HER2標的薬併用がHER2陽性大腸がん患者に有効

HER2標的治療剤トラスツズマブ(ハーセプチン)およびラパチニブ(タイケルブ)の併用で、多種類の抗がん剤前治療を受けたHER2陽性転移性大腸がん患者に臨床的有用性がみられたという、HERACLES 第2相臨床試験の最終結果が、2017年4月1~5日の米国がん学会(AACR)年次総会で発表された。

「HER2遺伝子増幅および変異は、RAS/RAF野生型大腸がん(RAS/RAF遺伝子に変異が認められないがん)で6~8%に認められます」と、イタリアのミラノにあるUniversità degli Studi di Milanoの腫瘍内科学教授であり、Niguarda Cancer Center at Grande Ospedale Metropolitano Niguardaの所長でもあるSalvatore Siena医師は述べた。RAS/RAF野生型大腸がんは、大腸がん全体の約60%を占める。

イタリアのCandiolo Cancer Institute and University of Turin のLivio Trusolino医師、Siena医師らのチームが以前に実施した広範な非臨床試験で、HER2陽性大腸がんに奏効するためには複数の作用機序を介してHERタンパク質ファミリーを遮断する必要があることが示唆されている。

これらの非臨床試験に基づき、Siena医師らは、多種類の抗がん剤前治療を受けた転移性大腸がん患者から成る2コホートによるHERACLES臨床試験を開始した。コホートA(L+T)では、患者はHER2標的モノクローナル抗体トラスツズマブ、およびHER1/HER2チロシンキナーゼ阻害薬ラパチニブの併用療法を受けた。コホートB(P+T-DM1)では、患者は別のHER2標的モノクローナル抗体ペルツズマブ(パージェタ)、およびトラスツズマブと細胞毒性薬エムシタビンが結合した抗体薬物複合体T-DM1(Kadcyla)の併用療法を受けた。

「コホートAの最終結果では、L+T併用で患者の70%に臨床的有用性がみられ、30%に全客観的奏効(ORR)が認められました。患者が過去の治療で平均5種類の治療をされていたことをふまえると、これらは非常に良い結果です」とSiena医師は述べた。HER2が高度に増幅された腫瘍を有していた患者では、全奏効率は50%であった。

臨床試験全体のうち、この部分に関する中間結果は、昨年Lancet Oncology誌で発表された。

本試験の全患者がHER2陽性RAS野生型腫瘍を有し、EGFR阻害薬セツキシマブ(アービタックス)またはパニツムマブ(ベクティビックス)を含む標準治療に反応を示さなかった。データカットオフ時点(2017年2月28日)で、コホートAの33人中10人が、客観的奏効を得た(うち2人は完全奏効、8人は部分奏効)。13人は病態安定であった。患者6人に、グレード3の有害事象が発現した。

Siena医師によると、完全奏効がみられた患者2人は、治療開始以来、無病期間がそれぞれ1年、ほぼ4年であった。「いずれもセツキシマブに反応を示さない腫瘍を有しており、すべての標準化学療法に耐性を示していました。これは、HER2標的療法が、この患者集団に対し潜在的な単独の毒性が少ない治療になりうることを意味します」とSiena医師は付け加えた。

「この結果から、HER2増幅が抗HER2療法への効果が期待できる予測因子であり、抗EGFR療法への効果が期待できない予測因子であることも明らかです」とSiena医師は指摘した。

歴史的に、二次治療後の転移性大腸がん患者の奏効率は、化学療法で5%未満、抗EGFR療法を受けた場合、任意抽出の患者で約10%、RAS/RAF野生型患者で20%であったとSiena医師は指摘した。

これまでに、本チームはコホートBに患者10人を登録している。P+T-DM1併用治療を受けて反応が評価可能であった患者8人のうち、7人には臨床的有用性(腫瘍縮小)がみられた。そのうち2人は、すでにRECISTの客観的奏効の基準を満たしたと、Siena医師は述べた。

「HERACLES試験はHER2を標的とすることの有効性を実証したと考えられます。なぜなら、適切な治療に対して適切な患者が選択されたからです」とSiena医師は述べた。「大腸がん患者において転移性がんの診断時にHER2の状態を判定し、HER2陽性であれば抗EGFR薬への反応についての情報を収集することを提案します」。

本試験の制限は、HER2標的療法を用いた併用療法が、HER2増幅大腸がん腫瘍に対してのみ試験され、HER2変異大腸がん腫瘍に対しては試験されていないことである、とSiena医師は指摘した。

本試験は、Associazione Italiana per la Ricerca sul Cancroからの助成を受けた。ロシュ社およびノバルティス社は、試験薬を無料で提供した。Siena医師は試験責任医師であり、アムジェン社、バイエル社、セルジーン社、イーライ・リリー社、メルク社、メリマック社、ノバルティス社、ロシュ社およびサノフィ社の諮問委員会メンバーである。

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翻訳担当者 太田奈津美

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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