抗生物質の使用と大腸がん増加との関連性が示される

抗生物質を必要以上に使用しないことが医師と患者に求められている。抗生物質の使用により特に50歳未満の患者に大腸(結腸)がんのリスクが増す可能性が新たなデータにより明らかになったからである(1)。抗生物質の世界消費量が2000年から2015年の間に推定で65%増加しており、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)世界消化器がん学会(630日~73日)で報告された今回の結果は、抗生物質使用と大腸がん発生の直接的な因果関係は示されなかったものの、新たな懸念が生じることとなった(2)

「私たちの知る限りでは、抗生物質の使用と若年発症の結腸がんのリスク増大との関係を明らかにしたのは今回の研究が最初です。若年発症の結腸がんは、この20年間に毎年3%以上の割合で増えています(3)。この増加にはジャンクフードや、糖分の多い飲み物、肥満、アルコールも寄与していると考えられますが、私たちのデータは特に小児と若年成人に対して抗生物質を必要以上に使用しないことが重要であることを示しています」と、アバディーン大学(英国アバディーン)のSarah Perrott氏はデータを示して語った。

本研究では、最大200万人を擁するスコットランドの大規模プライマリケアデータベースを用いて、約8,000人の大腸(結腸および直腸)がん患者を、大腸がんのない同等の集団と比較した。その結果、抗生物質の使用が結腸がんのリスク増大に関連していることが明らかになった。このリスク増大はすべての年齢層でみられたが、50代以上では9%であったのに対して、50代未満ではほぼ50%に達した。若年層では、抗生物質の使用は結腸の最初の部分(右側)のがんに関連していた。右側がんには、さまざまな感染症の治療に用いられるキノロン剤やスルホンアミド/トリメトプリムが関連していた。

本研究の統括著者である英国アバディーン王立病院のLeslie Samuel医師の説明によれば、右側結腸の内容物は液状であり、そこに生息するマイクロバイオームと呼ばれる自然菌は、右側結腸より遠位の結腸に生息する菌とは異なる可能性がある。

「抗生物質の使用と、特に若年者が結腸がんに侵されやすくなる原因となるマイクロバイオームの変化との間に関連性があるかどうかを調べたいと思います。マイクロバイオームは、内視鏡検査など診断のために大腸を洗浄するとすぐに以前の状態に戻ってしまうことがわかっているのでやっかいです。抗生物質がマイクロバイオームに対して及ぼす何らかの影響が結腸がんの発症に直接または間接的に寄与しているかどうかもまだわかっていません」とSamuel医師は語った。

サンマルティノ病院(イタリア、ジェノア)のAlberto Sobrero教授は、この新たな研究にコメントを寄せ、全世界で毎年結腸がんと診断される200万人(4)のうち、20代から40代の若年層は、診断が遅れることが多いため、より高い年齢層に比べて概して予後が悪い、と説明した。

「腹部不快感を訴える患者が70代ならば結腸がんの検査をする医師は多いでしょうが、患者が30代ならば検査することはあまりないでしょう。それに、若年者は大腸がん検診を受ける機会がありません。その結果、若年者の結腸がんは進行してから診断されることが多く、治療が困難になるのです」とSobrero教授は話した。

Sobrero教授は、Perrott氏やSamuel医師と同様に、若年患者でも腹部の症状を訴えた場合は大腸がんを疑うべきだと確信しており、若年者に結腸がんが増加している原因として挙げられているいくつかの要因をさらに調査する必要があると語った。

「抗生物質の過剰使用が原因因子であると断定するには時期尚早であり、腸内細菌叢に対する抗生物質の影響を考察する前に、マイクロバイオームが大腸がんにおいて果たす役割をさらに解明する必要があります。しかし、今回の研究結果は、抗生物質は本当に必要な場合以外は投与すべきでないことを示唆しています。抗生物質をむやみに使用することでがんのリスクが増大している可能性は排除できません」と、Sobrero教授はコメントを締めくくった。

参考文献

  1. Abstract SO-25 ‘Global rise in early-onset colorectal cancer: an association with antibiotic consumption?‘ will be presented by Dr Sarah Perrott during Session VII: Presentation of Selected Colorectal Cancer Abstracts on Friday, 2 July, 08:00-12:00 CEST. Annals of Oncology, Volume 32, Supplement 3, July 2021
  2. Klein EY, Van Boeckel TP, Martinez EM et al. Global increase and geographic convergence in antibiotic consumption between 2000 and 2015. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Apr 10;115(15):E3463-E3470.
  3. Vuik FE, Nieuwenburg SA, Bardou M et al. Increasing incidence of colorectal cancer in young adults in Europe over the last 25 years. Gut 2019 Oct;68(10):1820-1826.
  4. IARC/WHO. Globocan 2020. Colorectal cancer

翻訳担当者 角坂功

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がんセンター東病院 消化管内科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

運動で結腸がんサバイバーの生存期間を延長の画像

運動で結腸がんサバイバーの生存期間を延長

ダナファーバーがん研究所が共同で主導した研究により、運動が結腸がんサバイバーの生存期間を延ばし、がんを患っていない人々と同等の生存期間に近づく可能性があることが明らかになった。

ダナファ...
大腸がん、膵がんにおける遺伝子変異がKRAS G12C阻害薬の一次耐性に関与の画像

大腸がん、膵がんにおける遺伝子変異がKRAS G12C阻害薬の一次耐性に関与

フィラデルフィア―KRAS G12C変異を伴う大腸がんと膵管腺がんは、KRAS G12C阻害剤の投与歴がなくとも、KRAS G12C阻害剤への耐性に関連し得るKRAS G12C以外の遺...
大腸がんにエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法は奏効率を大幅に改善の画像

大腸がんにエンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6療法は奏効率を大幅に改善

BREAKWATER試験結果第3相BREAKWATER試験では、BRAF V600E変異型転移性大腸がん(mCRC)患者の一次治療として、エンコラフェニブ(販売名:ビラフトビ)...
炎症性腸疾患(IBD)患者の大腸がんリスクをDNA検査が予測の画像

炎症性腸疾患(IBD)患者の大腸がんリスクをDNA検査が予測

ロンドンの英国がん研究所(ICR)の科学者らの研究によると、新しいDNA検査法によって、炎症性腸疾患(IBD)患者のうち大腸がんのリスクが最も高い人を特定できることが判明した。
 
研究チ...