大腸がんの増殖と転移を促進するフソバクテリウム

ヒトの胃や腸にみつかる細菌が大腸がん治療に重要な影響を与えている可能性があると、新たな研究結果から明らかになった。

この細菌は、大腸内の腫瘍に密着しているだけでなく、体内の転移性大腸腫瘍にも存在していると、ある研究グループが明らかにした。大腸がんのマウスモデルに抗生物質を投与してこの細菌を死滅させると、腫瘍の増殖速度が遅くなった。

この結果は、特定のがん種の治療の一環として微生物を標的とする治療が可能であることを示唆していると、ダナファーバーがん研究所がんゲノミクス部長でこの研究の統括著者のMatthew Meyerson医学博士は説明した。

「一般に腫瘍はがん細胞(のみ)でできていると考えられていますが、腫瘍はがん細胞や非がん細胞、そして付随する微生物からできています。」だから、最も効果的な治療法はこうした細胞共同体全てを標的にする必要があるのかもしれません、とMeyerson 博士は述べた。

NCIが出資したこの研究は、12月15日にScience誌に掲載された。

細菌を減らし、腫瘍細胞の増殖を抑制

いくつかの研究室で行われたこれまでの研究では、フソバクテリウム・ヌクレアタムという細菌が、大腸腫瘍に最もよく見られる細菌の一種として同定されている。

フソバクテリウムが大腸がんが転移した部位にも見つかるかどうかを調べるために、患者11人の原発腫瘍および肝転移腫瘍の凍結組織検体の全ゲノムシーケンシングを行った。その結果、7人の原発および転移腫瘍の両方にフソバクテリウムのDNAが認められた。

フソバクテリウムと一緒に見つかることが多い数種類のほかの細菌も、原発巣、転移巣の両方に似たような割合で検出されており、フソバクテリウムの周囲に安定した細菌共同体があることが示唆されたと著者らは述べている。

興味深いことに、患者ごとに、原発巣と転移巣のフソバクテリウムのDNA配列はほぼ同一だったと、Meyerson博士は説明した。これは、この細菌ががん細胞とともに血流に乗って転移部位へ移動したのであって、新たなフソバクテリウム細胞が遠隔部位の転移細胞に付着したわけではないということを示していると、Meyerson博士は語った。

そこでこの研究チームは、フソバクテリウムと付随するほかの細菌種を内包する腫瘍をもつ患者から採取した組織を用いて、新たな大腸がんマウスモデルを作製した。このマウスの腫瘍は患者の腫瘍に由来する細菌を保持した。

抗生物質による治療が腫瘍の増大に与える影響を調べるために、フソバクテリウムを死滅させないエリスロマイシンか、または死滅させるメトロニダゾールのいずれかをこのマウスに投与した。エリスロマイシンはフソバクテリウム陽性腫瘍の増大に影響を与えなかったが、メトロニダゾールは腫瘍に含まれるフソバクテリウムの数も、腫瘍細胞の増殖および腫瘍増大の速度も、両方とも低減させた。

大腸がん治療の新たな標的候補

大腸がん細胞とフソバクテリウムとの関係性の本質についてはまだ研究中だが、相互に利益がある関係性だろうと考えられていると、Meyerson博士は語った。

「腫瘍はフソバクテリウムから利益を得ている可能性が高く、フソバクテリウムが腫瘍に必須の栄養と成長シグナルを与えているのではないかと考えられています」と、この研究には参加していないNCIがん生物学部門のプログラム部長Phillip Daschner氏は述べた。「そして、腫瘍はフソバクテリウムに免疫保護された適切な場所を提供し、そこに細菌がコロニーを形成して消化管の中で増殖すると考えられています」と付け加えた。

この研究の結果から、フソバクテリウムが「大腸がん治療の新たな標的候補」になるかもしれないことが示唆されていると、Daschner氏は述べた。

抗生物質で大腸がん患者においてフソバクテリウムを死滅させる方法は、非常に特異的でなければならないだろうと、Meyerson博士は述べた。広域スペクトル抗生物質は体内の有益な細菌種も死滅させるため、患者に悪影響を与える可能性があり、がん療法への反応に対してまだ解明されていないメカニズムで影響しかねない。

「私たちはそれぞれ体内に非常に複雑な微生物叢をもっています」とMeyerson博士は語った。「微生物叢には標準的なバランスがあり、標準的な微生物叢がある程度私たちを守ってくれます」。

フソバクテリウムを特異的に死滅させる方法でがんに付随する細菌共同体のみを破壊することができたら、「体内のほかの細菌に大きな影響を与えることなく、がんだけに影響を与えることができるかもしれません」と結論した。

細菌が化学療法抵抗性の一因かもしれない

Science誌に9月15日に発表された研究によると、数種類の細菌が化学療法薬ゲムシタビン(ジェムザール)を分解し無効化することを、NCIが一部出資した国際研究チームが明らかにしたという。大腸がん異種移植片にこうした細菌がコロニー形成したマウスモデルでは、抗生物質シプロフロキサシンがゲムシタビンに対する腫瘍の感受性を回復させた。

ゲムシタビンは膵がん治療に多く使われているため、この研究グループは、患者から採取した膵腫瘍検体における細菌の保有率を調べた。その結果、検査した113検体のうち、76%がいずれかの細菌について陽性だったことが明らかになった。さらに、細菌陽性を示した15検体を追加で解析したところ、93%にゲムシタビンに対する完全抵抗性を示すことが実験的に明らかになっている細菌が含まれていた。

「ヒト腫瘍に細菌が存在すると、腫瘍中の薬物濃度が他の臓器の中よりも低くなるという矛盾が起きるかもしれません」と著者らは書いた。実験では、抗生物質治療によって化学療法への感受性を回復させることができたのだから、今後こうした併用療法を研究する価値はあると、この研究グループは結論した。

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 中村 能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院 消化管内科)

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