大腸がん分子サブタイプ分類についての国際的コンセンサス

現在利用できる最も頑健な大腸がんの分子分類システム

議題:泌尿生殖器がん/トランスレーショナル リサーチ

大腸がんサブタイピングコンソーシアムは、既存の遺伝子発現パターンに基づく大腸がんサブタイプの分類アルゴリズムにおける、中核となるサブタイプパターンの有無を評価するために設立された。また、コンソーシアムの研究者らは、中核となるサブタイプにおける重要な生物学的特性についても明らかにし、他のすべての利用可能なデータ情報(変異、遺伝子コピー数、メチル化、マイクロRNA、およびプロテオミクス)を統合し、それらを比較することで、サブタイプが患者転帰と相関するかどうかを評価することも目標とした。さらに、大腸がんだけでなく他の悪性腫瘍についても、地域ベースの共同のがんサブタイプ分類に有用な枠組みを確立して、分子サブタイプ分類を地域の診療所でも利用できるようにしたいと考えた。

この研究では以下の4つの大腸がんサブタイプが示されている(CMSはConsensus Molecular Subtypes[コンセンサスを得た分子サブタイプ]の略)。

  • CMS1(マイクロサテライト不安定[MSI]の免疫型、14%)―変異率が高く、マイクロサテライトが不安定で、免疫系が強く活性化している。
  • CMS2(標準型、37%)―上皮性で、WNTおよびMYCシグナル経路が活性化している。
  • CMS3(代謝型、13%)―上皮性で、明らかな代謝調節異常が認められる。
  • CMS4(間葉型、23%)―顕著なβ型形質転換増殖因子の活性、間質浸潤、および血管新生がみられる。

混合型の特徴を有する検体(13%)は、おそらく表現型の変化あるいは腫瘍内の不均一性を表している。

CMSの臨床および予後との関連性

コンソーシアムによると、これらのCMSと臨床的な変動との間に重要な関係があることも判明した。CMS1の腫瘍は、女性患者の右側に頻繁に認められ、病理組織学的な悪性度がより高かった。

それとは逆に、CMS2の腫瘍は主に左側にみられ、またCMS4の腫瘍は病期が進行した段階(ステージ3および4)で診断される傾向がみられた。

研究者らはCMS間で転帰が異なるかどうかを判定するため、統合したデータセットと、臨床試験(PETACC-3試験)に登録して統一した追跡を行った患者のサブセットに対しCox比例ハザード分析を行った。

臨床病理学的特性、MSIの状態、およびBRAF変異またはKRAS変異の有無による補正後の単変量および多変量解析において、CMS4腫瘍では全生存率および無再発生存率が、患者コホートを問わず不良であった。

さらに、CMS2の患者において再発後の生存率がより高く、このサブセットでは長期生存者の割合が大きかったことが明らかになった。

特に、CMS1の患者集団は再発後の生存率が極めて低く、この結果は、MSIおよびBRAF変異を有する再発大腸がん患者の予後が不良であるという最近の研究結果と一致している。

遺伝子発現の特性による予後の差は、それぞれのCMSに関連する内在性の生物学的過程の臨床的重要性を確認するものである。

コンソーシアムの研究者らは、生物学的見地から、原発性大腸がんのおよそ85%を占める非MSIのサブタイプの数とその詳細な説明ができるようになった。また、特に間葉系の表現型を欠く検体で、強い分子的な関連性が示された。臨床的見地からは、他の多くのがん種と同様に、大腸がんにおいてどの特徴が細分類に重要なツールになるかは依然不明である。

大腸がんにおいては、既にいくつかのバイオマーカー(RAS変異、BRAF変異、MSI、CIMP[CpGアイランドメチル化形質]など)が患者ケアに利用されている。強調すべき重要な点は、たとえCMSグループがいくつかのゲノムマーカーおよびエピジェネティックマーカーに富んでいるとしても、CMSとマーカーの関連によって遺伝子発現のサブタイプ分類ができないということであり、したがって、転写特性によって、疾患の細分類を現存する有効なバイオマーカーで得られる以上に改善できるという見解が裏付けられる。

例えば、野生型RASを有する腫瘍は、進行がんにおける治療の決定を下すという目的において均一なものと考えられているが、薬物に対する反応が不均一になると思われる大きな生物学的な差がCMS間で認められた。

分子的注釈を付与した最大の大腸がん患者コホートにおける共同によるバイオインフォマティクスの今日までの働きと、個別の研究者らによる過去の研究努力の積み重ねにより、コンソーシアムの研究者らによる分析が、ほとんどの腫瘍を4つの頑健なサブタイプに分類できるコンセンサスを得た分子分類システムの確立につながった。

それぞれのサブタイプについて、内在性の生物学的な根幹の違いは、大腸がんの新しい分類法を支持する。コンソーシアムの研究者らは、この新しい分類法が大腸がん分野の今後の研究に寄与すると確信しており、がん治療の世界で大腸がんの分類にこの分類法を採用すべきであると考えている。

参考文献
Guinney J, Dienstmann R, Wang X, et al. The consensus molecular subtypes of colorectal cancer. Nature Medicine 2015; Published online 12 October. doi:10.1038/nm.3967

翻訳担当者 小石みゆき

監修 林 正樹(血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

大腸がんに関連する記事

高用量ビタミンD3に遠隔転移を有する大腸がんへの上乗せ効果はないの画像

高用量ビタミンD3に遠隔転移を有する大腸がんへの上乗せ効果はない

研究要約研究タイトルSOLARIS(アライアンスA021703): 治療歴のない遠隔転移を有する大腸がん患者を対象に、標準化学療法+ベバシズマブにビタミンDを追加投与す...
リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まるの画像

リンチ症候群患者のためのがん予防ワクチン開発始まる

私たちの資金援助により、オックスフォード大学の研究者らは、リンチ症候群の人々のがんを予防するワクチンの研究を始めている。

リンチ症候群は、家族で遺伝するまれな遺伝的疾患で、大腸がん、子宮...
マイクロサテライト安定性大腸がんに第2世代免疫療法薬2剤併用が有効との初の報告の画像

マイクロサテライト安定性大腸がんに第2世代免疫療法薬2剤併用が有効との初の報告

ダナファーバーがん研究所研究概要研究タイトル再発/難治性マイクロサテライト安定転移性大腸がんに対するbotensilimab + balstilimabの併用:第1相試...
PIK3CA変異大腸がんでセレコキシブにより再発リスクが低下する可能性の画像

PIK3CA変異大腸がんでセレコキシブにより再発リスクが低下する可能性

ステージ3の大腸がん患者を対象としたランダム化臨床試験のデータを解析したところ、PIK3CA変異のある患者が手術後に抗炎症薬であるセレコキシブを服用すると、変異のない患者よりも有意に長...