局所再発直腸がん
MDアンダーソン OncoLog 2016年4月号(Volume 61 / Issue 4)
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局所再発直腸がん
積極的な集学的サルベージ治療で根治に希望
局所再発した直腸がん患者にとっては、集学的サルベージ(救援)治療(*サイト注:治療の効果がなかった場合、または再発・再燃した場合の治療)が唯一、治癒の可能性がある治療法となる。こうした治療法は、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターを含むごく少数の専門紹介病院で実施している。
「局所再発の直腸がん患者の治療では、治療法を組み立てる上で集学的治療アプローチをとります。この疾患は非常に複雑で、患者は普通、手術、化学療法、放射線療法に加え、再建手術などの専門的な治療を必要とします」と、放射線腫瘍科の准教授のPrajnan Das医師(公衆衛生)は述べた。
「MDアンダーソンでは、かねてより一部の直腸がんの局所進行患者に対して根治を目指す集学的サルベージ治療を積極的に行っています。リスクは高く、サルベージ治療そのものも、初発の治療よりはるかに難しいものです」と、腫瘍外科の准教授Nancy You医師は話した。
再発性直腸がん
局所再発の直腸がん患者といっても多様な集団である。病気の進行範囲、以前に受けた治療、それぞれの患者の腫瘍の生物学的特徴などすべてに違いがある。同様に直腸がんの初回治療が奏効しなかった要因もさまざまである。
「こうした患者は、手術後に合併症が起きたために十分に回復していなかったり、化学療法など術後の治療を受けることができなかったり、最適なル手術や化学放射線療法を受けていなかったりします。あるいは患者の腫瘍が非常に悪性度が高く再発したのかもしれません」と、You医師は述べた。
患者集団の多様性をふまえ、MDアンダーソンの医師らは局所再発の直腸がん患者一人ひとりについて、治癒を目指すサルベージ治療が適しているかどうかを注意深く検討する。この際、重要な要因となるのが手術でR0(がんの遺残がない)またはR1(顕微鏡的遺残あり)を達成できるところまで患者の病巣を切除できるかどうかである。現在のところ遠隔転移、あるいは腫瘍を完全に切除できない、すなわちR2(肉眼的ながん遺残がある)が予見される患者は、サルベージ治療の適応にならない。
根治に向けたサルベージ治療を実施する際には、外科、内科、放射線科の腫瘍医チームが、患者一人ひとりの症例をレビューし、再発性直腸がんの管理手順の枠組み(フローチャート参照)の中で、個人にあわせた治療計画をたてる。一般的には、患者は術前化学療法または化学放射線療法を受け、その後、再び骨盤内手術を行う。手術ではあわせて術中放射線照射や軟部組織再建を実施する場合もある。また多くの場合、術後化学療法も実施する。
「これまでの経験で、こうした集学的アプローチが非常に有効であるとわかりました」と、Das医師は話す。「また治療技術も少しずつ向上しています。手術技法も進化し、より積極的になっています。放射線療法でも攻めの治療を行い、全身療法も進化をとげて向上しました」。
特に化学療法の向上が、サルベージ療法の成功に貢献してきた。「10年、20年前には、5-フルオロウラシル(5-FU)が唯一、直腸がんに使える薬でした。しかしこの10年から15年で、オキサリプラチン、イリノテカンといった細胞毒性を持つより効果的な化学療法薬剤や、ベバシズマブやセツキシマブなどの生物学的製剤ができ、使える薬剤の選択肢が多くなりました」とYou医師は語った。「大腸がんで、こうした薬剤の奏効率も向上しています。また局所再発性の直腸がん患者で、将来の再発リスクを減らす可能性のある術後化学療法を受ける人も増えています」。
局所管理の成功
「以前は、がんがいったん局所再発すると、安全に骨盤内の再手術を行って切除断端を陰性とすることは困難でした。骨盤内の深くて狭いスペースに、ひどい炎症や瘢痕(はんこん)、多数の器官に浸潤したがんがあるためです」You医師は言う。「しかし、これらの患者の治療法で、われわれは大きな改善を達成しました」。
局所再発した直腸がんの治癒目的で手術を受ける患者では、これ以上の再発の可能性を低減するためと腫瘍を縮小させて切除しやすくするための双方の目的で、術前に三次元の原体照射治療(conformal radiation therapy:CRT)または強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy:IMRT)を行う。放射線治療を受けたことがない患者には、通常分割照射法で線量1日1.8 Gyを28日間の50.4 Gyで行うことが多い。ただし、すでに放射線治療を受けたことがある患者の治療は難題である。
「放射線治療で古くからある定説に、身体の一部を一度治療したら、その部位は再度治療してはならないというものがあります」Das医師は言う。
この難題を克服するために、がん放射線医は、線量各1.5 Gyを1日2回で計30–39Gyを照射する過分割加速放射線治療(hyperfractionated accelerated radiation therapy)を行う。分画あたりの線量が低いことで治療による副作用を低減することができる。
「放射線による再治療で重要なことは、いつ、どの患者になら安全に治療を行えるかという知識です。周囲の正常組織に注意する必要があり、忍容できる治療計画の立案にも注意を払わなければなりません」Das医師は言う。「放射線治療は患者に応じて個別化しなければならないのです」。
術中放射線照射-開腹した術野の腫瘍床に照射する放射線治療-もサルベージ手術の成功率向上に効果がある。「再発がんの患者の多くは切除可能な面の直近に腫瘍があり、これは顕微鏡的に腫瘍が遺残する可能性があることを意味します」Das医師は言う。術中放射線照射の目的はこの遺残がんを取り除くことである。術中放射線照射は選択的に用いられる。腫瘍が取り除かれた後、切除断端に近いことがわかれば、高線量率の小線源療法の形で集中照射を行い残存するがんを消滅させる。典型的な例では、この小線源療法は、細く柔軟なアプリケータを通して行う。まず、アプリケータを腫瘍床の表面に固定し、次にアプリケータ内のチャネルにイリジウムの放射性同位元素の小球を通してさまざまな位置に規定時間留める。アプリケータ直下の組織は高用量の放射線を受け、遠い組織は少量または全く受けずにすむ。放射線を照射後、アプリケータを取り除き、手術を完了する。
これらはすべて手術中に行われるため、放射線を照射する領域から正常組織を動かすことができ、影響を受けやすい構造を鉛板で囲って遮蔽することができる、とDas医師は言う。「特に再発直腸がんには、術中放射線治療が極めて有効だということがわかってきています」。
放射線治療の革新に加え、手術手技自体の改善も局所再発直腸がんの治療を進歩させた。You医師は、手術における過去10年間で最も重要な変化は、直腸間膜全切除が重要視されてきて、治癒を目指してさらに拡大し、多臓器切除(周囲の病変器官や構造の一塊[En Bloc]切除)や側方の直腸間膜外組織の切除を行った患者もいることだと言う。
「直腸がんや再発直腸がんの患者の手術を行うときは、腫瘍がある直腸だけでなく直腸を包む脂肪組織内のリンパ節に腫瘍が転移している可能性があるため、確実に脂肪組織全体を取り除きたいのです」You医師は言う。「直腸間膜全切除を行うことで、リンパ節転移の可能性も含めて腫瘍はすべて取り除いたと確信がもてるのです。同じ原則に従い、直腸壁や直腸間膜を越えて広がった再発直腸がんの手術を行うときは、病変がある構造をすべて取り除くことを目指します」。
加えて、術前計画全体が進歩している。「当院では、患者が手術を受ける前に、いつでも他の外科医に関与してもらうことができます」You医師は言い、大腸外科医に加えて他の外科医-泌尿器科医、婦人科医、血管外科医、整形外科医、神経外科医-を呼んで患者の症例を検討することがある点に言及した。「手術前に多分野の専門科からチームを集結し、それぞれの専門家の意見を取り入れ、待機してもらえれば、手術中にその症例になじみがない誰かを呼ばなければならなくなるよりはるかに良いのです」。
患者選択の改善
局所再発直腸がんのサルベージ治療-特にサルベージ手術-成功の鍵は、対象となる患者を適切に選択することである。ただし、サルベージ治療で最もベネフィットが得られそうな患者を特定するのはベテランの腫瘍専門医にとっても難題である。サルベージ治療の対象患者を判断する一助とするために、You医師 、Das医師とMDアンダーソンのチームは最近、MDアンダーソンにおける過去20年にわたる局所再発直腸がん患者の治療経験をレビューした。驚くことではないだろうが、R0(遺残がない)切除の達成と再度の再発回避は、サルベージ治療の長期予後の独立した予測因子であることがわかった。
2005年から2012年の間に治療した患者の5年全生存率(50%)は、1997年~2004年(43%)および1988年~1996年(32%)と比較して有意に高いこともわかった。生存率上昇に寄与する因子が存在し、手術技術、放射線治療の方法や全身への治療の改善に加え、レビューした期間によって、画像診断に著しい改良がみられた。陽電子放射断層撮影(PET)/コンピュータ断層撮影(CT)は今や患者が治癒目的の手術を受ける前に遠隔転移がないことを確認するために用いられており、また、骨盤内の高分解能核磁気共鳴画像撮影(MRI)の鮮明な画像により、外科医は腫瘍が隣接する構造に広がっているかどうか、断端陰性で腫瘍を切除できるかどうかをより深く理解することができる。
課題は残る
局所再発直腸がん患者の治療では、生存率向上の要因となる無数の進歩があるものの、課題も残されている。サルベージ治療が失敗に終わる症例は、遠隔転移によることが多い。サルベージ治療の効果が得られない患者をより正確に特定できる方法-そして遠隔転移により効果が得られない患者の予測因子-があるとよいとYou医師は言うが、遠隔転移したがんそのものに対処できる方法があればさらによい。局所再発をきたした患者の一部には、血液中に腫瘍細胞が存在して手術で除去できず、放射線でも死滅させられないことがある。この血中がん細胞は残留し、遠隔転移を起こす。You医師とチームの医師らは、遠隔転移による失敗率を低減するために、血中の循環腫瘍細胞を特定し積極的な手術に踏み出す前に治療するプロトコルを開発している。
「われわれの疑問のひとつは、手術前に骨盤内放射線照射を行うだけでなく、術前にすべての患者に全身化学療法を行い、術後に遠隔転移を起こす可能性がある微細な血中がん細胞の低減を試みるべきかどうかということです」。
このような進歩は、再発直腸がんの患者の転帰がさらに改善する助けとなるであろう。その間も、再発直腸がんの患者をサルベージ治療の対象と考えることが絶対に必要である。
「初発の直腸がん治療後に再発した患者の部分集団は、サルベージ治療で治癒できる可能性があります。そしてその患者は複数の専門領域からの評価を受ける価値があります」You医師は言う。「われわれは、助けられる患者を助けたいのです」。
—-Joe Munch
治療成功に向けた経過観察
治療を終えた後、ほとんどのがん患者は再発や二次がん発症チェックのため綿密なサーベイランス(定期検査)を受ける。大腸がん治療を終えた患者も例外ではなく、再発を早期に発見することで根治を目指すサルベージ療法が適応となる確率が高まる。
「迅速な診断が非常に重要です」と、消化器、肝臓、栄養科のMarta Davila医師は話す。「診断がつけば、根治に向けた積極的な治療を開始できます」。
MDアンダーソンでは、直腸がん治療を終えた患者は定期的な大腸内視鏡と画像検査によるフォローアップを受けます。「一般的に初回手術から1年以内に最初の大腸内視鏡を行い、その後、5年間は繰り返し検査します」と、同医師は説明した。5年すぎたら、症状のある患者に対するフォローアップ検査の頻度は減らされる。
「非常に体系立ったフォローアップと、集学的なアプローチを持つこと。この2つの要素が、MDアンダーソンを際立たせていると言えるでしょう」と、Davila医師は話した。
【上段図表キャプション訳】
縦軸 全生存(%)
横軸 経過月
集学的アプローチの実施とこれまでの治療改善により、MDアンダーソンで治療を受けた局所再発の直腸がん患者がサルベージ手術を受けた時点からの全生存期間は、コックス回帰解析でみると大幅に延長している(P=.044) You YN, et al. Br J Surg. 2016. doi: 10.1002/bjs.10079より転載。
【中段フローチャートキャプション訳 (上→下、左→右)】
(上から)
臨床的に直腸がんの疑い
生検の組織学的確認
(左から)
評価分析:
胸部、腹部、骨盤 CT
骨盤MRI
PET
生物学的評価:
既往歴
以前の治療、手術及び病理記録
患者の状態評価:
並存疾患
身体機能
優先希望
さまざまな次元での生活の質
集学的評価:
根治を目指すサルベージ療法の適応か?
いいえ:
遠隔転移
R2切除見込み
医学的に不適当である
はい:
術前骨盤内放射線治療(45-50 Gy)
5-FUベースの化学療法
術前過分割
骨盤への再放射線治療(39 Gy)
5-FUベースの化学療法
根治をめざすサルベージ手術(R0)
複数臓器切除、軟部組織再建、術中照射の必要性を考慮
術後化学療法
5-FUベースまたはFOLFOX
MDアンダーソンにおける局所再発直腸がんの管理手順。略語:5-FUは5-フルオロウラシル、CTはコンピューター断層撮影、FOLFOXは5-FU、オキサリプラチン、 ロイコボリン、MRIは磁気共鳴断層撮影、PETは陽電子放射断層撮影。You YN, et al. Br J Surg. 2016. doi: 10.1002/bjs.10079より転載。
【下段画像キャプション訳】
術中照射は、局所再発直腸がんで腹会陰式直腸切断術中にフレキシブル小線源アプリケーター(丸内)を通して行われる。画像はDr. Sam Beddar提供
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原文掲載日
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