免疫療法薬が大腸がんの新たな標準治療に

DNAミスマッチ修復機能欠損があり(dMMR)、遠隔転移を有する難治性の大腸がん(CRC)治療に対してペムブロリズマブとニボルマブが承認されたことで、免疫療法は消化器腫瘍学の分野に進出した。一方で、免疫療法のdMMRがんへの最適なアプローチや、免疫療法がミスマッチ修復機能欠損のない(pMMR)大腸がんで有効性がみられないことの理由など、多くの課題が残っている。6月2日に行われた教育セッション「大腸がん免疫療法における我々の立場」において、専門家の間でこれらの課題について、また、免疫療法の毒性管理について議論された。

この教育セッションの議長を務め、またdMMR大腸がんへの最適なアプローチについて講演したテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのMichael J. Overman医師は「dMMRがんの予後は、pMMRがんよりかなり良好である」と語った。ステージ4の大腸がんは例外的に逆の結果であり、dMMRがんでの予後はpMMRがんより不良である。大腸がんの約15%がdMMRを有するが、ステージが上がるとこの割合は減少する1。ステージ4大腸がんでは4%のみでdMMRがみられる。

MMRとは、特に複製時にダメージを受けたDNAを修復するために細胞が使用するメカニズムである。この仕組みに欠損があると、遺伝子変異蓄積をもたらし、結果としてdMMR大腸がんにおける腫瘍の変異負荷[がんが有する体細胞遺伝子変異(アミノ酸変異を伴う)の量]が相当大きくなる。MMRにより認識され修復されるタイプのDNAエラーは、マイクロサテライトと呼ばれるDNAの繰り返しが起こる領域で発生するため、dMMR大腸がんは「高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)」とも呼ばれる。

MMRの違いによる予後の違いと、治療の有効性の違いについて知られるようになり、ガイドラインにおけるMMR検査の記載も変化してきた。Overman医師は「大腸がんのすべての患者がdMMRの検査を受けるべきである」と述べた。これは、家族歴や他の患者背景によらず当てはまる。

この検査は、免疫組織化学的(IHC)染色検査、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)、次世代シークエンシング(塩基配列決定法)などによって行うことができる。「これらの方法はそれぞれに何らかの欠点はあるものの、充分に有効である。PCR検査は感度97%、特異度95%であるが、大腸がん以外のがんにおいては正確性に劣ることが知られている。IHC染色検査は感度92%、特異度99%であるが、機能欠失変異を検出することができない。次世代シークエンシングは効果的ではあるが、異なるマイクロサテライトを標的とする複数のアプローチがあり、それぞれに感度と特異度が異なる」。

「重要なのは、ガイドラインに全患者に対する検査方法が掲載されているということをすべての関係者が理解することである、と私は考える。すべての人が検査を受けるべきである」とOverman医師は語った。

チェックポイント阻害薬

dMMR大腸がんが腫瘍浸潤性リンパ球とクローン様リンパ球反応による独特の免疫腫瘍微小環境を有することは、長い間知られてきた1。免疫活性は、切除後のdMMR大腸がんにおいてみられる良好な予後の原因である可能性が高く、このことが免疫チェックポイント阻害剤を用いた初期の臨床研究を実現させた。

2017年5月、米国食品医薬品局(FDA)は、dMMR大腸がんで、フルオロピリミジン、オキサリプラチン、およびイリノテカンによる前治療後、充分な別の治療が無い場合の治療として、ペムブロリズマブを承認した。

その後すぐの2017年7月に、FDAは、dMMR大腸がんで、同じ前治療後の治療としてニボルマブを承認した。これは、dMMR大腸がんの74人の患者に単一薬剤のニボルマブを投与したCheckMate-142試験の結果に基づいている。この試験では、31%の奏効率が示され、69%が12週間以上の病勢コントロールが可能であった。12カ月後の無増悪生存(PFS)率は50%であり、全生存(OS)率は73%であった。

同じ臨床試験で、dMMR大腸がんの119人の患者におけるニボルマブとイピリムマブの併用も検討された1。この2剤併用では、全奏効率55%、12カ月無増悪生存率71%、および12カ月全生存率85%で、有効とみられた。

Overman医師は、この奏効は極めて長期間持続するようだと指摘した。いくつかのコホートの長期フォローアップではPFS曲線とOS曲線の両方が平坦化し、効果は持続的であることが示唆された。これは、抗PD-1剤と抗CTLA-4剤の2剤併用と同様に、ニボルマブおよびペムブロリズマブ単剤療法にも当てはまる。併用群の12カ月無増悪生存率は77%であったのに対して、ニボルマブ単剤療法群では48%であった。

ペムブロリズマブ単剤療法では、プロトコルに従い2年間で治療を終了した18人の患者(奏効が11人、がん残存が7人)における治療休止期間の中央値は8カ月であり、まだ再発していないことをOverman医師は指摘した。ニボルマブとペムブロリズマブの両方でみられた12カ月無増悪生存率は、これらの薬剤が試験され承認されたさまざまな腫瘍型のなかで最も高い。

この分野でいくつかの第3相試験が現在進行中である。1つは、MSI-Hがみられる遠隔転移を有する大腸がん患者300人以上を対象に、アテゾリズマブ単剤、および化学療法(mFOLFOX6)とベバシズマブの併用を検討した試験である。また同様に遠隔転移を有する患者を対象とした別の研究でも、患者登録が完了している。この試験では合計270人の患者がmFOLFOX6か、ベバシズマブまたはペムブロリズマブ単剤療法のいずれかに無作為に割り付けられる。

Overman医師は「dMMR大腸がんの2次治療およびその後の標準治療は、ニボルマブまたはペムブロリズマブである」と述べた。「dMMR大腸がんのすべての患者にこれらの免疫療法が奏効するわけではないので、抵抗性機序のより詳細な理解が必要だと考える」とも付け加えた。

ミスマッチ修復機能欠損のないがん(pMMRがん)

デューク大学がん研究所のMichael A. Morse医師(MHS:健康科学修士、FACP:米国内科学会フェロー)は「pMMRがんにおける抗PD-1抗体療法は効果がないことが知られている。夜と昼のような裏表の関係である」と語った。Morse医師はpMMRがんがなぜ反応しないのか説明し、この状況を変化させる可能性のあるアプローチをいくつか紹介した。

「がん内にT細胞が多く存在するということが重要であると考えられる」とMorse医師は語った。T細胞が反応するネオアンチゲン(腫瘍特異的変異抗原)または別の何かによって、免疫療法に対する反応が改善される可能性がある。WNTシグナル伝達がこの改善に一役を担う可能性がある。WNTシグナル伝達は、T細胞浸潤と逆相関することが判明しているからである。しかし、WNTシグナル伝達を標的とすることは、これが主にタンパク質間相互作用であるため、困難ではある」とMorse医師は述べている。

それでもなお、いくつかの治療アプローチが検討されている。例えば、ある進行中の臨床試験では、切除不能な消化器がん患者において、porcupine阻害剤CGX1321がペムブロリズマブとともに試験されている。

サイトカイン環境を調節するアプローチも有効な可能性がある。サイトカイン環境も免疫反応を誘導し得るからである。このアプローチは、腫瘍に炎症を誘導することによって達成される可能性がある。トリプルネガティブ乳がんまたは肝転移を有する大腸がんの患者におけるtalimogene laherparepvecおよびアテゾリズマブの第1b相試験が進行中である。

Morse医師は、免疫療法に対するpMMRがんの奏効を改善する方法として、T細胞ではなくナチュラルキラー(NK)細胞に焦点を当てることも可能であると述べた。NK細胞上で腫瘍による阻害シグナル伝達を抑制するmonalizumabと、durvalumab(デュルバルマブ)の、遠隔転移を有するpMMR大腸がん患者におけるFirst-in-human試験(ヒトでの初回試験)の初期結果は、6月3日に発表される(Abstract 3540)。37人の患者の中で3人だけの限定的な反応ではあったが、一方でチェックポイント阻害剤単剤群ではまったく反応が期待できなかった2

Morse医師は、将来的にはがんワクチン接種が必要かもしれないと述べた。「適切にT細胞が反応しない患者がいる可能性が高い」とも語った。「がんワクチンでT細胞の反応を活性化することができれば、チェックポイント分子を腫瘍部位で機能させる基質を得ることができるだろう」。

Morse医師は、dMMRとpMMRとの間での予後や反応の大きな相違が、新しいアプローチが必要であることを示唆している、と強調した。「ある時点で、これら2つを別に扱う必要が出てくる。これら2つは生物学的に異なる」とも述べた。「つまり、我々はそれぞれの道をゆっくり確実に進まねばならず、MSI-Hで何が起きているのかを考慮に入れずに、マイクロサテライト安定性を完全に別のものとして研究する必要があるということである」。

毒性管理

現在、チェックポイント阻害剤は、dMMR大腸がん患者の一部では標準治療とされているため、毒性を考慮することがより重要となっている。Roswell Park総合がんセンターのMarc S. Ernstoff医師は「これらの毒性を理解し、その治療法を学ぶことが重要である」と述べている。Ernstoff医師は、最近の腫瘍科医師対象の調査によると、免疫関連有害事象(irAE)の管理にある程度もしくは非常に自信があると回答したのは、約半数にすぎなかったと指摘した。

irAEは、自己免疫の改善、免疫チェックポイントの発現、および炎症性サイトカイン放出を含むいくつかのメカニズムによって引き起こされ得る。多くの場合で、毒性は遅延して発現する可能性があり、また、ほとんど全ての器官に影響を与える可能性がある。

最も多く発現するirAEは、掻痒、発疹、下痢である。発現時期はさまざまで、皮膚反応は早期に発現しがちであり、消化器、内分泌、および肝毒性は、通常、治療の最初の12週間以内にみられる。

「10〜20%の患者で、継続的な管理が必要な未回復の毒性が発現する」とErnstoff医師は述べている。

irAE管理の主な原則には、感染や併存疾患などの他の原因を除外し、該当する場合には各臓器の専門医に早期に相談することが含まれる。また、いくつかの確立された治療アルゴリズムが公開され、毒性の管理指針を提供している。心筋炎、筋炎、間質性肺炎、および腸管穿孔などの生命を脅かす有害事象を理解することが重要である。

「PD-1/PD-L1系の免疫チェックポイント阻害剤は、一般的に、忍容性がよく、従来の化学療法より優れた安全性プロファイルを有する」とErnstoff医師は述べた。「あなた自身と、あなたのコミュニティで、チェックポイント阻害剤の毒性プロファイルを熟知してほしい」

-Dave Levitan

参考文献:
1.Overman MJ, et al. Am Soc Clin Oncol Educ Book. 2018;38:239-47.
2.Segal NH, et al. J Clin Oncol. 2018;36 (suppl; abstr 3540).

翻訳担当者 山岸美恵野

監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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