術前療法不応な直腸がんの手術遅延は生存率低下と関連

術前化学放射線療法の奏効が不良な局所進行直腸がん患者に対する手術は遅延するべきではないことが、レトロスペクティブ研究で示唆された。

「今回の結果は実に意外でした」、とカリアリ大学(イタリア)のAngelo Restivo博士はロイター・ヘルスに電子メールで回答した。「近年、直腸がんの術前療法後、外科的切除を実施するまでの待機期間が一貫して長期化する傾向にありました。本疾患の病理学的完全奏効率の改善が時間に依存することが知られているため、ますます長期化していったのです」。

「長く待てば待つほど、完全奏効が認められるのです」と同氏。「一見良いことのように思われますが、この戦略を患者のほぼ全員に拡大した場合の全体的な腫瘍学的な帰結が調査されたことは一度もなかったのです」。

「生存期間に対するこの明確な逆相関関係、特に時間が及ぼす影響力の大きさは、われわれも予想していませんでした」とRestivo氏は述べる。「有効な科学的データによって完全に支持されているわけではない日常診療が行われていたことは確かです。今回の結果は、臨床診療を変更する前に、他方で生じる被害について常に確認するべきだと警告しています。奏効不良な患者がいた場合は、早急に本人を特定して、できるだけ早く外科的切除に進めなくてはなりません」。

JAMA Surgery誌の報告によると、Restivo博士らは、イタリア国内12ケ所の高度医療機関で治療を受けた直腸がん患者1,064人(年齢中央値64歳、男性62%)のデータを分析した。術前化学放射線療法に対する腫瘍奏効が軽度または認められなかった、ypTステージ2~3またはypN陽性患者を術前療法終了から手術までの待機時間をもとに2群に分割した。

主要評価項目は、両群の全生存期間および無病生存期間であった。

全体の54.4%の患者は待機期間が短期間(8週間以下)であり、残りの患者は待機期間が長期間(8週間より長期)であった。

術前の待機期間が長いほど、5年および10年の全生存率の低下に関連しており、5年後の時点では67.6%対80.3%、10年後の時点では40.1%対57.8%であった。また、手術の遅延は5年および10年無病生存率の低下にも関連しており、5年後の時点では59.6%対72.0%、10年後の時点では36.2%対53.9%であった。

多変量解析では、待機時間が長いほど死亡リスク(ハザード比、1.84)および死亡/再発リスク(ハザード比、1.69)は上昇した。それ以外に独立して全生存期間と無病生存期間と関連した因子は、年齢、ypNステージ、および術後合併症であった。

さらに、術後療法も独立して生存期間延長に関連していた。手術後の化学療法に進んだ63.3%の患者と比較して、術後療法を実施しなかった患者は高齢(年齢中央値65対63)であり、その大半の病理学的最終病期が3未満(91.5%対47.5%、オッズ比0.08)であり、術後合併症発生率は高く(21.0%対14.7%、オッズ比0.64)、さらに吻合部漏出発生率も高かった(11.0%対6.5%、オッズ比0.56)。

関連論説の共著者であるオレゴン健康科学大学(米国ポートランド)のSandy Fang医師は、ロイター・ヘルスへの電子メールで「最善の治療方針と最適な手術のタイミングを決定することが、直腸がん管理では求められるようになっています」 とコメントした。

「腫瘍学的予後は腫瘍の生物学的な挙動に大きく依存するという考えを今回の研究は支持しており、将来の直腸がん治療は、患者個人の分子バイオマーカーにおける微妙な差違に応じて個別化されていくでしょう」とFang氏は述べる。

出典: https://bit.ly/3Dip7VE  https://bit.ly/3FkkJYo JAMA Surgery誌 オンライン版  2021年9月29日

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

原文掲載日 

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