DNAミスマッチ修復機構の欠損患者

MDアンダーソン OncoLog 2016年10月号(Volume 61 / Issue 10)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

DNAミスマッチ修復機構の欠損患者

研究によって直腸がんの免疫治療の試験が開始可能に

最近の研究結果は、DNAミスマッチ修復機構欠損(dMMR)を有する直腸がん患者における免疫療法の効果評価の手がかりを提供する。

dMMRのステータスは、大腸がんの重要な予後バイオマーカーとして長く確立されてきたが、dMMRが関与する疾患の治療が飛躍的に発展するには非常に時間がかかっていると、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの外科腫瘍学科の准教授で、この臨床試験報告の上席著者であるY. Nancy You医師は言う。しかしながら最近のがん免疫療法の発展はこのパラダイムを変えつつある。大腸がんや他のがんの早期試験により、dMMRのある患者はない患者より免疫療法、特に免疫チェックポイント阻害剤の反応が良いことが証明されている。現在ではdMMRに関連のある大腸がん患者に、従来の治療と免疫療法の併用、あるいは単独の免疫療法を行う、追加的な臨床試験が急速に進んでいる。

You医師は、「突然、同時に複数の治療の手がかりが出現した。つまり、遺伝学的に定義された患者集団が存在し、彼らに用いられるようになると思われる治療に対して、現象論的アプローチ法が存在する。しかし同時にdMMR直腸がん患者のうちどれほどが従来の治療だけで済まされているのかははっきりしていない」と言う。

そのため、You医師らは、dMMR直腸がん患者の標準的な集学的治療の結果を評価する、レトロスペクティブ試験をデザインした。この情報は、これらの患者が今後新しい免疫療法の臨床試験に組み入れられるとき、比較できる基礎的な情報となりうる。結腸がんのdMMRの意義は大まかに定義されてきた(一般的にdMMR患者はdMMRない患者より予後が良い)が、これらの意義は直腸がんでは知られていなかった。最近の研究により、dMMR直腸がん患者の予後はdMMRのない直腸がん患者よりはるかに優れている傾向が示された。

また、この研究は、dMMR直腸がん患者に現在用いられている集学的治療により、治癒の可能性があることを明らかにした。直腸がん特異的な5年生存率は、ステージ1または2の患者は100%、ステージ3と4の患者はそれぞれ85%と60%であった。ほとんどの患者(95%)には治癒切除が行われ、そのうちのほとんど(66%)が補助化学療法を受けた。ステージ3または4の約4分の3に、フルオロピリミジンを基本にした術前補助化学療法と骨盤への放射線治療が行われた。このレジメンにより28%が病理学的完全奏効を示した。

また、この研究結果により、直腸がん患者のdMMRのスクリーニングの重要性が確認された。dMMRは、リンチ症候群(以前は遺伝性非ポリポーシス大腸直腸がんとして知られていた)、すなわち、患者やその血縁者が生涯に大腸直腸がんや他のがんになるリスクの高い、遺伝性がんの特徴である。リンチ症候群はMLH1、MSH2、MSH6、PMS2などのミスマッチ修復遺伝子の異常により起こる。この研究のほとんどの患者がリンチ症候群であり、そのほとんどがMSH2またはMSH6遺伝子に病原性の生殖細胞系列の変異を持っていた。MSH2やMSH6遺伝子の異常により、患者は大腸がんにかかりやすくなる可能性があるが、それらはまた、他のがんにも関係している。 この研究のdMMR直腸がんのおよそ5分の1が、過去に大腸がん以外のがんの罹患歴があり、さらに本研究のフォローアップ期間中に、あらたな5分の1の患者が大腸がん以外のがんに罹患した。

「これらの患者は他臓器の他のがんについて、生涯サーベイランスが必要であり、彼らの家族にも適切な予防策が取られるようにdMMRが評価されるべきである」とYou医師は言う。(参照 :遺伝性消化器がん症候群クリニック

さらに、「その患者は遺伝学的に非常にはっきりと定義されているので、dMMR直腸がんの経験は他のがんで何が可能かを予見させてくれる。」

「このがんを引き起こすキー遺伝子の欠損は正確に定義出来るので、われわれはもっと正確にその予後や治療薬、反応すると考えられる他の治療、また長いサバイバーシップに関連することを予想することができる。われわれは治療の標的となる新しい経路を見つけるために、他のがんのさまざまな変異を調べているが、直腸がん患者のdMMRスクリーニングが今日ここにある見本である」とYou医師は言う。

For more information, contact Dr. Y. Nancy You at 713-794-4206.

【画像キャプション訳】 大腸がんのDNAミスマッチ修復の標準検査アルゴリズムを用いて、62人のDNAミスマッチ修復異常の直腸がんの患者の研究コホートが特定された。これらの患者のうち42人に病原性の生殖細胞変異が確認された。 略語: IHC, 免疫組織化学; MSI, マイクロサテライト不安定性 医学雑誌J Clin Oncol. 2016;34:3039–3046.より許可を得て使用

The information from OncoLog is provided for educational purposes only. While great care has been taken to ensure the accuracy of the information provided in OncoLog, The University of Texas MD Anderson Cancer Center and its employees cannot be held responsible for errors or any consequences arising from the use of this information. All medical information should be reviewed with a health-care provider. In addition, translation of this article into Japanese has been independently performed by the Japan Association of Medical Translation for Cancer and MD Anderson and its employees cannot be held responsible for any errors in translation.
OncoLogに掲載される情報は、教育的目的に限って提供されています。 OncoLogが提供する情報は正確を期すよう細心の注意を払っていますが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターおよびその関係者は、誤りがあっても、また本情報を使用することによっていかなる結果が生じても、一切責任を負うことができません。 医療情報は、必ず医療者に確認し見直して下さい。 加えて、当記事の日本語訳は(社)日本癌医療翻訳アソシエイツが独自に作成したものであり、MDアンダーソンおよびその関係者はいかなる誤訳についても一切責任を負うことができません。

翻訳担当者 中村奈緒美

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

高用量ビタミンD3に遠隔転移を有する大腸がんへの上乗せ効果はないの画像

高用量ビタミンD3に遠隔転移を有する大腸がんへの上乗せ効果はない

研究要約研究タイトルSOLARIS(アライアンスA021703): 治療歴のない遠隔転移を有する大腸がん患者を対象に、標準化学療法+ベバシズマブにビタミンDを追加投与す...
リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まるの画像

リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まる

私たちの資金援助により、オックスフォード大学の研究者らは、リンチ症候群の人々のがんを予防するワクチンの研究を始めている。

リンチ症候群は、家族で遺伝するまれな遺伝的疾患で、大腸がん、子宮...
マイクロサテライト安定性大腸がんに第2世代免疫療法薬2剤併用が有効との初の報告の画像

マイクロサテライト安定性大腸がんに第2世代免疫療法薬2剤併用が有効との初の報告

ダナファーバーがん研究所研究概要研究タイトル再発/難治性マイクロサテライト安定転移性大腸がんに対するbotensilimab + balstilimabの併用:第1相試...
PIK3CA変異大腸がんでセレコキシブにより再発リスクが低下する可能性の画像

PIK3CA変異大腸がんでセレコキシブにより再発リスクが低下する可能性

ステージ3の大腸がん患者を対象としたランダム化臨床試験のデータを解析したところ、PIK3CA変異のある患者が手術後に抗炎症薬であるセレコキシブを服用すると、変異のない患者よりも有意に長...