C. ディフィシル菌が一部の大腸がんを誘発する可能性

若年層における大腸がん増加の一因は一般的な感染症である可能性

重い下痢性感染症を引き起こすことで知られる細菌種クロストリディオイデス・ディフィシル(C.ディフィシル)が、大腸がんも誘発する可能性が示唆された。ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターとブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所の研究者が収集したデータによる。

本研究結果は、6月9日発行のCancer Discovery誌に掲載された。米国で年間約50万例の感染症を引き起こし、多くの場合、除去が極めて困難であるこの細菌の厄介な役割がもう一つ明らかになるかもしれない。

「近年、50歳未満の人が大腸がんと診断されるケースが増加していることは、衝撃的な事実です。われわれは、C. ディフィシルが大腸悪性腫瘍の原因となっている可能性、すなわち正常な細胞ががんになる過程を誘発している可能性があることを突き止めました」と、Cynthia Sears医師(ブルームバーグ・キンメルがん免疫療法学教授、ジョンズホプキンス大学医学部内科学教授)は述べる。

数年前、Sears研究室の研究者らは、大腸がん患者の半数以上で細菌性バイオフィルム(大腸の表面に細菌が密集している状態)が存在するのに対して、腫瘍のない患者でバイオフィルムがあるのは10~15%であることを発見した。複数の大腸がん患者から個々に採取したバイオフィルムサンプルをマウスに感染させたところ、あるサンプルがマウスの大腸がんを著しく増加させたことから、研究者たちの注目を集めた。対照群では腫瘍の発生は5%未満であったのに対して、このバイオフィルムサンプルによって85%のマウスで腫瘍が発生したのである。

同研究チームは別の研究で、マウスの大腸腫瘍を同様に増加させた、バイオフィルムがない患者サンプルを特定した。腸管毒素原性のバクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ある特定の大腸菌株など、複数の細菌種が大腸がんと関連があることがわかっているが、これらの細菌は今回の2人の患者の腫瘍には存在しなかった(B.フラジリスと大腸菌)、あるいは、マウスにうまく定着しなかった(F. ヌクレアタム)。したがって、他の細菌が大腸がんカスケードを促進している可能性があることが示唆される。

Sears医師は、どの細菌がマウスの腫瘍を引き起こしているのかを突き止めるため、ジョンズホプキンス大学内科学助教Julia Drewes博士、Jie (Angela) Chen博士、Jada Domingue博士らと共同で追加実験を実施し、単一の細菌種または細菌群集がマウスの腫瘍形成を促進しているかどうかを調べた。彼らは、下痢を引き起こすC. ディフィシルの一種である毒素原性C. ディフィシルが、マウスで腫瘍が発生しなかったサンプルには存在せず、腫瘍が発生したサンプルには存在していたことに着目した。この細菌を当初は腫瘍が発生しなかったサンプルに加えたところ、マウスに大腸腫瘍が生じた。さらなる実験の結果、C. ディフィシルは単独でも動物モデルにおいて腫瘍形成を促すのに十分であることが判明した。

共著者のNicholas Markham医学博士(バンダービルト大学医療センター内科学助教)、研究共同リーダーのFranck Housseau博士(ジョンズホプキンス大学腫瘍学准教授)およびKen Lau博士(バンダービルト大学医学部細胞・発生生物学・外科学准教授)が主導した追加実験により、C.ディフィシルはがんになりやすくさせる様々な変化を結腸細胞内で引き起こすことがわかった。

この細菌にさらされた細胞は、がんを促進する遺伝子をオンにし、がんを防止する遺伝子をオフにした。これらの細胞は、DNAを損傷することがある不安定な分子である活性酸素を産生し、有害な炎症に関連する免疫活性も促した。

この細菌が産生するTcdBと呼ばれる毒素が、この活性のほとんどを引き起こしているようだと研究者らは言う。不活性化毒素遺伝子を含む、あるいはTcdAと呼ばれる関連C.ディフィシル毒素を放出する遺伝子組換えC.ディフィシル株を使用すると、TcdB不活性化細菌に感染したマウスはTcdB活性細菌に感染したマウスに比べて腫瘍の発生がはるかに少なく、C. ディフィシルによって産生されたTcdAは腫瘍を引き起こすには十分ではなかった。

現在までのところ、C. ディフィシルとヒトの大腸がんを関連づける疫学的データは少ないとDrewes氏は言う。しかし、さらなる研究により関連が示されれば、C. ディフィシルの潜伏感染や既往感染をがんのリスク因子とするスクリーニングにつなげられるかもしれない。TcdBへの長期間曝露は大腸がんのリスクを高める可能性があるため、重要な予防策として、この病原体を迅速かつ効果的に根絶する取り組みの強化が考えられる。この病原体は、小児患者も含めて、感染患者の15~30%で初回治療後に(しばしば繰り返し)再発する。

「C. ディフィシルと大腸がんの関連は、縦断的集団での前向き研究で確認する必要がありますが、C. ディフィシルの初感染と再発のリスク低下を目指すより良い戦略と治療法を開発することによって、患者を重い下痢という直接的影響から守るとともに、後に大腸がんになるリスクを抑えることもできると思われます」とDrewes氏は述べる。

共著者、研究助成の開示については記事原文を参照のこと。 

監訳:加藤 恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)

翻訳担当者 山田 登志子

原文掲載日 

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