大腸がん肝転移に対する腹腔鏡手術後の生存期間は、開腹手術と同等

ASCOの見解

「低侵襲な腹腔鏡手術は、患者の合併症が少なく、回復が早いため、多種類の腹部固形がんへの適用が一般的になりつつあります。しかし、肝臓がん手術のような技術的課題の多い手術の場合、がんを克服しての長期生存には依然として懸念があります。本試験は大腸がんの肝転移の切除を受ける患者にとって腹腔鏡手術が開腹手術後と同様に有効で長期的生存が得られることを初めて示すものであり、これにより患者は自信をもってこれらの選択肢のどちらかを選ぶことができるようになるはずです。これらの技術に関する外科医の経験が鍵となります」と、ASCO専門員であるNancy N. Baxter医師は述べた。

OSLO-COMETランダム化試験の結果、大腸がん患者で肝転移部位を切除する際に腹腔鏡手術は開腹手術と比較して生存可能性が変わらなかったことがわかった。全体的にみて、患者は腹腔鏡手術、開腹手術に関わらず、術後6.5年以上生存した。

本試験は本日のプレスブリーフィングで紹介され、2019年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

「腹腔鏡下肝臓手術は、開腹肝臓手術と比較して術後の合併症率が低く、生活の質を改善し、費用対効果が高かっただけでなく、開腹手術と同等の平均余命でした」と本試験の筆頭著者である、ノルウェーのオスロ大学病院介入センター・肝膵胆(HPB Hepato-Pancreato-Biliary)手術部門の外科医であるAsmund Avdem Fretland医師は語った。「腹腔鏡手術は長年にわたる改善により、いまや開腹手術と同様の生存期間を示す成果を上げており、死亡率も低いため、さらに多くの肝臓手術が腹腔鏡手術で行われるようになるだろうと期待しています」と、オスロ大学病院介入センター・HPB手術部門の医学博士で、本研究の取り組みを主導しているBjørn Edwin氏は指摘した。

腹腔鏡手術は、鍵穴手術と呼ばれることもあり低侵襲な手術であると考えらえている。以前から行われてきた開腹手術では、腹部を数インチ(10㎝前後)以上切開して施術する。一方、腹腔鏡手術では、数カ所をせいぜい4分の1インチ(約6ミリ)だけ切開して行う。1つの切開口から挿入した腹腔鏡で腹腔内の画像をモニターに送り、外科医はそれを見ながら他の切開口から鉗子類を挿入して手術を行う。

最初に腹腔鏡下肝臓手術が報告されたのは1991年で、その後まもなく、世界各地で複数の報告がなされた。研究者によれば、腹腔鏡手術はより一般的になってきたが、本試験に至るまでは、肝転移したがん患者の長期転帰をランダム化試験で検証したものはなかった。

本試験での外科医は腹腔鏡下肝臓手術の高度な訓練を受けていた。外科医が腹腔鏡手術の訓練を十分に受けていない場合は、開腹手術が良い選択肢と考えられる。

試験について

2012年2月から2016年1月まで、試験責任医師らは、肝転移のある大腸がん患者280人を無作為に腹腔鏡手術もしくは開腹手術に割り付けた。手術は肝臓温存法で行われ、腫瘍と周囲の最小限の肝組織を切除した。患者133人に腹腔鏡手術を実施し、147人に開腹手術を実施した。患者の約半数は、術前または術後にノルウェーの標準ガイドラインに沿って、化学療法剤5フルオロウラシル+ロイコボリン(フォリン酸)およびオキサリプラチン(エロキサチン)を用いた化学療法を受けた。

主な知見

現在追跡中の転帰に基づき(2015年~2016年に登録した患者は5年間の観察期間にまだ達していない)、研究者らは以下のとおり、統計的に有意ではないが両群同様の結果を得た。

・術後の生存期間中央値は、腹腔鏡手術を受けた患者では80カ月、開腹手術を受けた患者では81カ月であった。

・開腹手術を受けた患者の無再発生存期間中央値が16カ月であったのに対して、腹腔鏡手術を受けた患者では19カ月であった。

・最低3年間の追跡期間を経て(最後の患者は2016年の初めに登録した)、研究者らは、開腹手術を受けた患者の56%が術後5年間生存し、腹腔鏡手術を受けた患者の57%が術後5年間生存すると推定した。

・5年経過時点で再発がなかった患者の割合は、開腹手術を受けた患者で31%であったのに対して、腹腔鏡手術を受けた患者では30%であった。

手術過程だけをみると、完全腫瘍切除率、または観察可能な腫瘍部位以外の組織切除量に関して、両群で差異はなかった。

腹腔鏡手術を受けた患者は、健康に関連する生活の質の改善を報告しており、腹腔鏡手術に伴う術後合併症も少なかった(腹腔鏡手術19%対開腹手術31%)。本研究ではいずれの手術も費用は同等であることがわかったが、費用の差は国によってさまざまであると思われる。

次の段階

Fretland医師の研究チームは将来の患者の診断および治療を改善することができるように現在、人工知能、遺伝子学およびデジタルイメージ分析を用いて、本試験から得た結果を解析している。同チームは他の種類の肝手術を検討する多施設ランダム化試験に患者を登録することも含めて、低侵襲な肝手術の新たな側面を模索する計画である。研究者らはまた、熱を用いてがん細胞を殺す肝腫瘍焼灼法も模索している。

本試験は南東ノルウェー地域保健当局から資金を受けた。

アブストラクト全文はこちら

研究の焦点:大腸がんからの肝転移に対する腹腔鏡手術

試験の種類:第3相ランダム化臨床試験

試験した治療法:腹腔鏡手術 対 開腹手術

主な知見:術後の生存期間中央値は、腹腔鏡手術を受けた患者では80カ月、開腹手術を受けた患者では81カ月であった。

副次的な知見:死亡率は、開腹手術群で31%であったのに対して、腹腔鏡手術群では19%であった。

翻訳担当者 有田香名美

監修 畑 啓昭(消化器外科/京都医療センター)

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