大腸がん再発リスクに応じて術後化学療法が個別化できる可能性
ASCOの見解
「この場合、少ない方がいいのです。化学療法が3カ月間長くなることで有害作用が生じます。いまや、結果を損なうことなく多くの大腸がん患者を不必要な副作用から解放できるのです。本試験は、既存の治療を患者によりよく作用させる改良方法となりうる優れた実施例です」とASCOの専門委員であるNancy Baxter医師は述べた。
リンパ節転移陽性大腸がん(ステージ3)の手術後の標準的化学療法は長期間にわたるが、患者によってはその半分の期間しか化学療法を必要としない。12,800人超の患者を対象とした6つの臨床試験を解析したところ、比較的再発リスクの低い患者では3カ月間の化学療法は6カ月間の化学療法とほぼ同等に有効であり、副作用、特に神経障害の発生頻度も6カ月間の化学療法より低かった。
これらのデータは、米国臨床腫瘍学会(ASCO)のプレナリーセッションで発表される。当該セッションでは、2017年度ASCO年次総会の一環として特集した5,000超の抄録から患者ケアに対し最も影響力があると考えられる4つの抄録を取り上げる。
化学療法は大腸がん手術後のがん再発率を低下させる。2004年以来、術後標準治療は6カ月間にわたる併用化学療法(FOLFOX療法あるいはCAPOX療法)となっている。
本試験では、北米、欧州、およびアジアで実施された6つの試験データを統合したが、3カ月間の化学療法が6カ月間の化学療法と有効性が同じであるかを明らかにすることを目的とした。主要評価項目は統計的に立証されていないものの、3年の時点で大腸がんでない確率は3カ月の化学療法では標準的な6カ月間の化学療法よりも低かったが、その差は1%未満であった(74.6% 対 75.5%)。がん再発リスクが低い(本試験では患者の60%)と考えられる患者において、その差はさらに縮まった(3カ月の化学療法を受けた患者で83.1% 対 6カ月の化学療法を受けた患者で83.3%)。
「本知見は、毎年、世界中の大腸がん患者約40万人に対し適用することができます。そのうち60%の患者のがん再発リスクは低く、これらの患者に対し3カ月間の化学療法が新たに標準治療になることでしょう」と本研究の統括著者でミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニックがんセンターのがん専門医であるAxel Grothey医師は述べた。「しかし、リスクの高い大腸がん患者は、本試験の結果についてかかりつけ医と話し合い、自身の志向、年齢、および化学療法忍容能を考慮に入れ、より短期間の治療が適しているかどうかを確認するべきです」。
レジメン中の化学療法薬の1つであるオキサリプラチンの主な有害作用は神経障害であり、しびれ、ちくちく感、疼痛を永続的にもたらす可能性がある。患者のオキサリプラチン投与期間が長いほど、重度で長期間持続する神経障害を生じる可能性が高くなる。神経障害(手足のしびれあるいはちくちく感)は、化学療法を受けた期間が3カ月の患者のほうが6カ月の患者よりも発生頻度が有意に低かった(FOLFOX療法で15% 対 45%、CAPOX療法で17% 対 48%)。
「脱毛などの化学療法の有害作用の多くは時間と共になくなりますが、神経障害は患者によってはその後一生付き合わなければならない副作用になります」とGrothey医師は述べた。
試験について
本試験は、12カ国で同時に行われた6つの第3相臨床試験の蓄積データに関し、あらかじめ計画された前向き解析である。本試験は、いわゆる IDEA共同研究(International Duration Evaluation of Adjuvant therapy)として10年以上前に成立した。運営委員会が試験デザインを監督し、独立した統計センターが6つの臨床試験すべての結果を審査した(6件のうち3件の知見はASCO年次総会で発表される)。本試験は公的資金のみから資金提供を受けた。
「研究が掲げる疑問に答えるためにより大人数の患者を要しましたが、本試験が開始された2007年時点では、世界のどこにおいても、この規模の試験を行うことは不可能でした」とGrothey医師は述べた。「本試験の患者数は12,834人超であり、腫瘍学でのこの種の共同研究としては最大となります」。
主な知見
患者を中央値で39カ月間追跡調査した。全患者における3年の時点での無病生存率は、化学療法を3カ月間行った場合のほうが6カ月間行った場合よりわずかに低かった(74.6% 対 75.5%)。3年無病生存率は、治療期間が3カ月である場合と6カ月である場合との間に差が生じたが、その差は選択した化学療法レジメンの種類により異なった(CAPOX療法で75.9% 対 74.8%、FOLFOX療法で73.6% 対 76.0%)。しかし両治療法における3年無病生存率の差は比較的小さかった。
大腸がんリスクが低い(がんがリンパ節1~3個に転移し、かつ、腸壁を完全に貫通していない)患者において、3年の時点での無病生存率は化学療法を3カ月間受けた患者(83.1%)と6カ月間受けた患者(83.3%)ではほぼ同等であった。
臨床的に重要な(グレード2以上)神経障害の発生率は受けた化学療法レジメンの種類により異なったが、化学療法を6カ月間受けた患者のほうが3カ月間受けた患者よりも常に高かった(FOLFOX療法で45% 対 15%、CAPOX療で48% 対 17%)。
神経障害以外に、化学療法がより長期にわたると、下痢、疲労、医院受診、採血の頻度が高くなり、仕事や社会的交流から離れる期間が長くなります」とGrothey医師は述べた。
「本試験は極めて重要であり、多くの患者の生活に影響を及ぼします。願わくは明日にでもそれが起こってほしいです。また、大腸がん患者に対し、より個別化したアプローチをとることができるようになります」。『治療を減らすことができるか?』という質問に取り組むことは、患者やそのかかりつけ医にとって重要な意味を持ちますが、この種の試験はまれにしか実施されません。これらの質問に対し製薬業界が関心を持つ可能性は低く、これらの試験に対する連邦政府の補助金は重要です」とBaxter医師は述べた。
本試験は英国医学研究会議、国立健康研究所、米国国立がん研究所、イタリア医薬品庁(AIFA)、がん集学的治療研究財団(日本)、フランス保健省、およびフランス国立がん協会(INCA)から助成金の提供を受けた。
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