を発表した。
第3の新研究はパニツムマブの臨床試験4件715人の患者においてKRASの状態を見たものである。KRAS遺伝子が変異していた患者でパニツムマブが奏効(腫瘍が縮小または増殖しない)した例はなかったのに対し、正常KRAS遺伝子を有する患者では約14%が奏効した。パニツムマブを製造しているアムジェン社のDr. Daniel Freeman氏が、先週フロリダ州ハリウッドで開催された癌の分子マーカーに関する第2回EORTC-NCI-ASCO年次集会でこの結果を発表した。
Dana-Farber癌研究所の胸部腫瘍部長のDr. Bruce Johnson氏は、この結果はタイムリーかつ重要なもので、NEJMに掲載されたセツキシマブ研究の記事に「きわめて合致する」ものだと記者会見で話した。
編集者注:
進行大腸癌患者579人ののデータを解析したさらに最近の後向き研究によると、特定の変異型KRAS遺伝子を有する患者ではセツキシマブが奏効したことが示された。この解析では、臨床試験もしくは試験外でセツキシマブの投与を受けた双方の患者のデータが用いられ、セツマキシブを投与したとき、特別な遺伝子変異(p.G13Dと呼ばれる)を有する患者の方が、はその他のKRAS遺伝子変異の患者よりも生存期間が延長した。(中央値7.6カ月対5.7カ月月)さらに、p.G13D変異を有する患者と正常なKRAS遺伝子の患者の全生存率は同等であった。結果は2010年10月27日発刊のJAMA誌にて発表された。
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橋本 仁訳
鵜川 邦夫(消化器科)監修
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