アスピリン毎日服用でリンチ症候群患者の大腸がんリスク低下ー英国NICE

リンチ症候群患者がアスピリンを2年以上毎日服用すると、大腸がんのリスクが減少する可能性があるとする新ガイダンス草案が、英国国立医療技術評価機構(NICE)から提出された。

遺伝性疾患であるリンチ症候群の患者は、さまざまながんを発症するリスクが高い。推定で5人に4人が生涯に大腸がんを発症する。

臨床試験の結果から、「アスピリンを毎日2年以上服用すると、リンチ症候群患者の大腸がんリスクが減少する」ことがわかったと、NICEのガイドライン研究所の所長であるPaul Chrisp医学博士は述べた。

医師が患者に助言できるようにガイダンス草案を完成させる必要がある。

キャンサーリサーチUKの政策開発部長Emlyn Samuel氏は、この推奨の草案は「大腸がんを発症するリスクが一般集団よりもはるかに高いリンチ症候群患者にとって喜ばしいニュースです」と述べた。

利益はリスクを「上回る」

NICEのガイダンス草案は、リンチ症候群患者427人をアスピリン服用に、434人をプラセボ服用に割りつけた臨床試験から得たエビデンスのレビューに基づくものである。

ほぼ5年後、アスピリン服用群の患者のうち18人が大腸がんを発症したのに対して、プラセボ群の患者のうち30人が発症した。大腸がんリスクの減少は、アスピリンを2年間服用後から、みとめられた。

「キャンサーリサーチUKは、アスピリンがこの遺伝性疾患の患者の大腸がんリスクを減少させることを証明する試験に一部資金提供しました。2015年英国がん戦略の一環として、NICEに対してこのガイダンス作成が要求されていることから、ガイダンス作成は期待できます」と、 Samuel氏は付け加えた。

アスピリンに関するガイダンスはリンチ症候群患者にとって朗報であるが、「重要な留意点として、アスピリンは副作用を伴う可能性があり、また、このガイダンス草案はリンチ症候群患者しか対象としていません。大腸がんリスク抑制のためにアスピリン服用を考える患者は、まず主治医に相談してください」とSamuel氏は述べた。

アスピリンの長期使用に伴うリスクに言及して、リンチ症候群患者に関しては「利益が潜在的リスクを上回る可能性が高いことに委員会は同意しています」とChrisp氏は述べた。

次のステップ

「このガイダンス草案が完成され、その後、リンチ症候群患者の利益になるように実践されることが重要です」とSamuel氏は言った。

リンチ症候群患者にとってアスピリンの最も効果的な投与量を検証する試験が進行中である。

研究が進行中であるため、患者は、予防薬としてアスピリンを服用する前に主治医に相談する必要があると同氏は付け加えた。

参考文献:
NICE (2019) Effectiveness of aspirin in the prevention of colorectal cancer in people with Lynch syndrome. Draft for consultation

翻訳担当者 有田香名美

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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