歯周病とそれに伴う歯の喪失は大腸がんの前がん病変に関連

米国がん学会(AACR)のジャーナルCancer Prevention Research誌で発表された研究結果によると、歯周病は大腸がんの2種類の前がん病変のリスク増加と関連していることがわかった。

「成人では歯周病が非常に多く、米国人口の40%以上が歯周病に罹患しています」と、研究の筆頭著者であるMingyang Song医師(理学博士)は述べている。同氏は、ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院臨床疫学・栄養学助教である。

これまで歯周病と乳がん、頭頸部がん、膵臓がんなどとの関連性は研究されてきたが、大腸がんとの関連性の研究はほとんど行なわれていない。

本研究では、鋸歯状ポリープと通常型腺腫の2種類の大腸腫瘍を対象とした。この2種類はどちらも大腸がんに至ることが多い。著者の一人であり、マサチューセッツ総合病院およびハーバード大学医学部臨床・トランスレーショナル疫学部門および消化器内科部門の博士研究員Chun-Han Lo医師(公衆衛生学修士)は、鋸歯状ポリープがBRAF遺伝子変異とマイクロサテライト不安定性を特徴とすることが多いのに対して、腺腫はKRAS遺伝子変異と染色体不安定性を特徴とすると説明する。

歯周病と歯の喪失に関するデータは、Nurses’ Health StudyおよびHealth Professionals Follow-up Studyから研究者が収集した。研究参加者には大腸ポリープや腺腫と診断されたことがあるかを報告してもらい、研究者は診療記録で診断を確認した。

この研究には42,486人が参加し、84,714回分の内視鏡検査データが使用された。全体として、歯周病患者は鋸歯状ポリープの発生リスクが17%高く、通常型腺腫の発症リスクが11%高かった。4本以上の歯を喪失した人では鋸歯状ポリープの発生リスクが20%高かった。

歯周病のある参加者では、喪失した歯の本数が多いほど、進行した通常型腺腫のリスクが高くなっていた。歯周病で1~3本の歯を喪失した人では、通常型の進行性腺腫を発症する確率が28%高い一方、歯周病で4本以上の歯を喪失した人では36%高かった。

研究者らは、歯の喪失は小さな鋸歯状ポリープや進行した通常型腺腫とは関連するが、大きな鋸歯状ポリープとは関連しなかったと指摘した。Song氏は、大きな鋸歯状ポリープはがんリスクの予測因子として知られているため、この所見はやや意外であると述べた。同氏は、大きな鋸歯状ポリープのサンプル数が少ないために、この関連性を検出するだけの検定力が得られなかったのではないかとも述べた。

喫煙は歯周病と大腸がんの両方の原因として知られているが、非喫煙者であったとしても歯を喪失すると鋸歯状ポリープと通常型腺腫の発生率が高いと著者らは述べている。

「歯周病と診断されたことがある人は、大腸がんの前がん病変のリスクが高くなります。前がん病変の中には大腸がんに至るものもあります」とSong氏は述べた。「このような人たちは、大腸内視鏡検査を定期的に受けたり、ライフスタイルを変えたりすることが特に重要です」。

これらの研究結果は、口腔内細菌叢ががん発生に及ぼす影響に関する研究の増加に寄与すると著者らは述べている。

「口腔内にはさまざまな細菌が存在しています」とSong氏は言う。「口腔衛生不良、遺伝的感受性、喫煙、糖尿病、肥満などのさまざまな要因により、口腔内の病原体が過剰になり、宿主の炎症や免疫調節障害を引き起こすことがあります」。

本研究結果は、歯周病と数種のがんの関連を示すこれまでの研究とも合わせて、口腔内細菌叢を健康な状態に保つために口の中を清潔にしておくことの重要性をあらためて示すものであると、Song氏は述べている。また、歯を喪失した経験のある人は、より集中的にがんスクリーニング検査をした方が良いかもしれない。

Song氏は、本研究の限界として歯の喪失が参加者からの自己申告であったこと、大きな鋸歯状ポリープのサンプル数が少なかったことを挙げている。また、回答者のほとんどが白人であり、より多様な集団で結果を確認すべきであると注意を促した。

この研究は、米国国立衛生研究所(NIH)、アメリカがん研究協会、アメリカがん協会、Project P Fund for Colorectal Cancer Research、Bennett Family Fund、およびEntertainment Industry Foundation through Colorectal Cancer Research Allianceからの助成金を受けて行なわれた。著者らは利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 白濱紀子

監修 泉谷昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

高用量ビタミンD3に遠隔転移を有する大腸がんへの上乗せ効果はないの画像

高用量ビタミンD3に遠隔転移を有する大腸がんへの上乗せ効果はない

研究要約研究タイトルSOLARIS(アライアンスA021703): 治療歴のない遠隔転移を有する大腸がん患者を対象に、標準化学療法+ベバシズマブにビタミンDを追加投与す...
リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まるの画像

リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まる

私たちの資金援助により、オックスフォード大学の研究者らは、リンチ症候群の人々のがんを予防するワクチンの研究を始めている。

リンチ症候群は、家族で遺伝するまれな遺伝的疾患で、大腸がん、子宮...
マイクロサテライト安定性大腸がんに第2世代免疫療法薬2剤併用が有効との初の報告の画像

マイクロサテライト安定性大腸がんに第2世代免疫療法薬2剤併用が有効との初の報告

ダナファーバーがん研究所研究概要研究タイトル再発/難治性マイクロサテライト安定転移性大腸がんに対するbotensilimab + balstilimabの併用:第1相試...
PIK3CA変異大腸がんでセレコキシブにより再発リスクが低下する可能性の画像

PIK3CA変異大腸がんでセレコキシブにより再発リスクが低下する可能性

ステージ3の大腸がん患者を対象としたランダム化臨床試験のデータを解析したところ、PIK3CA変異のある患者が手術後に抗炎症薬であるセレコキシブを服用すると、変異のない患者よりも有意に長...