直腸がんの予後予測にはTNM分類より、血管侵襲と腫瘍デポジットのほうが精度が高い
【ロイター】直腸がん患者において、MRIの画像評価によるリンパ節ではない腫瘍結節(腫瘍デポジット、mrTDs)や壁外静脈侵襲(EMVI)は、腫瘍の大きさやリンパ節転移(mrLNMs)よりも精度の高い予後予測因子であると研究者らは述べている。
「MRI検査でリンパ節腫大が認められた場合、現在の直腸がんの標準治療は放射線治療である」と、王立マーズデン病院(英国ロンドン)のGina Brown医師はロイター・ヘルスに電子メールで述べた。しかし、「腫瘍の静脈侵襲やその関連したデポジットなどの因子を使用するべきである」と述べた。
「リンパ節ではない腫瘍結節は、リンパ節転移と比較するとMRIで明瞭に認められる。また、予後に重大な影響があるが、化学放射線療法の使用によりその予後は大きく変わりうる」とBrown医師は述べた。
この研究により「治療が変わる」可能性があると同氏は加えて言う。「以前は『高リスク』であると考えられていた患者は実際にはそうではない可能性があり、その逆もありうる」。
Brown医師らは、2007年から2015年の間に手術を受けた直腸がん患者(年齢中央値66歳、男性62%)233人のデータを解析した。その結果、52%が術前化学療法を受けており、そのうちの大半が長期間の化学放射線療法を受けたことがAnnals of Surgery誌にて報告された。
手術に関しては、74%が前方切除術、20%が腹腔鏡下直腸切除術、4%がハルトマン手術、2%が肛門摘出術であった。なお、患者の54%が術後化学療法を受けた。
追跡期間の中央値は61カ月であった。全コホートに対し、5年生存率は76%、無病生存率は61%であった。また局所再発率は12%、遠隔再発率は25%であった。
多変量解析では、有害生存期間(ハザード比HR 2.36)、全生存期間(HR 2.37)、および無病生存期間に対して、ベースラインでの腫瘍デポジット(mrTD)や壁外静脈侵襲(mrEMVI)の状態がMRIで唯一有意な因子であり、TカテゴリーおよびNカテゴリーを上回っていた。
対照的に、リンパ節転移は、良好な全生存期間(HR 0.50)および無病生存期間(HR 0.60)と関連があった。
さらに多変量解析では、腫瘍デポジットや壁外静脈侵襲は遠隔再発との相関が強かった(HR 6.53)が、TカテゴリーおよびNカテゴリーとは相関がなかった。
治療後の化学放射線治療(CRT)患者において、治療後MRIのサブグループ解析では、腫瘍デポジットや壁外静脈侵襲の状態が唯一の有意な予後因子であることも示された。また、良好な治療効果を示した患者は、ベースラインで腫瘍デポジットや壁外静脈侵襲が陰性であった患者と同様の予後を有していた。
「MRIでTおよびNのステータスを予測する現在の病期分類は、予後を適切に予測するものではない。腫瘍デポジットや壁外静脈侵襲が陽性の状態は予後の精度が高く、治療法や追跡調査の計画を決定するうえで優れている。化学放射線治療は、腫瘍デポジットや壁外静脈侵襲が陽性である患者において、非常に効果的な治療計画であると思われる」と著者らは結論づけた。
「本結果はこういった他の因子の評価の訓練を受けた専門の放射線科医が必要であることを示唆しているため、われわれはリンパ節の測定だけでなく静脈侵襲や腫瘍デポジットの確認も行っている。これにより、その時点で放射線治療が不要な患者を過剰治療することを回避できる」とBrown医師は加えた。
「現在、大半のがんはTNM分類に基づいて病期分類されており、さまざまな患者群に対し実質的に標準化し比較することが可能になった。そのためTNM分類では、浸潤の深さと転移リンパ節の有無が病期を定義する中核的なパラメータとなっている」とCity of Hope(カリフォルニア州ドゥアルテ)の大腸外科医であるAndreas Kaiser医師は、ロイター・ヘルスへ電子メールでコメントしている。
「しかしながら、」と同氏は続ける。「TNM分類は治癒の可能性を予測するうえで100%信頼できるものではないことが明らかになってきた」。
「既存の分類システムを断たず、(その時々で)分類システムを置き換えないことは常に重要である。しかし、より強力な治療や一連の異なる治療様式で恩恵を受ける可能性のある患者群に対して、さらに予後のパラメータを追加することも確かに重要である」。
「今後直腸がんの対応にあたり、患者ひとりひとりに応じた治療を可能な限り個別に行うことが間違いなく重要になってくるだろう。患者のがんの広がりや局所再発のリスクをより正確に予測できるほど、特定の治療法をより正しく用いたり、控えたりすることができるだろう」。
出典: https://bit.ly/36hjDgV Annals of Surgery誌, 2020年9月15日オンライン版
翻訳担当者 原久美子
監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)
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