BRAF変異陽性の進行大腸がんに対する3剤併用標的療法が生存率を改善

第3相臨床試験の結果により、15%の結腸直腸がん患者の標準治療が変わるかもしれない

MD Anderson ニュースリリース アブストラクト:LBA-006

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによって実施されたBEACON CRC第3相臨床試験の結果、エンコラフェニブ、ビニメチニブ、セツキシマブの3剤併用治療は、BRAF変異を有する転移性大腸がん(mCRC:*手術不能の結腸直腸がん)患者の全生存期間(OS)を有意に改善した。

現在の標準治療の全生存期間(OS)中央値が5.4カ月であるのに対し、3剤併用療法のOS中央値は9カ月であった。3剤併用療法の奏効率 (ORR) は26%であり、一方、標準治療ではわずか2%であった。

BEACON CRCは、BRAF V600E変異を有する転移性大腸がん患者を対象とした、BRAF/MEK 分子標的薬併用の有効性を確認するために実施された、最初にして唯一の第3相試験である。BRAF変異は転移性大腸がん患者の最大15%程度に発生していると推定されているが、V600Eは最も一般的なBRAF変異で、代表的な予後不良因子である。

本試験の結果は、2019年のESMO世界消化器がん会議において、研究責任者で消化器腫瘍内科准教授でもあるScott Kopetz医師が発表する。

「この研究はBRAF変異大腸がんの腫瘍生物学に関する10年に及ぶ研究に基づいており、この腫瘍に特有の脆弱性を扱うための理論的な組み合わせを反映している。」とKopetz医師は述べ、「この新しい治療は患者の転帰に意味のある改善をもたらしており、勇気付けられる結果だ」と続けた。

アメリカがん協会(ACS)によると、大腸がんは男女ともに第3位のがん関連死亡の原因であり、男女を合計した場合には第2位のがん関連死亡の原因である。2019年には約51,020人が死亡することが予想されている。BRAF変異は転移を有する大腸がん患者の最大15%程度に発生していると推定され、V600は最も頻度の高いBRAF変異で、これらの患者の代表的な予後不良因子である。

この国際的な研究は、全世界の200施設以上の多施設共同研究であった。非盲検3群ランダム化臨床試験であり、転移に対する1~2回の前治療後に進行したBRAF V600E変異陽性、転移性大腸がん患者665人を対象として、3剤併用治療、2剤併用治療(エンコラフェニブとセツキシマブ)、またはセツキシマブに研究者の選択によりイリノテカンまたはフォリン酸、フルオロウラシルおよびイリノテカン(FOLFIRI)を併用した群のいずれかに無作為に割り付けられた。

3剤併用治療には予期せぬ毒性は発現せず、概ね忍容性は良好であった。グレード3以上の有害事象が、3剤併用治療群の患者で58%、2剤併用治療群の患者で50%、標準治療群の患者で61%に認められた。

2018年8月、米国食品医薬品局(FDA)はエンコラフェニブにブレイクスルー治療指定を与え、転移腫瘍への1~2回の前治療で効果が得られなかったBRAF V600E変異陽性、転移性大腸がん患者の治療に、ビニメチニブとセツキシマブの併用療法で使用できるようにした。

BEACON CRC試験のデータは、転移性BRAF V600E変異転移性大腸がんに対する3剤併用治療の規制当局による承認を後押しするために使用されており、最近ではBRAF阻害を軸とする治療が、米国の結腸がんおよび直腸がんに対するNational Comprehensive Cancer Network (NCCN)ガイドラインに治療選択肢として含まれている。

「この分子標的治療薬の組み合わせは、今回の患者群にとっての新たな標準療法となるであろう。この組み合わせが、より早期の患者または一次治療でも有用性があるかを検証するためにさらなる研究が必要である」とKopetz氏は述べた。

この試験は3剤併用治療と2剤併用治療の比較が目的ではなかったが、どの患者に3剤併用治療あるいは2剤併用治療が有益であるかについては今後検証される予定である。さらに、現在進行中の臨床試験(ANCHOR-CRC)では、転移性BRAF V600E変異転移性大腸がん患者に対する初回治療としての3剤併用治療の効果を検証している。

この試験はArray Biopharmaによる出資を受け、Merck KGaA, Darmstadt, Gearmany(北米以外の地域)、Ono Pharmaceutical、およびPierre Fabreの支援を受けて実施された。

Kopetz医師に関連する開示情報はない。

本試験に参加したその他の著者は以下のとおりである:Axel Grothey, M.D., of West Cancer Center Research Institute; Eric van Cutsem, M.D., Ph.D., of  University Hospitals Gasthuisberg Leuven and KU Leuven; Rona Yaeger, M.D., of Memorial Sloan-Kettering Cancer Center; Harpreet Wasan, MD, BS of Hammersmith Hospital; Takayuki Yoshino, M.D., of National Cancer Center Hospital East; Jayesh Desai, M.D., of Peter MacCallum Cancer Centre; Fortunato Ciardiello, M.D., Ph.D., of University of Campania; Ashwin Gollerkeri,, M.D. and Kati Maharry, Ph.D., Victor Sandor, M.D., Janna Christy-Bittel, Lisa Anderson of Array BioPharma Inc; Fotios Loupakis, M.D., of Istituto Oncologico VenetoYong Sang Hong, M.D., Ph.D., of Asan Medical Center, University of Ulsan College of Medicine;  Neeltje Steeghs, M.D., Ph.D., of Netherlands Cancer Institute; Tormod Kyrre Guren, M.D., Ph.D., of Oslo University Hospital ; Hendrik-Tobias Arkenau, M.D., Ph.D., of Sarah Cannon Research Institute and University College London;  Pilar Garcia-Alfonso, M.D., of Hospital Gregorio Maranon; and Josep Tabernero, M.D., Ph.D., of Vall d’Hebron University Hospital and Vall d’Hebron Institute of Oncology.

翻訳担当者 沼田 理

監修 泉谷 昌志(消化器がん、がん生物学/東京大学医学部附属病院消化器内科)

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